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はじまりはじまり。小さな冒険?

167、side カイルザーク。その2

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そんなこんなで、なんだかんだ言いつつも、シシリーセシリアはあの暴走精霊達にフォローをしてもらっていたはずだ。懐かしい。
なにせ、そこまで繊細な魔力操作の必要の無いはずの初級魔道具マジックアイテム作成の回路生成ですら、魔力操作のフォローをしてくれる杖や、精霊のフォローなしで行うと、失敗を連発どころか、アイテム自体を爆散させるという大惨事を繰り返していたから。


セシリアこんどは、コントロールがちゃんと出来るようになると良いね)


そう思うと同時に、シシリーむかしの大失敗…魔道具の爆散の風景が次々と浮かび上がり、自然と笑みがこみ上げてくる。
この子息であれば、威力の増加も魔力操作のフォローも……魔術師団に所属することが決まっていると聞いたので、きっと役に立てるだろう。


「応じてくれる精霊との相性にもよりますが……セグシュ…兄さまは魔法を使うお仕事みたいだから……精霊がいた方が良いと思います」

「それでも凄いや!どんな精霊でも大歓迎だよ!」


い、いや、相性が悪いと、掌サイズの精霊すら使役できないからね?
相性は本当に大事だから、何度も精霊の現れやすい場へ通って、本当に仲良くなれたと思える精霊とのみ、契約を結ばなければならない。

逆に言えば、精霊の格・本人の魔力レベルはとても低くても、精霊との関係が良好であれば、それだけで優秀な相棒となる。

……実際、お世話になっていた鍛冶屋の主人が、掌サイズの火蜥蜴サラマンダーと良好な関係を築いていた。
当初、精霊へお願いしていたフォローは、武器の加工時の魔力補助だけだったはずが、気づけば炉の火加減、温度調整に始まり、買い入れる鉱石の善し悪しや、冒険者へ武器のメンテナンス時期のアドバイスまでするようになったと、嬉しそうに話していた。

とても小さな火蜥蜴で、本来、その格であれば主人以外との意思の疎通は、知能が低くて人語が使えない場合が多く、困難なはずなのに。


「私は……?私もできるのだろうか?」


不意に頭上からかかった声に、びくりと振り返ると、公爵までもが目を輝かせて期待の眼差しをこちらへ向けていた。
公爵はとても優秀な魔術師だと方々からの噂から拾うことができていたのだけど……まさか精霊のフォロー無しだったとは。


(まぁ…それでも魔術師なら……と、普段むかしなら思う。実力があるのなら法師や導師は目指さないのか?と聞いてしまうところなのだけど。ただ、そもそもこの国の騎士団内の魔力を司る部門の名称が『魔術師団』らしいから。私の魔術師という名称への認識の違いがあるのかもしれない)


「セシリアの父様は…」

「……カイ…『父様』で良いよ。君たちはもう、『うちの子』だといっただろう?もちろんエルも、ユージアもだ」


『父様』という言葉に思わずびくりとしてしまった。
背後にいたエルネストとユージアは嬉しそうに「はい」と返事を返していたが……。

父様……か。
父親像というのが、いまいち私には理解できない。
本当の父様は、見たこともなかったから。

『存在』としては、いたけどね。
生まれたばかりの私の容姿に酷く落胆して、その日のうちに出産直後の身動きすらまともに出来ない母様ごと屋敷を追い出した人だ。
シシリーは物心ついた頃には孤児だったと言っていたから、今度の父様がセシリアにとって良い父親であればいいと思う。


「まぁ…ユージアにはハンスルークがいるからな、好きに呼ぶと良いよ」

「あれは……親父オヤジで良いんですよ……あ、その前に変態ってつけるかも」

「変態オヤジ……ひどい」


エルネストは顔を顰めて、しかし少し俯き加減にふるふると肩が震えだす。
……これは笑いを堪えてるね!うん。
ふん。と鼻を鳴らすようにしているユージアを、公爵…もとい、父様は呆れたように見ている。


「これでも精一杯、譲歩してるからね?」

「オヤジって……あんなに若く見える人に、オヤジ…ぶっ…」

「あの、もうちょっとまともな呼び方を……」


兄様は……あぁ、兄妹多いんだっけ…呼び間違えないように『セグシュ兄様』って呼ぶことにしよう…。
セグシュ兄様は、ルークの呼び方を訂正をさせようとして、途中で吹き出してしまっていた。
一緒に、必死に笑いを堪えながらエルネストも同じくフォローしようとしつつ、セグシュ兄様の笑いに、言葉が詰まってしまっていた。
喋ったら、きっと笑いの我慢が崩壊してしまいそうな雰囲気だ。

ま、エルフは長命だからね。
実年齢を知れば、実際オヤジ呼びでも良いのかも知れないけど、外見だけで言うのならセグシュ兄様より少し上くらいに見えてしまう。
それでオヤジ呼びというのは微妙なんだと思う……。

個人的には…ずっとシシリー一筋だったルークに実子がいること自体が驚きなのだけど。
つがいでも見つけたのかな?
息子本人ユージアには嫌われてるけど、その息子を守るためにかなり暗躍しているようだし、ルークなりにはユージアを大切にはしていると思うんだけどね。


「ユージア、譲歩するなら方向を間違えてるよ。そういう時は大きな声で『パパ!』って呼んであげたら、きっと全力で喜ぶよ!」

「「パ……」」

「それ、全力で命の危険を感じるよ……?」


本当エルフの姿で」と言いかけてやめた。
流石にそれは私の命も危険な気がした。
ユージアは幼少期に遭った行方不明のトラブルが原因で心の成長が止まってるとはいえ、実際の年齢は50歳を超えていると聞いた。

エルフで50歳といえば、もう、立派に独り立ちしている年齢だ。
周囲からの扱いも、まだまだ若輩ではあるけど成人だし、何か有事があれば戦力にもなるのだ。

……ユージアのどこか怯える声と、我慢の限界を超えたのか、爆笑中のエルネストとセグシュ兄様。
そして、遠い目になりかけている父様が軽く息を吐く……ため息だよね、それ。


「……ま、まぁ…クロウディアの事も『母様』と呼んでやると、喜ぶよ」

「「「はい!」」」


これは異議無し。
私たちの返事に、嬉しそうににっこりと微笑むセシリアとよく似た大聖女……私の、新しい母様。

大聖女と呼ばれるくらいだし、現状のこの私やエルネストへの待遇を考えても、慈悲深いのであろう。
……少なくとも私の本当の母様よりは、よく笑う人のようだし。


「では、父様!父様も火と風の精霊と契約できると思います。機会があったら、交渉してみてください」

「機会か……そうだな、ハンスにでも聞いてみるかな」

「やっぱり、精霊だとハンス先生か……うはぁ…」


明日が楽しみだ。と自分の同僚であるルークに、登城早々に精霊について聞きに行きそうな父様とは対照的に、ハンスルークと聞くとあからさまにイヤな顔をするセグシュ兄様。
先生と呼ぶくらいだから師事していた、もしくは現在も師事しているのだろうが……どんな指導を?
これからルークの指導を受ける身としては、不安材料山盛りでしかないのだが。


「ねぇねぇ、私は?私もできるのかしら?」


今のルークはどんな人物像なのかと聞こうとしたところで、今までニコニコと優しげに微笑んでいた母様が、父様の後ろから身を乗り出すようにして聞いてきた。
今までの会話や行動から、おっとりとした雰囲気に見えていたのだけど、今の母様は先ほどのセグシュ兄様そっくりの表情で、目をキラキラと輝かせて期待の眼差しで私を見つめている。
流石に親子なんだなと…そういえば『冒険者になる!』とか『お姫様っぽいでしょ?!』と、はしゃいでいたセシリアとも面影が重なって、思わず笑ってしまう。


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