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はじまりはじまり。小さな冒険?

190、side エルネスト。立場。

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「……平民であれば、それが子の成長の証ともなりますが。貴族の場合は、身嗜みを重視致しますので、粗相の無いように大人であってもお手伝いが入るのが基本となりますね」


首から肩まわりを強めに掴まれると、力が抜ける……。
猫系の獣人の子供も同じなんだろうか?メイドは手慣れた動作で、ボクを抱え込むように身体を洗い始める。


(手伝いにしてもこれは完全に、赤ん坊の洗い方だろう!)


やめて欲しくて抵抗しようにも風の乙女シルヴェストルによって四肢の力が疲れ切った状態のように力を抜かれていて、かろうじて首が動かせる程度だった。
そんな様子をにこにこしながら眺めてる風の乙女シルヴェストル


『ほら、これからは・・・・・当たり前らしいわよ?』

「でもっ…!この洗い方はっ…」

『……そんなに恥ずかしいなら、恥ずかしく思えなければいいのよね?……ちょっと意識も奪ねむっとく?』

「それはやめてっ!」


いたずらっぽく笑う風の乙女シルヴェストルが指をまたくるくると回し始めたのを見て、に思わず悲鳴のような声が出る。
妖精や精霊は、時に相手にとって残酷な手段ですら、親切なつもりで行動してしまう。よく聞くけど……本当らしい。


『それにしても、綺麗ねぇ…ね、しっかり磨き上げてね!その毛並み、とても珍しいのよ?』

「かしこまりました」


風の乙女シルヴェストルは空中に見えない椅子があるかのように、ふわりと座っている体勢になると、両足をぱたぱたと揺らしながらこちらを見ていた。


「えっと……」

『なぁに?』

「珍しいって?」

『あなたの種族のその色は、とても珍しいわよ?……そうねぇ、見るのは1000年ぶりかしら』

「1000年って…」


そりゃ『忌み子』だからな。
そんなぽんぽん生まれてたら、困る。
困るけど…1000年ってすらっと言えるこの精霊の寿命の長さにも、唖然とした。
長命な精霊ほど、魔力も強く、格が高い。
……怒らせたら、怖い。

ぞわりと寒気を感じた所で、風の乙女シルヴェストルがうっとりとした口調で呟いた。


『……成長が楽しみだわ…ふふふっ』

「どこ見て言ってるんだよっ!?」


……この後、のぼせてぐったりとするまで、違うな…メイド達が満足するまで、身体を洗って、湯船に入って…を繰り返した。

抵抗する気力だけはあったのだけど、身体の脱力はなかなか治らなくて、ほぼされるがままに汚れどころか体力までそのまま洗い流されたようだった。
ふらふらと湯船から出ると、流れ作業のように着替えまでさせられてしまった。
その着替えもかなり上等なものを着せられて、堅苦しい。

そういえば、いつの間にかに風の乙女シルヴェストルの姿が消えてたんだよな……。

着替えが終わるとすぐ、部屋に案内された。
のぼせていて暑かったので、すぐに脱ごうとしたら「これから来客があるのでそのままで!」と怒られてしまった。
その来客の後には、王家との晩餐の予定だと言われて、そのためのスーツまで用意されていた。


(何度着替えるんだよ……)


晩餐までお使いください。と、案内された部屋…部屋だよな?里のどの家よりも広い部屋で、布張りの高そうな椅子とテーブルのセットには、焼き菓子が置かれていて、部屋の奥の方にはとても立派なベッドが見えた。


(あのベッドの広さだけで、里にあった養母の自宅くらいの広さはあるよな…誰が寝るんだよ…)


贅沢ができることは幸せなことだと知っているが、贅沢すぎるのは……無理だな。
あのベッドで寝れる気がしない。

部屋の出入り口に近いところにさっきのメイド2人が待機していて……何をしているのかと聞くと『この部屋付きのメイド』なので、ここにいるのが仕事なのだと説明された。
何かあれば声をかけてくれと言われたので……1人になりたいと言ったら笑顔で却下された。

来客を待つ以外、やる事もなさそうだし、とりあえず椅子に座るとお願いするまでもなくお茶が出された。
高そうなティーカップに良い香りの紅茶。
本当に自分ですることが何もなくて、目の前にある焼き菓子を食べ始める。
美味しいんだけど……居づらい。

メイドも仕事としてここにいるだけなのだけど、監視されているようでイヤだ。

里を出てから、世界が目まぐるしく変わりすぎて、理解できない。
今も命があるだけマシなのだと言い聞かせるにしても、どうしても理解できない。

のぼせ気味の頭でぼーっと考えても、全く何も案が浮かんでこないばかりか、お菓子の甘さがトドメとなってどんどん眠気が強くなってくる。

こくりと、頭が船を漕いだ感覚があった直後に、ドアをノックする音が聞こえて、メイドに起こされた


「……予定の客が来たから。終わったら寝れるよ」


獣人のメイドの小声が……人には聞き取れない小さな声だったのだけど、耳が拾った。
ドアへと振り向くと、年配のメイドが応対中で、獣人のメイドはテーブルの上の菓子やお茶を引き揚げている所だった。


(……まだ食べてるんだけどなぁ。捨てられてしまうんだろうか?)

「後でこれ包んであげる。今は下げるだけだから、そんな顔しないで?」


くすりと笑う声と、やはり人族には聞こえないほどの獣人メイドの囁きが耳に入ってきた。
少しほっとしていると、年配のメイドとの話が済んだのか、近づいてくる人の姿があった。


「……待たせた、だろうか?」

「いえ…」


振り向くと、魔術師団のローブを纏った黒髪のエルフがいた。
うん、エルフだ……初めて見た。


(本当に耳が……人族と違って尖ってるんだな。色は一緒なのに)


教会から助けてくれた人たちと同じデザインのローブだった。
……目は合っているのに合っていないような、薄い表情でぼそぼそと一方的に喋る感じだった。

この人に魔力測定会の日からの事を細やかに聞かれた。
里の位置や規模、測定会が開催された街の名等々……孤児院ではどんな食べ物が出されたかとか、そういうことまで聞かれた。


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