219 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?
219、一転。
しおりを挟むユージアの意見に賛成!と返事をしようにも、すでに眠さが限界で喋っても呂律が回らない自信があった……。
指1本ですら、動かしたく無いと思うほどに身体が重い。
「あははっ。エルはさすがに限界だねぇ。そのまま寝ちゃえば良いと思うよ!」
「ごめん……」
「謝る必要はないと思うよ。あとでその分頑張れば良いんだよ……頑張ったから眠いんでしょう?ありがとう」
ユージアの声を耳にして、ほっとしたのか完全に目蓋が閉じてしまった。
気怠い感覚がとても心地良くて……それでも会話が、父様とルーク先生の状況が気になっていたので必死に耳だけは、と完全に意識を手放すことがないように、堪える。
結界で守られた中で僕たちがのんびりしている間、父様とルーク先生はかなりの数の相手をしていたし、魔術師団員も健闘しているようだった……こちらは正直どっちが味方だったのか、見分けがつかない部分もあったのだけど。
「ねぇ、レオンはどうしてそんなに……戦いたいの?…」
「……少しでも力に…僕は、強くならないといけないから」
「強さっていろいろあるよね。あそこの化け物2人組は強いよ。強いからこそ、相手を殺さないようにして戦うから、手間取ってる。もっと強い存在で言えば……龍はもっともっと強いけど、強い龍ほど争いを嫌うって聞いたよ」
「そうね、私は争い好まないわ。でも今は、子の守りを引き受けてしまったのだけどね」
ふふふ。と優しげな声でゆっくりと、龍の奥方が話す。
……そうだよなぁ。
国を一つ守護してしまうことができるような存在が好戦的だったら、ぞっとする。
守護ではなくて攻撃されたら、きっと、ひとたまりもない。
まぁ、龍の仲間でも知能の低い者なんかは、交戦的な種族も多々いるみたいだけど。
それでも嬉々として人に襲いかかる、というのはあまり聞かない。
「ね?いざという時の戦力になるように、訓練はさぼっちゃダメだけど、でも今は王子の『いざという時』ではないと思うよって……何だあれ!」
「うわっ!?」
ユージアの声と、どん。という地面からの衝撃にびっくりして眼を開くと、結界の形がはっきり見えるほどの大きな火球に、あたりが包まれていた。
「さすが…龍の障壁は頑丈だなぁ…僕には無理そう…じゃなくてっ!何あの黒いの!!」
さっきまで優しげに楽しげにと、努めて明るい声で喋っていたユージアの声が、完全に恐怖の色に変わっていた。
その声色に驚いて、思わず僕も眼を開けた。
……先ほどと全く違う光景に、唖然とする。
「なに…あれ」
「犬か?いや、ヘビみたいのもいるなぁ」
小春日和のほんわかと温かな日差しに、芝生、そして果樹や背の高い樹々に覆われるような構造になっていて、そして今はその果樹の花が満開、見頃を迎えていて……ひらひらと風に遊ばれるようにして、大量の花吹雪ができてたはずなのに。
空は曇ってもいないのに暗く、遠目に黒く蠢めくようにぞわりぞわりと、黒い動物たちが疾走してくる。
しかもこちらへと一直線に。
中庭へと雪崩れ込むように集まりつつあった、敵味方混ざり合った人の群れが、その黒い群れに飲み込まれると戦いあっている、その片方のみが突然、崩れ落ちていく。
『……ルナだよ』
「うわぁあっ!」
突然、予想外の声が聞こえて、思わず飛び上がる。
声の主は……金髪の男の子の精霊だから…確かセシリアの精霊でフレアだった気がする。
セシリアは寝てるのに。また暴走中なのだろうか?
『王子、戦いに今すぐ貢献したいなら、少し魔力貰えないかな?エルもユージアも。もらったらこの戦いをすぐに終わりにできるよ』
「……終わったら、寝て良い?」
思わず聞いてしまう。
眠さ限界なので、寝れるなら寝てしまいたい!
もう、そんな風にしか考えられらいほどにとにかく眠い。
「ゼンの背中ベッドは、まだ空きがあるよ!」
「ちょ!おい……僕は歩くベッドなの…?」
『倒れたら危ないからそのままね。手を……』
ユージアの軽口にゼンナーシュタットはジト目になった。
そして……順にフレアの手を握る。
僕もフレアと手を繋いだ直後から、トドメとばかりに倦怠感がさらに酷くなる。
『ユージアもおやすみ』
「おやすみって…ああもう!そんなに吸われたら…無理っ!着替え持ってきてないのに!!」
そう言いながら、ユージアも大きな杖を抱え込みながら身体を縮ませ、ゼンの腹へと倒れ込んで行った。
完全に身動きが取れなくなった視界の先で、満面の笑みを浮かべるフレアが龍の奥方へ礼をして彼女の張った障壁から抜け出ると、ルナへと姿を変えた。
そして……
薄れゆく意識の中、あまりの眠さに呂律の回らなくなっている中で…眼前に広がる惨状に、それぞれぽつぽつと言葉を呟くと、完全に意識を手放した。
「あれは無いわ……」
「ああ、無いな」
「地獄絵図っていうんだよね?こういうの……」
「阿鼻叫喚、かもしれないよ?」
「「「でも、無いわ……」」」
0
お気に入りに追加
626
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る
堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。
彼は新興国である新獣人国の国王だ。
新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。
過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。
しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。
先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。
新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。
みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。
主人公は断罪から逃れることは出来るのか?
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
運命の番でも愛されなくて結構です
えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。
ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。
今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。
新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。
と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで…
「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。
最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。
相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。
それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!?
これは犯罪になりませんか!?
心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。
難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる