181 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?
181、行ってらっしゃい。
しおりを挟む(むしろ調整しか、杖に求めてなかったから、他の誰が使っても、本来の杖の役目である魔力の増幅はされないというか、そもそもそんな機能はないから、使えない杖という位置になってしまう)
そう思いつつ、そんな個性的とも言える私の杖の性質が、ユージアによって湾曲……変な方向に大げさに説明されていることに首を傾げたくなってしまうのだけど。
ルークに入れ知恵されての行動だろうし、何か考えがあってのことなのだろうか?
「……それは、セシリアの許可があれば私でも使えるのかい?」
あぁ……そうなりますよね。
そして多分、父様も母様も、セグシュ兄様も……この杖は『使えない』と判断するのだろうね。
相性が合わないって事で……魔力が増幅されないだけなんだけど。
「試しに、使ってみますか?……セシリアの許可があっても、相性が必要な杖なので」
そう言うと、ユージアは父様へと杖を渡す。
父様は杖を受け取ると、魔法を発動させようとして……ばしん!と、強烈な光と大きな衝撃音が響いた。
思わずびくりとする。
「これは…拒絶か?私には……無理なようだな」
「えぇ……父様が無理なら、僕も無理だと思うよ?」
杖を握っている手を見つめながら、セグシュ兄様へと杖を渡す。
父様から杖を渡されたセグシュ兄様は、あんなに杖をガン見していたのに、杖の強い拒絶とも思える反応を見た後は、あからさまに困惑の色を見せた。
母様は、杖よりは父様の手を気にしていた。
怪我は、していないと思う。
(そもそも、あれは拒絶じゃなくて、盗難防止用の仕掛けが発動しただけなんだけど……)
個性的すぎて、一般的な魔法使いからのウケは良くないだろうけど、それでもシシリーが長く愛用して、しっかりと魔力も浸透させてある、大切な相棒だ。
見た目も拘った……ってわけじゃないけど、魔導師の試験が通った時に作ったので冠婚葬祭や式典でも使えるようにと、フォーマルな場面にも通用するような見目の良い形状にしてあった。
「ユージアは使えるのかい?」
「あ、はい。使えるというか……親父が言うには、この杖の頑固さが魔法の修行にもちょうどいいと言われまして」
あらら……頑固扱いされちゃったよ…私の逸品。
まぁいいや、知らない場所へしまい込まれるより、ユージアが使ってくれている方が安心できるし。
魔導学院へと飛ばされた時に持ち出してきたサブの杖は、それこそ魔女っ子が使うような短い…指揮棒タイプの杖なので、子供でもなんとか扱える。
(メインの杖に至っては、自分の身長の倍以上の長さで使いたくとも使えないから成長するまではサブの杖を使う事確定だし……)
頭では状況が理解できているのに、どうしても内心では納得いかなくて、むうぅっとなりかけていると、出発の準備ができたみたいで、玄関のドアがゆっくりと開き始める。
玄関フロアの両サイドに、使用人たちが見送りのために整列をしていた。
ドアの向こう、玄関ロータリーにユージアが乗る馬車が止められているのが見えた。
そのそばに立つ家令も。
「ゆーじあ、がんばってきてね」
杖も大事だけど、まずはユージアの見送りだ、見送り……。
見送り、と思っただけで途端に寂しくなってしまう。
それでも、ユージアのこれからのためだから頑張ってきて欲しい。寂しいけど。
「ありがとう!すぐに戻ってくるから!……忘れないでね?」
大人と言うにはまだ少し小柄で、女性用の杖がちょうどいいサイズに見えてしまうユージア。
先ほどまではとても楽しそうににこにこしていたのに、今は寂しそう。
……ん?もしかして杖のことを言いたくて、うずうずしてのさっきの笑顔だったのかな?
「寄宿舎での生活とは言っても、当分は母様に解毒をしてもらいに毎朝戻るし、すぐ近くだから、大丈夫だよ」
「うん、じゃあ、わすれるまえに、かえってきてね」
自分に言い聞かすみたいに神妙な顔をしたユージアの言葉に、寂しいけど笑顔で返す。
なんかばたばたと後ろが騒がしいけど、しらない。
子供が多いので事故を防ぐためか、玄関フロア内でお見送りをするみたいで使用人たちからの『行ってらっしゃい』の声が飛び交っている。
そんな中、父様の長~いため息や、母様のくすくす笑い、そしてセリカの怒号混じりの制止の声が聞こえる。
「大丈夫だよ、セシリアに忘れられてもルークがいるでしょ。安心してゆっくりしておいで」
「ちょっと!全然安心できないんだけどっ?!……って、何してるの?あははっ!」
カイルザークの『大丈夫』に、緊張と不安で、しんみりしかけてたユージアの眉が一気に上がりかけて、笑いに変わった。
振り向くと、セリカに猫攫みのようにされ、ぶら下げられているカイルザークと、セグシュ兄様の後ろに隠れるようにして怒っているエルネストの姿が見えた。
カイルザーク……静かだと思ったら、エルネストにちょっかいを出して、セリカに捕獲されていたらしい。
ユージアはその様子にひとしきり笑ってから「行ってまいります」とドアの前で深く礼をして、馬車へと乗り込んだ。
家令も礼をすると、馬車へと続き……出発していってしまった。
朝日をうけてほんわかと暖かくなりつつあるお屋敷の前庭にあるロータリーをくるりと一周すると、馬車はどんどんと小さく遠くなっていってしまった。
「あれは…半年から1年だな……」
「エルフにはすぐだろうけどね、その1年だって僕たちには長いからなぁ……」
父様とセグシュ兄様が馬車を見送りつつ話す。
まぁそうだよね、大体半年くらいが卒業までの期間らしいけど、ユージアの場合はすでに就職先が決まった上での入所だから、その就職先に合わせた難易度での教育になる。
そして……その難易度は王家と同等らしい。
つまり高難易度!そして、養成所側としても威信がかかるから、超頑張っちゃう!
内容としても、普通の貴族なら気にしないような作法も詳しく細かく勉強しなくちゃいけないらしい。
習慣とか儀式的なものも……まぁあれだ、前世での『子供の七五三で7歳って男の子はやるのやらないの?』とか『成人式、やる?やらない?』とか、こういうのってご家庭の状況や、親達の考え方が一番大きく出るよね。
お財布状況とかもね!
成人式に関してはもう、本人の意思も大事だし。
私の成人式の時も「面倒だからスーツで良いし!」とか「予定合わないから欠席でいいよ」っていう友人もいた。
こういうのを……まぁ貴族としては格の為にフルセットで執り行うらしいんだよねぇ。
とくに上位の貴族になればなるほど、ね。
なので通常の勉強の倍以上、覚えることが多いらしい。
0
お気に入りに追加
626
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る
堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。
彼は新興国である新獣人国の国王だ。
新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。
過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。
しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。
先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。
新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。
みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。
主人公は断罪から逃れることは出来るのか?
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
運命の番でも愛されなくて結構です
えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。
ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。
今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。
新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。
と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで…
「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。
最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。
相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。
それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!?
これは犯罪になりませんか!?
心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。
難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる