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はじまりはじまり。小さな冒険?

200、訓練。

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ルークの後を追いつつ、中庭へと面した廊下へ出ると、一気に周囲の景色が視界へ飛び込んでくる。

ここの庭園は今まで王城で見ていた形式の庭園とは少し雰囲気が違っていた。
低木の庭木ではなくて、果樹や、葉色の綺麗な背の高い樹々がアクセントに使われていた。
今はその背の高い樹々たちが満開の時期を迎えていて、迫力もさる事ながら、風に遊ばれながら優しく散る花吹雪がとても見事だった。

梅の花……この時期だと違うかな。
横に強く張ったしなやかな枝一面に、真っ白よりは気持ちだけ桃の色が混じった花を咲かせた樹が、ほのかに甘い香りを漂わせている。
林檎、かな?

前世にほんの自宅の庭に林檎、植えてたなぁ。


「きれい……」

「セシリア、ほら、行くよ!」


思わず見惚れて止まりかけた私の手をカイルザークに引かれる。
それに釣られるように、反対側の手で繋がっていたシュトレイユ王子も一緒に引っ張られていく。


「ねぇ、セシリア。カイはエルの弟だよね?」

「うん、おとうとだね」

「じゃあ、カイはセシリアの弟?兄?」

「う……「弟だよ」」

「カイのほうがお兄ちゃんっぽいのにね」


私の返答より先に、すかさず答えるカイルザークにシュトレイユ王子がにっこりと笑う。

そうだよね、やっぱりそう見えちゃうよねぇ。
ちなみにこっちの暦は、前世にほんのと一緒で、12カ月ある。
歳の数え方もほとんど一緒。
1~3月が早生まれって呼ばれるのも一緒。

獣人は早生まれが多い。
人族と違って恋の季節というのが大体決まっている種族がほとんどで、出産の時期も春と秋が多い。
春一番に生まれてくる子が賢くて優秀に育つという話も聞いたことが……でもこれ、前世にほんでも犬と猫の生まれる時期の話で聞いたことがあるんだよなぁ…。
ペットと一緒に考えてしまうのは獣人に失礼なんだろうけど『春一番の犬や猫は賢い』って。


(もっとも、最近のペットたちであれば、毛柄や体型にバリエーションが豊富だし、どんな仔でも可愛いんだけどね)


私の世代でのペット……猫でも犬でも、ペットという役割の他に、家の番をしてもらうという目的も強かったから、賢い仔が好まれたんだ。
特に私の祖父は猟銃を使っての狩りなんかもしていた人だから、番犬の役割の他にも猟犬としても動ける仔が好まれていた。


(だから、近所で室内飼いされていた小さくて真っ白なマルチーズという犬を初めて見たときは、犬と思えなかったんだよね)


あんなに小さくてふわふわさらさらで……しかも室内で、あの仔は何のお仕事をしている犬なのだろうか?と思わず考えてしまった記憶がある。

あ、そうそう、番犬っていうのもね、泥棒よけが目的じゃないんだよ。
まぁ泥棒よけもあるとは思うけど。
害獣除けっていうのかな?
地域にもよるけど、蛇とか狸や猪とか鹿とか……猿とかが来ないようにするためなんだ。

うちは主に、猪とかイタチとかだったのかな?


(ぶっちゃけ、爺ちゃん自慢の賢い犬いいこがいてくれたおかげで被害がかなったから、話で聞くだけで詳しくは知らないんだけどね)


でも、その仔が亡くなってしまった翌年の春、玄関ドアを開けたら目の前にスズメの巣を狙った蛇の長い胴体がぶら~んと、ぶら下がっていた事があった。

つっかけを履いて、納屋へ道具を取りに玄関から飛び出そうとしていた母は、顔面すれすれでぶらぶらしている蛇の胴に気づき、絶叫していた……。


(……その母の絶叫で昼寝から驚かされて起こされた挙句に『早く処理しといて!!!』とパニック+キレ気味の母に、蛇を裏山へ捨てに行かされる羽目になった私は悪くないと思う。飛んだとばっちりだった酷い思い出だわ……まぁ、後で我に返った母からは謝られたけど。母さん、蛇苦手だったもんね)


今まではそんな事は全くなかったから、蛇除けも頑張ってくれてたんだと思う。

ちなみにその年は、畑のとうもろこしも全滅した。
綺麗に並んで穂のような花をつけていたトウモロコシが、ひと区画全て切り倒されて実が無くなっていた。
一見して人の嫌がらせかと思うくらいに綺麗に切り倒されていたのだけど。


「根元と実がついてたところを見てみろ。これは人の切り方じゃねえ」


(実まで背が届かないから)同じ高さのあたりで綺麗に切り倒して……しっかり倒してから実を美味しく頂いた跡だと説明された。つまり、これは猪の食害だった。

……高齢になり、足腰が弱ってきていた猟犬を労わりながら
「こいつが動けなくなったら俺も一緒に引退だ!」
と、寂しそうに笑っていた祖父は、食害の被害の酷さに唖然として、あっさりと猟師として復帰した。

次の仔も春一番の生まれで、とても賢く育ったが……祖父との狩りに同行することは無かった。
……今度は祖父が身体を悪くしてしまったからだった。


(懐かしいな。この仔も狩りこそ爺ちゃんとは行けなかったけど、しっかり寄り添ってくれた。盲導犬か介助犬ですか?と思うくらいに、爺ちゃんが亡くなるまで甲斐甲斐しく傍に居てくれた。私はそういう姿を見て育ってしまっているから、爺ちゃんたちが言ってた通りに『春一番の仔は賢い』これは験担ぎの一つだとは聞いているけど、案外本当なんじゃないかな?と思ってる)


っと、一気に思い出された記憶に思わず浸りそうになったけど、考えを戻す!

カイルザークは確かギリギリ早生まれで3月だったはずなんだ。
ちなみにセシリアわたしは……私も春生まれなんだけどさ……4月です。
つまりほとんど1年の月齢差があるんだよね……私がお姉さん!って言う意味でね。

年齢の数え方って1月から始まらない。
年の初めは1月からなのに、紛らわしいよね!


(まぁ、生活の基本が暦ではなく季節と気候だからってのもあるんだけどね)


それでも前世にほんでの常識と妙な合致があると、なかなかどうして興味深いものがある。
ちなみにこっちの世界での4月開始な理由は、春だから。


(春までは雪に閉ざされて、行き来すらできない街もあるから、4月開始じゃないとそういう地域の暮らしが遅滞してしまうからなんだ)


春になればそんな地方でも、雪解けで行商やら人の往来も活発になる。
都会から派遣される学校の先生なんかも赴任できる。
そうやって人々の生活の活動開始になるのが、春だから4月開始なんだよ。

まぁそんな事、学校を卒業してしまえば……年齢はともかく学年的な事は書類等に申告することもないし、あまり気にすることでもないんだけどね。


(そもそもシシリーみたいな孤児が多いこの世界、誕生日自体を知らない子供たちも多いから、気にしようがない)


そういう子たちは、孤児院に保護された日を誕生日にしてたりもするから、正確性という意味ですら、当てにならないからね。


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