上 下
163 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?

163、巻藁。

しおりを挟む




……あ、おかわりしてるから、私だけ食事が遅いのか!そんな事実に気づき愕然としていると、背後からフレアの独り言が聞こえた。


『……あの風の乙女シルヴェストル主人ますたーだもんなぁ。そうなるよね』

『フレア……その風の乙女シルヴェストルが、早く来いと呼んでるようですけど?』


ルークの背後に控えてたはずの水の乙女オンディーヌの声まで背後から?と思って振り向くと、その手にコームなどの髪を整える道具一式が用意されている。


『セシリア様、お食事中ですが少々失礼致します』

『まだ、僕の仕事は終わってないから……まだ、大丈夫』


あ、うん、フレア達も大丈夫そうじゃ無い感じだね。
フレアの震える声を聞きつつ、現在進行形で風の乙女シルヴェストルのそばにいるはずのルナは大丈夫かなぁなんて心配してみる。

明日から、彼らも…どうなるんだろうね?
講師は違えど同じように、猛特訓のような授業が開始される…というかすでに開始してるのかな?

いろいろ考えなきゃいけないことが出てきてるんだけど、結局整理は手付かずだし、思わず唸りそうにしながらデザートを食べている私の髪を水の乙女オンディーヌは丁寧に整えていく。


(あー、そういえば!髪を全く気にしていなかったわ)


気づくの今更すぎたけど。
それこそ、魔導学園へ飛ばされたあと、風呂を堪能した後からずっと髪を下ろしっぱなしだった……のはともかく、そもそも梳かしてすらいない。
ぼさぼさだったかな?ぼさぼさだよね。
……猛スピードで森の中を走ったりしてたし。


『大丈夫ですよ。身体をお戻しする前にピンなどの飾りの残留物がないかの確認だけです』

「ありがとう」


私の困惑に気づいたのか、さりげなくフォローをしてくれた。
水の乙女オンディーヌは、しっかりしたお姉さんって感じだなぁ。素敵。

周囲の雑談は続いていき、私もなんとかデザートを終えて、紅茶が運ばれてきた。
……うん、お腹いっぱいすぎてお茶の入る隙間があるかどうか怪しいんだけどね!
満足感からか、はーっと満足のため息がでる。


(久しぶりに満足するまで食べ切った気がする……幸せ~)


改めて周囲を見渡すと、ルークは書類を片手に父様と母様の弾丸トークに適当に相槌を打つような形での会話に参加?あれって会話に参加してるのかな?……まあいいか。

セグシュ兄様はカイルザークに色々と説明している。
家族構成に始まって、父様と母様の爵位、職位、国の最近の情勢等…カイルザークは聞き上手だから。情報収集中っぽいなぁ。
そんな会話を聞きつつ、ユージアとエルネストがわからなかったところを質問していくような感じになっていた。
社会科の勉強っぽくて面白かったので耳を傾けていたのだけど……。

そんな歓談中にふと、1枚の書類の内容にルークの動きが止まる。
すぐに何事もなかったかのように、眉間のシワも消えたが……その書類がすっと向かいに座る父様の前へとスライドしていくと、今度は父様の眉間が今世紀最大の溝を作った。

その手紙はそのままルークの元へ戻ると、隣に座る母様にも渡された。
……どうもあまり良い内容の報告ではなかったらしい。

どうにも気になって、じーっと見ている私の視線に気づいたのか、話を変えるかのように父様がすっと立ち上がる。


「あー、そうだった、話が弾んでるところで悪いんだが、ひとまず明日の流れだけ説明させてくれ」


ぱんぱん!と父様の手を鳴らす音が響き、一瞬にして会話が止み、静まる……普段はしないんだけどねぇ。
やっぱり人数が増えると、学校みたいにみんなを一斉に注目させるには手を叩いたり、何かベルを鳴らしたりが必要になるのかしらね?


「まず、今回の件で入所予定がずれ込んでしまったが、ユージアは養成所へ明日出発して、明後日から授業開始となる。いいね?」

「はいっ!」


ユージアが張り切って返事をする。
頑張ってきてね。そして早く戻ってきてね。
そんな様子に父様は満足げに笑みを浮かべ軽く頷くと、今度は私やカイルザーク、エルネストに視線を向ける。


「明日の朝は、ユージアを見送ってから……先日の続きをする事になる。セシリアとカイルザークも一緒に属性の測定、その後、エルネストとカイルザークは王子達と勉強会だな……」

「セシリアは?」

「セシリアは、龍の巫女というお仕事があるから、龍の離宮へ行った後に、勉強会に合流するよ」

「龍……ね」


カイルザークの声がなんだか嫌そうな感じに聞こえた。苦手なのかな?
でも、守護龍って魔導学園では憧れの存在だったはずなんだけどな。
何かあったのかな?

父様は念のため。と、この国は龍の守護があるということを簡単に説明し始める。
守護を受けている国の守護龍と王族との関係。
国、国民たちの関係。


(龍が守護してくれてるだけでもすごいことなんだけどね)


たったそれだけで、その国は龍の持つ属性に関しての恵みを強く受けれる。
魔法が使える者であれば、その属性に関しては、使いやすくなる。
つまり相性の向上がある。本当にありがたい。


「そう……龍だ。セシリアは龍の離宮へ行ってから王宮の東にある小サロンに移動。まぁ、慣れればわかるようになるが、少し距離があるからね。案内はつくが迷子にならないようにね?そこが勉強会の会場となる。全員が集まっての開始になる、セシリアは焦らなくても大丈夫だよ」

「はい」

「龍の巫女としてのお仕事は、離宮に行った際に守護龍より説明されると思う。頑張って」

「はい……」

(当面はお茶会でもする?とか言ってたくらいだもんなぁ。何するんだろう?)


そういえばすっかり忘れてた(!)けど、私のつがいの赤ちゃん龍ってどんな子なんだろうね?
顔合わせできるのかな?
お父さんである守護龍のアナステシアスも凄い美人さんだったから、絶対きれいなはずなんだよなぁ。

思わずにやにやしそうになると、ふっと息を吐く声が聞こえた。


「セシリア、後日、正式な招待状を送る。カイとユージアの予定を合わせておいてもらえると助かる」


ルークだった。
シシリーわたしの部屋を漁ったお詫びの件ですよね……。
反射的に頷くと、父様が訝しげにルークを見て……というか母様までびっくりした顔をして見つめていた。


「ハンス……?何の招待状だい?」

「あぁ、ユージアの件もあるが…お詫び、だろうか?あと…これのお礼だな」


これ。と手を掲げると、ふっと音もなく現れる杖、そして剣。
そのどちらにも、私が父様にあげたものと同じ鈴が揺れているのを確認したのか、一瞬、眉間にしわが浮かび……同じく頷く。
私には父様のその表情が「あちゃー」って読めたのだけど、気のせいだよね?


「……なるほど」

「それと……こちらが本題になるのだが、どうやら守護龍から、セシリア嬢の契約精霊への指導を……私の精霊、風の乙女シルヴェストルが仰せつかったようで、そちらの調整の予定だ」


守護龍の話が出てきて、完全に納得したのか母様もほっとした顔で頷いている。

……風の乙女シルヴェストルがルナとフレアを震え上がらせてるのって、守護龍のアナステシアス様からの依頼だったのね…お手数おかけしてます…。
そうそう、精霊ってさ、龍とか完全に格上の属性を持つ生き物には無条件で従ったりするんだよね。
むしろその龍自体を住処にしてる感じらしいんだけどね。
つまり共生のようなもの?


(契約しても、まともに動いてもらえない私から見れば、羨ましい限りなんだけどね)


メアリローサ国ここの守護龍は風龍だから、風の乙女シルヴェストルにしたら、すごく嬉しい環境なんじゃないかな?
水の乙女オンディーヌは、何か考えがあって独自で動いてるっぽいから、ついでに協力してるような感じに見える。

どの属性の精霊にしても、膨大な魔力の塊である龍は魅力的な存在なんだけどね。


「カイとユージアは、ついでに精霊魔法の稽古だ……」

「げっ……稽古じゃなくてそれって…被験者って言ったりしないよね?」


何故だか先ほどからユージアの顔色があまりよろしくない色へと変わっていっている。
流石に実験台として幼児2人を使うことはないと思うんだけど?

あ、でも、自分の部下すら実験に使ったとかいう噂を、聞いたような……。
父様からだっけ?朝の食事中の弾丸トークの中だったかなぁ?


「……そんなに受けてみたいなら、巻藁代わりにしてもいいんだが?」

「それ、本当にやめて」


カイルザークからも非難の声が上がり、その様子にルークがくく…と喉で笑う。
巻藁って……カイルザークとユージアに何をするつもりなんだろうか。
ついで、とか言ってるし、巻藁って…試し斬りとか試し打ちに使うやつでしょう?

まぁ、軽い冗談だよね?と思って父様へと視線を向けると、思いっきり頭を抱えてるし。
え…まさか本気じゃ無いよね?!
ていうか、あの反応からするに、以前本当にやらかした前科があるってこと?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

処理中です...