186 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?
186、今度ね。
しおりを挟む「今度、ね」
ゼンナーシュタットは悪戯っぽく笑うと、しっぽをゆるゆると振りながら歩き始めた。
「うん。はやくゆるしてもらえるといいね」
隣を小走りになりながら、進みつつゼンナーシュタットの背をそーっと撫でる。
……ない。
あの見事な翼は、一時的な魔法か何かだったのかな?
まぁ、監獄を脱出した直後に見た、空飛ぶ巨大な猫というのも、なかなか不思議な生き物だったわけだけれど、ゼンナーシュタットは猫の姿しか取らないから、本当の姿がどんな形状の霊獣なのかわからないのよね。
「背中、どうかした?」
「はね、ないなーって」
「あるよ。しまってるだけ」
しまえちゃうんだ……今、触った感じでは背中にそれっぽい骨格とか感触はなかったよ。
それとも獣人のように組成自体を変えて、しまっているのだろうか?
「そうなんだ……」
「翼が気になるの?」
「うん、きれいだったなぁって。あと、とってもはやいんでしょう?」
「あぁ……歩くよりはずっと速いね……飛んでみたいの?」
真白な素敵な翼。いつか見せて欲しいな。
身体を支えるためなのか、風に乗るために広げられた翼は、絵本などでよく見るユニコーンの背の翼よりもアンバランスに感じるほどに大きく広げられていた。
陽の光を受けてきらきらと浮かび上がる翼は、神々しくも感じられたんだ。
でもね、気になっているのはそこじゃないので軽く首を横に振った。
「ね、ゼンははしるのも、はやい?」
「ん?どういう事?」
「えっと…ね『しのもり』から、かえってきたときにね……」
森での疾走のことを話す。
私はフレアに大事に抱えられての移動だったはずなのに、思いっきり酔っちゃったけどね。
私以外の、それこそ3歳児のカイルザークですら、とんでもない速さで森を駆け抜けていった。
私以外……セシリアは人族だからしょうがない。そう言ってしまえばそれまでなのだけれど、足手まといになってるのが悔しかった。
「それなりには……速いんじゃないかな?」
「いいなぁ……」
そういや猫の姿だった……猫なら少なくとも私よりは速いよね。
4足で行動する生き物に、スピードで勝てる気はしない。
……魔法を習い始めたら、真面目に飛行魔法を覚えたいな。
筋力で勝てなくても、魔力でならなんとか追いつけるんじゃなかろうか?
あ、飛行魔法って言うのは自分がふわーっと浮いて移動すると言うよりは、魔法の箒や絨毯に乗って移動するようなやつね!
自分だけが浮いて移動とか、魔力操作が高度すぎて明らかに無理だから!
うっかり手足が胴体とは逆の方向に飛んで行きそうだし、そんなスプラッタな危険は冒したくない。
「……乗って、みる?」
隣をひょこひょこと楽しげに歩いていたゼンナーシュタットがぴたりと止まると、なぜか目をきらきらさせて私を見ていた。
期待の眼差し?ってやつだよね?これ。
……ゼンナーシュタットは騎乗が出来るタイプの霊獣なのかな?
「いいの!?でも、重いよ?」
「問題ないよ。乗れる?」
そう言うと、香箱座りになってじっとされてしまった。
乗れってことなんだろうけど……良いのかな?良いよね?良いって事にしちゃおう!
よいしょ。と、少しよじ登りながら跨がるとゆっくりと視界が高くなっていく。
ゼンナーシュタットが立ち上がったようだった。
「これで、いい?ここ、つかんで、だいじょうぶ?いたくない?」
「大丈夫だよ…ちょっとくすぐったいけど。ちゃんと掴まっててね?」
くすぐったい?首の後ろ…真横かな?
襟毛の辺りを掴んでしまっているのだけれど、痛くないなら良いのかな?
そっと上体を起こすようにして恐る恐る周囲を見渡してみると、やっぱり視界が高い。
って、あれ……ゼンナーシュタットのサイズ自体が大きくなっているようだった。
ここまで大きくなっちゃうと、ずり落ちる心配なく、安心して座れる。
「ゼン、ありがとう。……ちょっとだけ、のってみたかったんだ」
巨大猫のサイズから、すでに大型犬をも通り過ぎて…えっと、熊かな?
あ、でも熊もサイズいろいろだよなぁ。馬よりは大きくないくらいって言ったら良いのかな?
乗馬のように乗るにしても、ゼンナーシュタットの背は私の体格にしては広すぎて、すでに乗馬の姿勢は取れなくて。
ただただしっかりと、ふわふわの襟毛を掴んで座っている状態になっていた。
「ふわふわで温かくて、ぜん、いいにおいがするね」
「あ…ちょっと、そこは…くすぐったい!」
しっかりと座っていられる状態に安心してしまって、改めてぼふり。と、前へ倒れ込んだ。
倒れ込んで両手を下へと伸ばして、ゼンナーシュタットの首へと伸ばす。
すると、びくりという反応をされたので、痛かったかな?と心配したのだけど、さっきと同じでくすぐったいだけのようだった。
猫って顎の下とか首回りを優しく触られると、目を細めて気持ちよさそうにうっとりするんだけどなぁ。
かなりくすぐったそうに身をよじられてしまったので、今度は耳の後ろと付け根あたりをさわさわと触ってみる。
ここも、猫は喜ぶんだけどね……それと柔らかい毛が密に生えていて、触り心地も抜群の場所なんだよ!
王宮の廊下を疾走していく…わけもなく、くすぐったさに身をよじりなから、半ば蛇行運転のようにふらふらと進んでいくゼンナーシュタット。
「んん~。さらさらできもちいい……」
「ちょ…うぅっ。くすぐったいってば…」
私はと言えば、ゼンナーシュタットの背にうつ伏せになるように倒れ込むように乗っているので、両手は自由。両足も……スカートの中身が見えるような位置に人がいなければ、自由。
という事で、どさくさに紛れてゼンナーシュタットのもふもふをここぞとばかりに堪能していた
ゼンナーシュタットが歩いていても、馬のように筋肉の動く気配は感じられないばかりか、毛足の長いふわっふわの被毛に体が少しだけ沈み込む。
そこはゼンナーシュタットの体温でほかほかで…幸せだった。
「ふわっふわぁ……」
「う…やめて……って、え?……セシリア?」
あまりにぽかぽかと幸せすぎて、意識が遠のいていく。
私の様子に気づいて、慌てたゼンナーシュタットの声が聞こえたような気がしたけど、朝まで寝ないで頑張った宿題も…無理が祟ってたって事だよね。
抗うまでもなく、あっさりと睡魔に負けてしまった。
「……ん~…」
「…えぇぇ…ちょっと…」
「すぅ……」
「……まぁいいか。頑張ったんだもんね」
あまりの眠さに、なんの反応も出来なかったけど、声だけは聞こえてたよ!
いっぱい頑張ったからね!
「今度は、僕も連れて行ってね」
優しく囁かれた言葉を耳が拾い、完全に意識が途切れた。
……今度はって聞こえたけど、『今度』は無い!絶対に無いからね?
そうそう誘拐事件起こされちゃたまりませんっ!
0
お気に入りに追加
626
あなたにおすすめの小説
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る
堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。
彼は新興国である新獣人国の国王だ。
新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。
過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。
しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。
先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。
新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。
みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。
主人公は断罪から逃れることは出来るのか?
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
運命の番でも愛されなくて結構です
えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。
ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。
今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。
新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。
と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで…
「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。
最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。
相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。
それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!?
これは犯罪になりませんか!?
心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。
難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる