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はじまりはじまり。小さな冒険?

162、意気込み。

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「訓練次第じゃないか?」

「……うん、頑張る」


ルークの声に、日々の鍛錬あるのみって聞こえた気がした。
ただ、カイルザークは嬉しそうにしているし、鍛錬っていう意味では…これから魔法学園に入学する前の準備的な授業が、なんと王宮で始まるわけだから……楽しみだ。

本来なら王族だけ…というか王子たちが受ける特別な授業なのに、私やユージアにエルネストまでもが一緒に参加できる。
またと無いチャンスだ。


(……あれ?カイルザークも、もちろん参加になってるんだよね?)


とっても勉強好きな子だから、一緒に受けさせてあげたい!
そういえばどうなってるんだろう?

この疑問は確実に確認しておかなければ!と思ったのだけど、まだ口の中には胡桃パン。
必死にもぐもぐとしている間にも会話は進んでいく。
ていうかみんな、食べるの早すぎだよ……。


「では、私も善処しよう」


カイルザークの意気込みを聞いて、ルークはとても嬉しそうな笑みを浮かべる。
まぁ、浮かべつつ…いつのまに手にしたのか、書類に何かを書き込んでいた。

ルークの左手は、本か必ず何かの紙を持ってる気がする。
結構な仕事人間だったとか?
もしくはルークの処理能力ですら、食事しながらでもこなさなければいけないほどに仕事が溜まるとかだと……ブラックすぎるよ?


「ん?なんでルークが善処するの?」

「聞いてないのか?明日からユージア以外は、魔法や一般常識等の授業開始で……」


カイルザークの疑問げな声に「おやおや?」というルークの声。そして……。


「そうだな、講師がハンスだ」

「そうね、ふふふっ」


父様と母様がにこやかに話を続ける。
ハンス、つまり講師はルークなのですね……。

そういえばそうだった、王子達は魔法の授業をハンスルークから受けるって言ってたもんなぁ。
王子達と一緒に受けるんだから、そうなるよね……。

あれ、そうなると私の先生もルークとか…?
えっと、あれぇ?……すごくイヤな予感しかしないんだけど。
ちらりとルークを見ると、その優美な顔に、にやりという言葉がぴったりと似合う、悪そうな笑みが浮かんでいた。


「今回、ガレット公爵家ここの子供は、王家と一緒に授業を受けることになる……もちろん、カイ、君もだ」


父様が「あぁ、そういえばカイには言ってなかったね…」と改めて説明してくれた。
カイルザークも一緒に受けれるらしい。やったね!


「げっ…善処しなくて良いから!」


……が、即座に、顔面が蒼白になっていくカイルザーク。
あ、うん、完璧主義なルークだもんね……。
しかも、学生~青年期これまでのカイルザークを知った上での指導。ヤダ恐ろしい!


「意気込みを聞いてしまった以上、協力を惜しむつもりはないよ」


頑張れ、カイルザーク!
私は普通でいいです。
多分とか考える前に、確実に普通レベルですらハードモードだろうし。
そこで惜しむ無き協力なんてされたら、それはどんなレベルになるのか想像もつきません。
というか想像したくもありません。


「安心しろ、各自のレベルにしっかりと・・・・・合わせた指導だ、無理をさせるつもりはない」

「それが一番安心できないんだけど……」

「あら……カイはハンスのことをよく知ってるみたいね。ふふふっ」


全くもって、安心出来ません!
私の心とは裏腹に、母様もルークもお茶を片手に楽しそうに笑んでいる。
ていうか、みんな食後のお茶が出てるし……えっと私の前にはまだデザート。
このみんなの食事スピード、どういうこと?


「ねぇ、母様。母様は光の魔法は、誰から習ったの?」

「ハンスよ。魔法は全般的にできるそうなの……凄いわよね」

「と、いうことは……」

「セシリアも一緒だね!……頑張ろう?」


じわりと変な汗がにじむ。
そんな私の様子に、なぜか安堵の表情のカイルザーク。
私は生贄になるつもりも、同士になるつもりもないっ!


「えぇぇ……私は母様でいいよ…」

「セシー……母さんも、ハンス先生とたいしてかわらないから」


縋る思いで、母様に期待の眼差しを送る……送ったんだけど、セグシュ兄様から絶望的な声が聞こえた。
大して変わらない、ですと…?


「え!?」

「あら、先生ってそういうものでしょう?」


びっくりして反射的に母様を二度見の様にして凝視すると、ふわりと、楽しそうに微笑む母様。
母様の中の教師像ってどんなだろう……ルークだけだったら恐怖しかないんだけど。


「もうちょっと優しくてもいいと思います……」

「覚えられるチャンスは、一瞬たりとも無駄にしてはいけないわ」

「……ヴィンセント兄さんは、治療院研修で母さんから指導を受けて……泣いてたよ」

「「うわぁ……逃げ場が、無い」」


カイルザークと私とで思わず頭を抱えてしまった。

ちなみにヴィンセント兄様、現在19歳。
その歳の差もあって私はあまり接点がなかったのだけど、すごく優しい感じの兄様だった。
えっと、実子、という意味で兄妹の中では、上から3番目でその下にフィリー姉様、セグシュ兄様、と続いて私になる。

ヴィンセント兄様は光の属性持ちではなかったのに、癒しの手ヒールが使えるすごい兄様です。
属性との相性が合わない魔法の習得は、なかなかに難しい。
そもそも今の時代、属性持ち以外の属性の魔法を使えるという人間自体がほとんどいない。
そんな相性外の魔法を習得するほどまでに、誰かを癒したいと思った事があったのだと思うと、やっぱり優しい人なんだと思う。

そんな人を泣かすとか……やっぱり母様も恐ろしい。


「2人とも……良い反応だけど、エルネストはもう授業始まってるからね?年上な分、君達より厳しいから……」

「……確かに、厳しい。でも、面白いです」


エルネスト、良い子!
気遣うようにエルネストを覗き込みつつの父様の説明に笑顔で返答してた。
ちょっと…顔が引きつってたけどね。

あぁ、でもこれから本当に、始まることが楽しみでしょうがない。
素敵な毎日になりますように。


「それって、僕、合流遅れれば遅れるほど、地獄を見るんじゃ……」

「そうなるな。属性や相性を鑑みても覚えるべき事はみんなより多い。せいぜい頑張るんだな」

「うえぇぇ……」


ユージアの呟きに、意地の悪い笑みを浮かべるルーク。
なんだろう、やっぱり親子なのに……自分の息子なのに、やたらと厳しいのね。

遠い目をしつつ、苺のジュレが美味しくておかわり。
春といえば苺だよね。レモンの酸味もきいていて最高でした。

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