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はじまりはじまり。小さな冒険?

184、大丈夫だよ。

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龍か……そういえば、メアリローサ国の守護龍のアナステシアス様はとても気さくな方だったけど、奥様はどうなんだろう?
父様は『赤ちゃん達』って言ってたけど、私のつがいの龍の他にも兄弟がいるみたいだし、会えるのかな?

どんどん不安な顔になりながらも見送ってくれている父様に手を振りながら、玄関のドアをくぐると、すーっとドアが閉まっていった。


(アナステシアス様が気さくな方すぎて、うっかり忘れてたけど、龍と会話したのって初めてだったわ……魔導学園のあった国にも守護龍はいたけど、遠くから飛翔の姿を見るだけで大興奮だったもんなぁ)


明かりとりの窓にカーテンがかかっていて、少し薄暗く感じる玄関フロアを歩いて進み……突き当たりの大きくて立派で…重そうなドアを開けようと近づくと、ドアは勝手に開いた。
3歳児わたしの力では開けられる気がしなかったドアなので、自動ドアのように勝手に開閉してくれるのはすごくありがたいのだけど、それはつまり『誰かが開けてくれた』という事で。


「あ…ありがとうございましゅ」


とりあえずお礼を言ってみたけれど返答は……なかった。
でも魔力はむんむんと感じる。
これはユージアやカイルザークみたいに魔力への嗅覚が鋭くなくても、感じれる程に濃くて。
でも、濃いけど悪意や澱みのない、とても澄んだ魔力で、何かのパワースポットに来ているみたいだった。


(落ち着く…というか、この魔力の濃さが精霊好みなんだろうなぁ。私もこれくらい魔力むんむんしてたら、ルナフレア達の制御ができるようになるんだろうか?)


そうそう、龍の離宮…つまりご自宅って事になるのだけれど、お屋敷内の調度品や家具は全て人間サイズのものが置かれていた。
って事はつまり、離宮ここでは人間の姿での生活が基本になっているのかな?

玄関フロアの先は、こういう貴族風の建物の場合、お客様をもてなすための1番広い部屋へと繋がっていることが多い。
例えば、大広間…えっとサロンだね。
もしくは食堂、じゃなくて正餐室せいさんしつだっけ?

ほら、よくお屋敷で舞踏会だっけ?そんなパーティを開いた時に、お客様を招き入れやすいでしょう?


前世にほんの家事情から考えたら、贅沢すぎてとんでもない発想だけどさ。自分の住空間を考えるだけで一杯一杯だもんね。お客様の事なんて二の次ですよ?)


ここはサロンなのかなぁ?
床張りの広いフロアにはピアノやソファーセットなんかも置いてある。
まぁ、前世にほんのイメージが強い私から見るとどこも内装が無駄にゴージャスな体育館にしか見えないんだけど。


「セシリア!」


取り次いでくれるメイドさんや執事っぽい人の姿も見えないので……まぁ魔力が思いっきり漂ってるから、私の存在は気づかれていないわけがないはずだし、一先ず窓際に置かれているソファーセットに腰掛けようかな…と思ったところで、私の名を呼ぶ声とともに、急に奥の大きなドアが開き、真っ白で大きな毛球が飛び込んでくる。

ぶつかる!と身構えたのだけど、寸止めみたいにぶつかるぎりぎりで止まると、白い毛球は猫が甘えるように鼻を肩口にぐぐーっと押し付けてきた。
大型犬サイズの白い猫のような姿のゼンナーシュタットだった。


(……初対面の時のように、全力突撃アタックで吹っ飛ぶ被害は免れたっ!)


あれ痛いからね?一瞬、息止まったし。
しかも今のゼンナーシュタットの体格って初対面の時の姿の倍以上の大きさだし。
嬉しすぎて!の感情表現なんだろうけど、今の姿で思いっきり突撃された日には、気絶どころか良い感じに大怪我しそうな気がした。


(でも全身で全力で、会えた事にそこまで喜んでもらえると、お友達冥利に尽きるよねっ!)


自然と笑みが浮かんでしまう。
……もふもふを堪能してるからってのもあるけど!


「ぜん!なんか……ひさしぶりっ」

「ひさしぶりって…3日ぶりだよ?……でも、助けに行けなくて、ごめんね」


しゅん。と耳と緩やかに振られていたしっぽが下がってしまった。

3日かぁ。
急激に毎日が濃くなりすぎて、時間の感覚がおかしくなってるのかも?
1週間ぶりくらいの感覚だったよ。

肩口にごろごろと喉を鳴らしながら押し付けられていた鼻面に手を当てて、いいこいいこ~と強めに撫でる。


(やっぱり猫そっくりなんだけど、大きいなぁ。前世にほんの家族だったメインクーンの男の子よりさらに大きい…けど見た目がまるっとメインクーン……猫に羽はないけどね!)


前世にほんの私の家族には、メインクーンの男の子が、いた。
どうしても寿命の関係で、先立たれてしまったのだけど…大切な家族だった。
その子と面影が重なる。

……性格も毛柄も全く違うんだけどね。
自分の子育てと、生まれたばかりの彼をお迎えした時期が重なってしまったので、息子たちとは兄弟のように育った猫だった。


(……そういえばこっちで猫って見かけないよなぁ。ペットショップなんてものも無いだろうし、よほどご縁がないと見かけられないのかも)


ぐいぐいと押し付けられているゼンナーシュタットの鼻面から額、背へと向かって少し強めに撫でながら、考える。

まぁ、前前世むかしは魔導学園に籠もっていて、ほとんど外に出なかったし、今世いまとかまだ3歳児だから……そもそも一人で街へと外出するような、あ、そもそも危険だからって外出させてくれないよね、きっと。


(危険って言っても、街って言うからには、街の人の暮らしている場所なのにね。自分が暮らしている場所が、危険とかって言われたくないよなぁ……)


そう考えると、偉い人達って贅沢な生活が出来る分、制限が多くて何をするにも不自由になってしまう事が多いんだなと、残念な気持ちになってしまった。
日々の食事にも困らないし、綺麗な洋服や宝石や…それこそ、御伽話に出てくる、王子様に見染められて終わせになったお姫様みたいに、周囲に傅かれての生活って、子供心に憧れるんだけどなぁ。

こういうのが『住む世界が違う』って事なんだろうか?
なんか壁がありすぎて、寂しいね。

よし、セシリアわたしが一人歩きしても心配されないくらいに、しっかりとした人間になろう!
制限につかまったまま過ごすとか、人生損しまくりな気がするよ。

今回だって、こうやってゼンナーシュタットや、周囲の人間を心配させまくっていたのだし。


「だいじょうぶだよ。ゆーじあと……るーくがいっしょだったのよ」

「本当に、ごめん」

「ひとりじゃなかったから、だいじょうぶ」


ほら、大丈夫だったよって言っても、こんなに心配させてしまっていた。

『ルークがいるから大丈夫』『ユージアも一緒だし大丈夫』……うん、心強かった。
でもね1人は嫌だけど、いずれは『セシリアなら、安心だね』って言われるようになりたい。
……まだ子供だから守られるのは当たり前だけれど、それでもいざという時に足手まといにだけはなりたくない。

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