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はじまりはじまり。小さな冒険?

181、行ってらっしゃい。

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(むしろ調整しか、杖に求めてなかったから、他の誰が使っても、本来の杖の役目である魔力の増幅はされないというか、そもそもそんな機能はないから、使えない杖という位置になってしまう)


そう思いつつ、そんな個性的とも言える私の杖の性質が、ユージアによって湾曲……変な方向に大げさに説明されていることに首を傾げたくなってしまうのだけど。
ルークに入れ知恵されての行動だろうし、何か考えがあってのことなのだろうか?


「……それは、セシリアの許可があれば私でも使えるのかい?」


あぁ……そうなりますよね。
そして多分、父様も母様も、セグシュ兄様も……この杖は『使えない』と判断するのだろうね。
相性が合わないって事で……魔力が増幅されないだけなんだけど。


「試しに、使ってみますか?……セシリアの許可があっても、相性が必要な杖なので」


そう言うと、ユージアは父様へと杖を渡す。
父様は杖を受け取ると、魔法を発動させようとして……ばしん!と、強烈な光と大きな衝撃音が響いた。
思わずびくりとする。


「これは…拒絶か?私には……無理なようだな」

「えぇ……父様が無理なら、僕も無理だと思うよ?」


杖を握っている手を見つめながら、セグシュ兄様へと杖を渡す。
父様から杖を渡されたセグシュ兄様は、あんなに杖をガン見していたのに、杖の強い拒絶とも思える反応を見た後は、あからさまに困惑の色を見せた。
母様は、杖よりは父様の手を気にしていた。

怪我は、していないと思う。


(そもそも、あれは拒絶じゃなくて、盗難防止用の仕掛けが発動しただけなんだけど……)


個性的すぎて、一般的な魔法使いからのウケは良くないだろうけど、それでもシシリーわたしが長く愛用して、しっかりと魔力も浸透させてある、大切な相棒だ。

見た目も拘った……ってわけじゃないけど、魔導師の試験が通った時に作ったので冠婚葬祭や式典でも使えるようにと、フォーマルな場面にも通用するような見目の良い形状にしてあった。


「ユージアは使えるのかい?」

「あ、はい。使えるというか……親父が言うには、この杖の頑固さが魔法の修行にもちょうどいいと言われまして」


あらら……頑固扱いされちゃったよ…私の逸品。
まぁいいや、知らない場所へしまい込まれるより、ユージアが使ってくれている方が安心できるし。
魔導学院へと飛ばされた時に持ち出してきたサブの杖は、それこそ魔女っ子が使うような短い…指揮棒タイプの杖なので、子供でもなんとか扱える。


(メインの杖に至っては、自分の身長の倍以上の長さで使いたくとも使えないから成長するまではサブの杖を使う事確定だし……)


頭では状況が理解できているのに、どうしても内心では納得いかなくて、むうぅっとなりかけていると、出発の準備ができたみたいで、玄関のドアがゆっくりと開き始める。
玄関フロアの両サイドに、使用人たちが見送りのために整列をしていた。

ドアの向こう、玄関ロータリーにユージアが乗る馬車が止められているのが見えた。
そのそばに立つ家令も。


「ゆーじあ、がんばってきてね」


杖も大事だけど、まずはユージアの見送りだ、見送り……。
見送り、と思っただけで途端に寂しくなってしまう。
それでも、ユージアのこれからのためだから頑張ってきて欲しい。寂しいけど。


「ありがとう!すぐに戻ってくるから!……忘れないでね?」


大人と言うにはまだ少し小柄で、女性用わたしの杖がちょうどいいサイズに見えてしまうユージア。
先ほどまではとても楽しそうににこにこしていたのに、今は寂しそう。
……ん?もしかして杖のことを言いたくて、うずうずしてのさっきの笑顔だったのかな?


「寄宿舎での生活とは言っても、当分は母様に解毒をしてもらいに毎朝戻るし、すぐ近くだから、大丈夫だよ」

「うん、じゃあ、わすれるまえに、かえってきてね」


自分に言い聞かすみたいに神妙な顔をしたユージアの言葉に、寂しいけど笑顔で返す。
なんかばたばたと後ろが騒がしいけど、しらない。

子供が多いので事故を防ぐためか、玄関フロア内でお見送りをするみたいで使用人たちからの『行ってらっしゃい』の声が飛び交っている。
そんな中、父様の長~いため息や、母様のくすくす笑い、そしてセリカの怒号混じりの制止の声が聞こえる。


「大丈夫だよ、セシリアに忘れられてもルークがいるでしょ。安心してゆっくりしておいで」

「ちょっと!全然安心できないんだけどっ?!……って、何してるの?あははっ!」


カイルザークの『大丈夫』に、緊張と不安で、しんみりしかけてたユージアの眉が一気に上がりかけて、笑いに変わった。
振り向くと、セリカに猫攫みのようにされ、ぶら下げられているカイルザークと、セグシュ兄様の後ろに隠れるようにして怒っているエルネストの姿が見えた。

カイルザーク……静かだと思ったら、エルネストにちょっかいを出して、セリカに捕獲されていたらしい。

ユージアはその様子にひとしきり笑ってから「行ってまいります」とドアの前で深く礼をして、馬車へと乗り込んだ。
家令も礼をすると、馬車へと続き……出発していってしまった。


朝日をうけてほんわかと暖かくなりつつあるお屋敷の前庭にあるロータリーをくるりと一周すると、馬車はどんどんと小さく遠くなっていってしまった。


「あれは…半年から1年だな……」

「エルフにはすぐだろうけどね、その1年だって僕たちには長いからなぁ……」


父様とセグシュ兄様が馬車を見送りつつ話す。
まぁそうだよね、大体半年くらいが卒業までの期間らしいけど、ユージアの場合はすでに就職先が決まった上での入所だから、その就職先に合わせた難易度での教育になる。
そして……その難易度は王家と同等らしい。
つまり高難易度!そして、養成所側としても威信がかかるから、超頑張っちゃう!

内容としても、普通の貴族なら気にしないような作法も詳しく細かく勉強しなくちゃいけないらしい。
習慣とか儀式的なものも……まぁあれだ、前世にほんでの『子供の七五三で7歳って男の子はやるのやらないの?』とか『成人式、やる?やらない?』とか、こういうのってご家庭の状況や、親達の考え方が一番大きく出るよね。
お財布状況とかもね!

成人式に関してはもう、本人の意思も大事だし。
私の成人式の時も「面倒だからスーツで良いし!」とか「予定合わないから欠席でいいよ」っていう友人もいた。
こういうのを……まぁ貴族としては格の為にフルセットで執り行うらしいんだよねぇ。
とくに上位の貴族になればなるほど、ね。

なので通常の勉強の倍以上、覚えることが多いらしい。

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