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はじまりはじまり。小さな冒険?

206、属性。

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「たて…た。なんとか、うん……たてた」

「ふらふらだね~!とりあえずさ、属性検査だっけ?やっちゃおう?気になるし」


感覚としてはまさに産まれたての仔鹿のような足取りで、ぷるぷると石版の置かれたカートの近くまで移動していく。
カイルザークが手を引きながら支えてくれてるけど、絶賛大爆笑中の私の膝は、力が入らなくて…まともに歩けない。

カイルザークに手を引かれて……よちよち歩きからの歩行訓練のようになってしまっていた。


「ぶっ…セシリア…ごめっ……ぶはっ!」

「いや……流石にそれは、笑っちゃダメだよ…?…レオン……ははっ」


レオンハルト王子、あとで覚えてろよ?と思ったのは内緒にしとく。
って…なだめるふりして一緒になって笑ってるエルネストも…覚えておきなさいよ……!?

でもまぁ、レオンハルト王子…そうやって笑ってた方が素敵ですよ。可愛いし。
もともときらきら王道の王子様!って感じの整った顔立ちに明るい金髪で、将来有望なの確定な可愛らしさなんだからさ。
その笑顔は見惚れてしまうくらいにとても素敵なんですからね?


(まぁその笑いの対象が私だっていうのが解せないんですけどね。今回はともかく、普段はそこまで爆笑されるような事はしてないはずだよ?!)


そんな必死に歩いている私の背後から、ルークと父様達の会話が耳に入った。


「そうだな……宰相も、よろしいか?この後、アレの回収部隊も組織しなければならないから、早く終わらせないと…人が足らん」

「わかった。記録の立ち合いが終わり次第出発出来るように手配しておこう」

「それにしてもアレって…」

「まぁ、アレだよな。まさか王子にまで暴言を吐いてたとは思わなかったが」

「そうか?ずっと否定的な言動ばかりだったじゃないか」


そういう人がいるってことを知っていて、あえて泳がしていたって事は……騎士団内でも教会とつながりのある人たちが暗躍していたという事なんだろうか?
ふと考えが浮かんでしまって、父様の方へと振り向きかけて、ぷるぷる歩きが止まりかける。


「……こんな陽気の下で…子供の前で話すような内容じゃないよねぇ」


足をまっすぐ目的の場所に下ろすことばかりに集中していた私は、カイルザークの声に顔を上げる。

小春日和の昼下がり。
しかも木漏れ日のふりそそぐお昼寝に最適な環境!……じゃなかった、勉強に来てたんだった。
でも、枝葉の隙間からこぼれおちる陽に、春風に遊ばれた林檎の花びらがひらひらと舞っていて、その様子だけでも心奪われてしまうほどに、素敵な陽気なのだ。
そんな中でのこんな物騒なお話は、心の底からご遠慮願いところではある。


「まぁ……ね。カイ…カイは辛くなかった?」

「昨日話したでしょ?偏見や差別はいつもの事だよって。……それに今回はルナもセシリアも怒ってくれたでしょ?だから、僕は全然、辛くないよ?」


ふわりと満面の笑みを浮かべる。
本当かなぁ?
大人びてるなと思っていたシュトレイユ王子以上に我慢して流してるだけとかじゃないでしょうね?

カイルザークのしっぽは木漏れ日をうけて、時折銀色にきらきらと輝きながら嬉しそうに大きくゆらゆらと揺れている。
けど、王子と違ってカイルザークの中身は本当に大人だもんね。


「じゃあ、さっきいわれてたこと、おしえて?」

「内緒」


笑いつつもひょこりと、一瞬耳が下がる。
それは一瞬だけですぐに元に戻ったけど、やっぱり言えないと思うほどのイヤな言葉だったんじゃないの?


「いえないの?」

「……いまさら、振り返す必要も無いって事だよ。僕は満足だもの」

「エルも、そういうとおもう?」


ん~。と、唸りつつ小さく首を傾げられてしまった。
団員に何かを叫ばれた時に、怒ったカイルザークとは対照的にエルネストは哀しい顔をしてたのよね。
エルネストなら……教えてくれるだろうか?


「エルなら……そんなことより、ルナやヘルハウンドようせい達が連れて行ってしまった団員を心配してそうだけどね」


確実にあっちの方が酷い目にあってそうだし。そう言いながら、背後で魔術師団の団員達に囲まれるようにして笑い転げている2人の子供へと視線をやる。
……レオンハルト王子…ちょっと!いつまで笑ってるのよっ!!!
エルネストはそんなレオンハルト王子を介抱しつつ、一緒になって笑い続けている。


「あっ……そんなきもする……エルは、やさしいもんね」


犯罪奴隷運搬用の荷馬車にいた時も、自分の事より真っ先に小さな子供達の心配をしていたし。
それは良い事だけどさ、たまには自分の心配もして欲しいと思うんだ。
自分だって子供なんだから。

ふと、その心配をされる対象に自分とカイルザークも入っている事に気付いて、さて、エルネストに自分のことだけを考える瞬間はくるのだろうかと、唸りそうになったところでカイルザークの歩が止まった。


「……っと、座れる?」

「う、うん」


ゆっくりと支えにしていた手の高さが下げられて行き、なんとか芝生の上に座った、というか崩れ落ちた感じ?

そろそろ自力歩行くらいはできるように復帰したいんだけどな……そう思いつつも、実際のところは単純に魔力切れからの気絶を免れただけだった。
気を抜けばすぐにでも眠ってしまいそうな強い眠気に常に襲われ続けているし、さっきもカイルザークと歩いてはいても、ふわふわと雲の上でも歩いているような感覚で、意識も身体も半分はすでに夢の中にいる状態となっていた。

このままパタリと芝生の上に倒れ込んだら、そのまま即、意識を失う自信がある。
まばたきごとに、意識が遠のきかけるとか、凄いよね?


「ありがとう!カイがんばってね!」


気づけば属性検査に使われる石板の置かれたカートのすぐ近くまできていて、父様もルークも「いつでもどうぞ」と言わんばかりにこちらを見ていた。


「何を頑張るんだろうね?ははっ」

「あっ……そうか、はかるだけだもんね。でも、たのしみね!」

「じゃ、ちょっと待っててね」


そう言うとくるりと方向転換をすると、カートの前へと進んでいった。
スキップでも始めそうなほどに、軽やかに楽しげに歩く動きに合わせて、木漏れ日を浴びてふわふわの髪がきらきらと輝いていた。

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