184 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?
184、大丈夫だよ。
しおりを挟む龍か……そういえば、メアリローサ国の守護龍のアナステシアス様はとても気さくな方だったけど、奥様はどうなんだろう?
父様は『赤ちゃん達』って言ってたけど、私の番の龍の他にも兄弟がいるみたいだし、会えるのかな?
どんどん不安な顔になりながらも見送ってくれている父様に手を振りながら、玄関のドアをくぐると、すーっとドアが閉まっていった。
(アナステシアス様が気さくな方すぎて、うっかり忘れてたけど、龍と会話したのって初めてだったわ……魔導学園のあった国にも守護龍はいたけど、遠くから飛翔の姿を見るだけで大興奮だったもんなぁ)
明かりとりの窓にカーテンがかかっていて、少し薄暗く感じる玄関フロアを歩いて進み……突き当たりの大きくて立派で…重そうなドアを開けようと近づくと、ドアは勝手に開いた。
3歳児の力では開けられる気がしなかったドアなので、自動ドアのように勝手に開閉してくれるのはすごくありがたいのだけど、それはつまり『誰かが開けてくれた』という事で。
「あ…ありがとうございましゅ」
とりあえずお礼を言ってみたけれど返答は……なかった。
でも魔力はむんむんと感じる。
これはユージアやカイルザークみたいに魔力への嗅覚が鋭くなくても、感じれる程に濃くて。
でも、濃いけど悪意や澱みのない、とても澄んだ魔力で、何かのパワースポットに来ているみたいだった。
(落ち着く…というか、この魔力の濃さが精霊好みなんだろうなぁ。私もこれくらい魔力むんむんしてたら、ルナフレア達の制御ができるようになるんだろうか?)
そうそう、龍の離宮…つまりご自宅って事になるのだけれど、お屋敷内の調度品や家具は全て人間サイズのものが置かれていた。
って事はつまり、離宮では人間の姿での生活が基本になっているのかな?
玄関フロアの先は、こういう貴族風の建物の場合、お客様をもてなすための1番広い部屋へと繋がっていることが多い。
例えば、大広間…えっとサロンだね。
もしくは食堂、じゃなくて正餐室だっけ?
ほら、よくお屋敷で舞踏会だっけ?そんなパーティを開いた時に、お客様を招き入れやすいでしょう?
(前世の家事情から考えたら、贅沢すぎてとんでもない発想だけどさ。自分の住空間を考えるだけで一杯一杯だもんね。お客様の事なんて二の次ですよ?)
ここはサロンなのかなぁ?
床張りの広いフロアにはピアノやソファーセットなんかも置いてある。
まぁ、前世のイメージが強い私から見るとどこも内装が無駄にゴージャスな体育館にしか見えないんだけど。
「セシリア!」
取り次いでくれるメイドさんや執事っぽい人の姿も見えないので……まぁ魔力が思いっきり漂ってるから、私の存在は気づかれていないわけがないはずだし、一先ず窓際に置かれているソファーセットに腰掛けようかな…と思ったところで、私の名を呼ぶ声とともに、急に奥の大きなドアが開き、真っ白で大きな毛球が飛び込んでくる。
ぶつかる!と身構えたのだけど、寸止めみたいにぶつかるぎりぎりで止まると、白い毛球は猫が甘えるように鼻を肩口にぐぐーっと押し付けてきた。
大型犬サイズの白い猫のような姿のゼンナーシュタットだった。
(……初対面の時のように、全力突撃アタックで吹っ飛ぶ被害は免れたっ!)
あれ痛いからね?一瞬、息止まったし。
しかも今のゼンナーシュタットの体格って初対面の時の姿の倍以上の大きさだし。
嬉しすぎて!の感情表現なんだろうけど、今の姿で思いっきり突撃された日には、気絶どころか良い感じに大怪我しそうな気がした。
(でも全身で全力で、会えた事にそこまで喜んでもらえると、お友達冥利に尽きるよねっ!)
自然と笑みが浮かんでしまう。
……もふもふを堪能してるからってのもあるけど!
「ぜん!なんか……ひさしぶりっ」
「ひさしぶりって…3日ぶりだよ?……でも、助けに行けなくて、ごめんね」
しゅん。と耳と緩やかに振られていたしっぽが下がってしまった。
3日かぁ。
急激に毎日が濃くなりすぎて、時間の感覚がおかしくなってるのかも?
1週間ぶりくらいの感覚だったよ。
肩口にごろごろと喉を鳴らしながら押し付けられていた鼻面に手を当てて、いいこいいこ~と強めに撫でる。
(やっぱり猫そっくりなんだけど、大きいなぁ。前世の家族だったメインクーンの男の子よりさらに大きい…けど見た目がまるっとメインクーン……猫に羽はないけどね!)
前世の私の家族には、メインクーンの男の子が、いた。
どうしても寿命の関係で、先立たれてしまったのだけど…大切な家族だった。
その子と面影が重なる。
……性格も毛柄も全く違うんだけどね。
自分の子育てと、生まれたばかりの彼をお迎えした時期が重なってしまったので、息子たちとは兄弟のように育った猫だった。
(……そういえばこっちで猫って見かけないよなぁ。ペットショップなんてものも無いだろうし、よほどご縁がないと見かけられないのかも)
ぐいぐいと押し付けられているゼンナーシュタットの鼻面から額、背へと向かって少し強めに撫でながら、考える。
まぁ、前前世は魔導学園に籠もっていて、ほとんど外に出なかったし、今世とかまだ3歳児だから……そもそも一人で街へと外出するような、あ、そもそも危険だからって外出させてくれないよね、きっと。
(危険って言っても、街って言うからには、街の人の暮らしている場所なのにね。自分が暮らしている場所が、危険とかって言われたくないよなぁ……)
そう考えると、偉い人達って贅沢な生活が出来る分、制限が多くて何をするにも不自由になってしまう事が多いんだなと、残念な気持ちになってしまった。
日々の食事にも困らないし、綺麗な洋服や宝石や…それこそ、御伽話に出てくる、王子様に見染められて終わせになったお姫様みたいに、周囲に傅かれての生活って、子供心に憧れるんだけどなぁ。
こういうのが『住む世界が違う』って事なんだろうか?
なんか壁がありすぎて、寂しいね。
よし、セシリアが一人歩きしても心配されないくらいに、しっかりとした人間になろう!
制限につかまったまま過ごすとか、人生損しまくりな気がするよ。
今回だって、こうやってゼンナーシュタットや、周囲の人間を心配させまくっていたのだし。
「だいじょうぶだよ。ゆーじあと……るーくがいっしょだったのよ」
「本当に、ごめん」
「ひとりじゃなかったから、だいじょうぶ」
ほら、大丈夫だったよって言っても、こんなに心配させてしまっていた。
『ルークがいるから大丈夫』『ユージアも一緒だし大丈夫』……うん、心強かった。
でもね1人は嫌だけど、いずれは『セシリアなら、安心だね』って言われるようになりたい。
……まだ子供だから守られるのは当たり前だけれど、それでもいざという時に足手まといにだけはなりたくない。
0
お気に入りに追加
626
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る
堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。
彼は新興国である新獣人国の国王だ。
新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。
過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。
しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。
先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。
新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。
みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。
主人公は断罪から逃れることは出来るのか?
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
運命の番でも愛されなくて結構です
えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。
ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。
今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。
新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。
と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで…
「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。
最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。
相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。
それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!?
これは犯罪になりませんか!?
心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。
難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる