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はじまりはじまり。小さな冒険?

194、side エルネスト。おかえりなさい。

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やっぱり、貴族って難しい。
里にいた頃は、自分のことは自分で全てやる。これが基本だった。

『貴族は頭でっかちで、文句を言うだけで何もできない』と街では揶揄する事がよくあるけど、本当に…何も出来ないわけじゃ無いだろうに。
なんでこんな事まで誰かに手伝ってもらわないといけないの?という事まで、専門としたスタッフが雇われている。

それでも自分でできるのだから『そのスタッフの手を煩わせたく無い』と思えば『スタッフの仕事を奪ってはいけない』と注意されてしまう…難しい。
1人でなんでもできることは美德よいことじゃなかったのかな?

セリカは悩み始めたボクの後ろに立って髪を梳くと、ひらひらとしたタイを首へつけてくれた。
着替えくらい自分でできる!と言いたかったのだけど、これは無理だった……。
早く覚えなくては。


「さて、と。今日は少し早めのご飯になります」

「早め…ですか?」

「セシリア様達が王都へ向かって出発したと連絡が入ったそうなの。早めのご飯にして馬車でお迎えに……すぐに出発されるそうだから……どうか、セシリア様をお願いします」


言葉の最後、とても小さな声で祈るように呟かれた言葉にびくりとする。
心配するのは……当たり前か。セリカはセシリアの専属メイドだったと言ってたし。


「ユージアも一緒だから……だい「それが一番心配なのっ!……あ、ごめんなさい」」


突然に発せられた声に、思わずびくりと飛び上がってしまった。


「……だって、あの子ユージアって、見た目はともかくとして、本当なかみはかなり幼いんでしょう?セシリア様と同じくらいって聞いたわ。それではセシリア様のお世話どころか、帰路の足だって引っ張りかねないじゃない!」


ぶつぶつとセリカのユージアに対する愚痴が聞こえてくる。
ユージアにはセリカからの信用が……無いようだった。


「それどころか……セシリア様と意気投合して、2人で暴走してしまったらと思うと気が気じゃ無いんです…」

「それ、すごくありそう」

「でしょう?!」


はぁ。とセリカは深いため息を吐くと、肩を竦める。


「まぁ……悩んでもしょうがないんですけどね。元気だというお話も聞けましたから、一緒に行けない私の分も、セシリア様に『おかえりなさい』を言っていただけると」

「はい」

「あら、お話しをしている間に、ご飯の時間になってしまったわ。行きましょうか」


お話……お話か?まぁ、お話かな?セシリアが心配なのはわかるけどね。
お人形さんのような外見で大人しくて、このお屋敷の人たちからも大事にされてることはわかった。

……大きくなったら、耳としっぽを狙って…あ、いや元々か。
王宮でも襲われてたもんな。
公爵家ここではきっとあからさまな態度でボクを蔑む声は少なくなるだろうけど、耳としっぽは狙われる、主にセシリアに。
こんなモノの何が良いのかわからないけど、これだけは覚悟しておかないといけないのかもしれない。


「おはようございます」

「「「おはよう!」」」


セリカが正餐室のドアを開けてくれて、中に入る。
ちょっと重そうだけど、自分でも開けられると思うんだけどなぁ。
ここは使用人に開けてもらうのが正解なのだそうだ。

少し遅れてしまったのか、すでに食事が開始されていた。


「エル、先にいただいてしまっていてごめんなさいね。予定していたより出発が早まってしまったそうなの……馬車の準備が出来次第出発するから、折角のご馳走が勿体無いのだけど……急いで食べちゃいましょうね」

「クロウディア様、急がなくとも大丈夫ですよ。本日は馬車の中でお昼になると思われますので、バスケットに軽食を多めに包んであります」


……心配するのはそこじゃ無い!いくら仕事とはいえ、心を込めて作った料理を『時間がなかったから』と手もつけずに残す、食い散らかして残す、そんなことは絶対にしたくない。
そう思って必死に、取り分けてもらった朝ご飯にかぶりついていると、セグシュ兄様が少し呆れたような顔をする。


「あー。ね、エルネスト?朝から食欲があるのは良いことだけど……なんか無理して食べてない?」

「……残したら、勿体無いって」

「そりゃ、好き嫌いとか我儘で残すのは勿体無いけど……そうだ!じゃあ少し勉強しようか!この料理は、公爵家うちのキッチンの人たちが作ってくれてるのは知ってるね?」


はい。と返事をしたかったのだけれど、食事を全力で口に詰め込んでしまったので、涙目になりながら、こくりと頷いて見せる。
すると、セグシュ兄様は面白そうな顔で笑うと「ほら、ゆっくり食べながらで良いからね?」と言って話を続けた。


「おかわりをするかもしれない。突然の来客があって、一緒に食事をするかもしれない。と、様々なことを考えながら、もちろん栄養も考えて作ってくれてるのも、わかるね?……そうやって作るって事は、今、正餐室ここで食べてるのは4人だけど、キッチンにはまだまだお代わり分がいっぱい残ってるんだよね?」


話しかけられているのでちゃんと返事をしなければ!と思うのだけど、口に一気に詰め込みすぎた肉がしっかり噛み切れずに、大きすぎて無理に飲み込むこともできなくて、涙目のまま頷くのを繰り返す。
「エル、落ち着いて!落ち着いて!」とセグシュ兄様が、笑っている。


「……僕にはエルが、その残ってしまった食事の行き先を気にしてるんじゃないかと思ったんだけど、どうだろう?」

「あぁ……そうか、公爵家うちでは、余った料理はそのまま、使用人達のまかないへと回される事になっている。こんなに手が込んでいて美味しいものを手も付けずに捨ててしまう事には、絶対にならないよ……逆に、私たちの食事の後には使用人たちへまかないとして出されてしまうから、昼に『朝食べたシチューが食べたい!』と言っても同じものは出てこない。……だから、このメニューが美味しくても食べれるのは今だけだぞ?」


ガレット公爵まで面白がるように笑っていた。
その様子をにこにこと眺めるようにしていた大聖女も、優しげな笑みを浮かべると話を始める。


「それにね、残すのは作ってくれた料理長たちにはとても申し訳ない事だけれど、今もし、私たちがここで残すことになってしまったとしても……残してしまったものも、そのままゴミにはならないのよ」


これも使用人が食べちゃうの?!と、びっくりして自分の背後へと振り返る。
ボクの背後にはセリカを含めた使用人が、給仕のために数人待機していた。
……セリカと目があうと、凄い勢いで首を横に振られてしまった。


「まてまて……使用人たちが食べる!ってわけじゃないからね?家畜の餌になるんだよ。けどね、だからっていっぱい残しまくると、今度は家畜たちの舌が肥えてしまって、いつもの餌が食べられなくなっちゃうって怒られちゃうから、残すのはあまりよくない事だけれどね」

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