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はじまりはじまり。小さな冒険?

225、帰っておいで。

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「奪われた…?」

『あの子達は墓守…守ることに自らの存在意義を見出してるおとなしい子達です。彼らの宝を奪い去った者達に襲い掛かっているだけで、反乱の手伝いも、防衛の手伝いもしているつもりはありません』

『信仰も政治も何も関係ないんです。ただ、宝を返して…帰してほしいだけ』


ルナは『返す』ではなくて『帰す』と繰り返し言っているけど……教会は、妖精の子でも誘拐してるんだろうか?
……あ、でもあれって、そもそもどうやって捕まえるんだ?

妖精自体、大人というか成体になっても思考や行動は人間から見れば純粋?真っ直ぐって言うのかな?なかなかに子供っぽいんだけど。
そんな彼らの子供ってなると、自然発生する光の塊みたいなものだったと記憶してるんだよね。
それこそはっきりとした意識も、言語も持たない赤ちゃん。

ほら、よくエルフや精霊、妖精のイラストなんかにさ、キャラの周囲にほわほわ~って蛍のような光の粒が浮遊しているように描かれてたりするでしょう?
今世こっちの絵画にも同じように描写されることが多いんだけどさ、あれが妖精の赤ちゃん。
綺麗なもの、純粋なもの、強い願いや強い魔力に無意識に惹かれて姿を現す、普段は不可視の存在。

絵的には人物のオーラ的な表現になるのだろうけど、妖精の赤ちゃんはそうやって自分の好きなものを少しずつ身体に取り込んでいって、成体へと成長していくんだ。
だから、妖精の成体が持つ『属性』もしくは『魔力』を利用しての実験というのは聞いたことがあるけど、妖精の赤ちゃんとは言え、そもそも魔力も属性もほぼ持ち合わせていない状態で何の研究に使うんだろう?


「どういう状況なのですか?」

「どうもなにも……王都とその周辺を黒い影のような獣が駆け回っているんだよ。宰相とうさんが言うには、獣のターゲットとなっているのが教会とつながりのある者ばかりで、稀にリスト外の者も襲われているが、調べると裏では……と言った感じで、一般市民への被害は出ていないのだけどね」

「あの黒いの…まだ暴れてるのか…」


ルナを加えてのレオンハルト王子とヴィンセント兄様の会話は続いていくわけだけど、正直なところ、教会関係の、しかも悪さしてた人たちが炙り出されるかのように成敗されていると聞こえたので、むしろ頑張れと言ってしまいたい。

ふと部屋の奥へと消えていったフレアが、にこにこと配膳用のカートにお茶とケーキを運んできた。
……って、そのケーキとお茶、何処から?!


「まぁ捜査して地道に…というのが一切省略されての一掃だから、聞こえはいいんだが。襲われた者達の状態がよろしくない。治癒の手ヒールでも回復しない。麻痺でも毒でも無さそうだし。で、手の施しようがないんだ」

『あれは「全てが面倒」になっているだけなので、治療の必要もないです』

「呼吸すら面倒になってるって事かぁ……」


大丈夫だよ。
面倒なだけだもん。
必要に駆られたらきっと最低限の呼吸はするでしょ?って放置したい。


(むしろ兄様達を「悪い人なんだからほっとけば良いよ!」と説得してしまいたい)


『籠』の被害を受け、命までもを失う事となってしまった何の罪もない子達のことを考えると、そもそも「助けたい」の言葉すら浮かばない。
助かった子達だって、心に深い傷……何らかの後遺症だってあるかもしれない。
許せないんだよね……。


「しかもだよ?そうやって全てが面倒になってるやつが街のいたるところに転がってるんだよ」


言うだけ言って頭を抱えてしまうヴィンセント兄様と困り切った表情で答えていくルナ。
レオンハルト王子と私は目の前に置かれたケーキと紅茶に手を伸ばす。
起きてから思っていた以上に緊張していたのか、ケーキが異常に美味しく感じた。


『本来は遺された者へと贈る祝福です。家族を失った悲しさから頑張り過ぎないために。ショックで立ち止まってしまった者が、ゆっくりでも歩き出すための力になるように』

「つまりその祝福を、力一杯受けてしまったのが今の姿、と?」

『そうなります』

「祝福…でもまぁこれも祝福か、誤った道を正す為の祝福……うーん」


それでも犯した罪を明らかにしてあげないと、生きて助かった子はともかく、亡くなってしまった子達の被害を救い上げることができなくなってしまう。
それに、きっと私が知っていることだけが『教会の悪事の全て』というわけではないだろうし。


(わかるだけの情報を引き出して、救えるだけの被害者を救い上げたい)


そして新たな被害が出ないように……しっかりと対策を練って欲しい……。
それでなくても宗教関係って良くも悪くも面倒なんだから。


「しかし…なんでこのタイミングなんだ」

『それは……墓荒らしを彼らに引き渡したところ、微量ですが彼らのずっと探していた宝の匂いがしたらしく』

「逆鱗に触れちゃった。と……」

『はい…静止の声も届かないほどに激怒しています』


頭を抱えたり、呆れて頭をわしわしと掻いてみたりと呆れるにしてもいろいろ忙しいヴィンセント兄様。

それでもしっかり私は膝の上に捕獲されているので、黙ってそのままケーキを食べていたのだけど、ふと視界の端にフレアが映り込む。
何故か……肩がけの麻でできた大きめの鞄と、手にも大きめのカゴを持ってにこにこと楽しそうに奥の部屋へと移動していく。
そのどちらにも何かをぱんぱんに詰め込んでいて……一体何をするつもりなんだろう?

少し、不安になった。


「しかし、宝ってなんだい?彼らが守るのは墓に遺体と一緒に埋められた装飾品等の遺品だろう?それ以外、いや、それ以上に大切にしているものとは何だい?」

『それは……』

「遺体……だよね。装飾と遺体以外墓の中に入れるものなんて無いし。きっと、王都中の墓の中、空っぽなんじゃないかなぁ……あぁぁ」


ヴィンセント兄様の質問に答えにくそうにしているルナとを見ていると、背後のベッドからあくび混じりの声が聞こえてきた。
振り向くと、いや、ヴィンセント兄様の膝にいるからね、兄様が振り向けば強制的に振り向かされちゃうわけですが、その視界の先には思いっきり寝起きで、眠い目をこするユージアがいた。


「あ、ユージアおはよう」

「レオンおはよう。セシリア……朝ぶり?」

「おはよう?おかえり?」

「おかえりではないと思いたいなぁ……」

「ああ……この子がハンス先生の…って、ちっちゃいな!」


そういえば、なんでここにユージアがいるんだろう?
寝起きに寝ぼけすぎてて、ベッドにいたことにも全く違和感なかったし。
あれー?

疑問に思っている私を抱えたままヴィンセント兄様は立ち上がると、ユージアの元へと近づいて行った。
またドレスシャツ一丁になってる。
ユージアも途中で寝ちゃったクチだなぁ。

本当、何がどうなって、私達はここで寝てたんだろう?


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