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はじまりはじまり。小さな冒険?

161、きらきら。

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牡鹿は走りながら小鹿になり、自らがまき散らした雪の結晶をその疾走で攪拌して行く。
徐々に濃度が濃くなると、室内がきらきらと眩しいくらいのダイアモンドダストに包まれていく。


「ぜんっぜん見えない……」

「マジか……綺麗だぞ?」

「うん、凄いね。水の乙女オンディーヌはとても格が高い子なんだね」


興奮気味のエルネストは、ユージアにも…どうにか見えている状況を説明したいのだけど言葉が出てこない。
そんな2人の様子を眺めては、微笑みをうかべているカイルザーク。

この素敵な白昼夢のような光景が……どうしてもユージアにだけ、見えていないみたいで、みんなの表情とその視線の先を必死に追い続けている。


『ユージアは本当に鈍感なんだねっ!これなら見える?』


フレアがからかうように笑う。
ダイアモンドダストが正餐室せいさんしつの中心、一番大きなシャンデリアを包むように舞い始め、眩しいくらいにきらきらと輝いていた真下までフレアは歩いて行くと、小さく礼をする。
ダイアモンドダストへ向けて両手を掲げると、室内が突然、暗闇に閉ざされる。


『動かないでね?怖くないから』


にこりと笑うと、手を胸まで下げて、水の乙女オンディーヌのようにその手にふうっと息を吹きかける。
すると、壁も天井も存在はしているが、透過した状態になり、外の景色が見える。
天井には魔石のシャンデリアが浮き上がるようにして存在していて、周囲を漂うダイアモンドダストを優しい薄明かりで照らし出しては、きらきらと浮かび上がらせる。


「あぁ、これも素敵ね」

「屋敷からの夜景か……」


そのまま、屋敷の外の夜景になるのだろう。
王都は、中心にある王城に向かうほど丘のように高台になっていて、王城のすぐ近くに建つ公爵邸はそれこそ城下町を見下ろすような絶景となっていた。


『僕はこれくらいしか出来ないけど……』


そう言って手を胸にあて、再度軽く礼をする。
充分だよ。とっても綺麗。

フレアが顔を上げた瞬間に、ダイアモンドダストはオーロラに変わり足元を明るく照らし始める。

必死に目を凝らし続けているユージアに気づいたフレアは、流石に可哀想になったのか、戻りぎわに「見せてあげる」と肩を叩いた。
すると、あの不思議な光景が瞬時に視界いっぱいに広がったのだろう、目を見開き少しの間見惚れた後、くやしそうに俯いてしまった。


「なにこれ……凄すぎ。僕だけが見えてないとか……頑張る」


部屋にふわりふわりと広がるオーロラの光のカーテン、そして、フレアの魔法は庭にまで飛び出したのか、白い淡い光を纏った水でできた子ウサギたちが、公爵邸の庭をぽよんぽよんと跳ね回りながら、照らし出す光景もまた神秘的だった。


「この中の種では、エルフが1番…精霊との親和性が高かったと思うんだが……」


みんな時が止まってしまったかのように、動きをそして息すらも詰めて、この不思議な光景に見入ってたわけだけれど、ユージアの呟き、そしてルークの呆れ切った声によって徐々に我に返っていく。

ぱちん。とフレアが手を叩くと、視界に広がっていた闇も光も全てが剥がれていくように一塊に集約し、瞬時にしていつも通りの正餐室せいさんしつへと戻る。
……十分広い部屋なのに、夜景が見えなくなっただけで少し狭く感じられた。

水の乙女オンディーヌがカーテシーをして、その集約された拳ほどの塊に触れると、小さく弾け、金平糖の様な形になると各々のグラスへと飛び込んでいった。
きらきら光る氷。素敵すぎる。

興奮冷めやらないのか、所々から感嘆からと思われる小さなため息が聞こえた。


「宰相と子息は…相性の問題だが、気配がわかるなら、十分だ。最初の時点では普通の人間には……感知すらできない状態まで、気配をさげていたからな」


ぼそぼそと呆れ声のルークの説明が始まった。
相性か……水と火は相性が悪い。ってわけじゃなくてね、水の属性を持ってるかどうか?という相性になる。
父様もセグシュ兄様も火と風の属性は持ってるけど、水は持ってないから。


「カイはともかくエルネスト君も見えているのは……これも相性だな。高度の水持ちだったな」

「はい!」


優秀だ、と褒められて、にこにこのエルネスト。
良い顔だ。
最近のエルネストは、怒ってるか怯えてるかしか見てなかった気がするから、私まで嬉しくなる。


「大聖女は守護龍の加護だろう。セシリアは……契約してる精霊と…番の影響もあるかも知れん」


精霊と契約してるだけで、他の精霊の気配もなんとなくわかるようになるっぽいってのは知ってた。
でも、つがいの影響ってのは意味がわからないし、、私の相性自体は現状不明だしなぁ。
明日の属性検査の結果次第。さてどんな結果が出るんだろうね?

……そして、はたと気づいた。
あんなに素敵な場面に出くわしたのにもかかわらず、みんなしっかりご飯食べ終わってる!
私だけ、まだパンが残ってた…。
みんな、早すぎじゃない?

あぁ、でも久しぶりに思いっきりご飯を食べた気がする。
今までは父様と母様の弾丸トークをBGMにしてのご飯も寂しくはなかったんだけどね、やっぱりこうやってお友達の顔を見ながら食べるほうが良い。
絶対に楽しい!

胡桃のパンにかじりつきながら、周りを見渡して思わずニヤニヤしていると、憮然とした顔のカイルザークがいた。


「ねぇ、僕は…?なんで省略されてるのさ……」

「カイ、お前は覚醒してるから、基本的には獣人ではあっても性質が精霊寄りになってるんだ……仲間が見えないはずがないだろう?」

「なるほど……そういう事…って!じゃあ魔法の威力も上がってるのかな?」


あれ、カイルザークって元から魔法得意だったよね?
だから魔導学院にもいたし、研究室にも所属してたんだもんね?
ん~でも、子供に戻っちゃってるから、筋肉とかと同じで成長次第というか、ある程度リセットされてる部分もあるんだろうし……。
あ、でも若返ったのと、身体の時間が戻ったのとでも扱いが変わってくるのか。
若返っただけなら、筋力はともかく、習得した技術はそのままだもんね。
さて、どっちなんだろう?


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