146 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?
146、一緒にいたい。
しおりを挟む「でもさ、カイもルークのとこから通う事になったら、ユージアも一緒で良いんじゃないの?」
「いや、僕は、帰る気はないからね?」
凄い勢いで拒否の姿勢をとるユージアに、カイルザークが不思議そうに首を傾げる。
「何でそんなにルークを毛嫌いしてるの?君の父親でしょ?」
カイルザークにとってのルークはとても優秀で尊敬に値する先輩だった筈だ。
まぁ、私から見ても優秀な大切な友達だったわけなのだけれど……あ、最近の暴走っぷりは無しとしてね。
「……襲われたらしいよ?行方不明だったって言ったでしょ?救出されて感動の再会!ってとこで」
「は……?」
まぁ、そんな場面にセシリアの母様も同席してたらしいんだけどね。
しかも、がっつりガン見してたっぽいし。おそろしや。
「その前にさ『同僚すら実験材料にした』とか『人を人とは思わない』とか『姿を見せることが滅多にない得体の知れない辺境伯』で有名なんだよ?こっ…痛い!痛いからっ!」
「噂だけで判断するのは良くない……」
こ。の次にユージアは何を言おうとしてたのだろうね?
話の途中で、会話を止めさせたかったのかルークからぐりぐりと拳骨を押し付けられている。
珍しく素手での攻撃に思わず笑ってしまう。
いつもは角砂糖とか飛ばしてたもんね。
「え……それって僕、五体満足で学校通ったり…出来るのかな…?」
「……そんなにイヤなら、うちに来る事にならないように頑張るんだな。2人とも」
ジト目になって茫然と呟くカイルザークの言葉に続き、いつもより低めの、不機嫌な声がその場に響く。
ぎくりと、声の主におそるおそる振り返ると、にやりと意地の悪い、しかし最高に楽しそうな笑みを浮かべているルークがいた。
少し歪んでいて、素直な笑みではないけれど、その美貌も相まって思わず見惚れてしまう。
何かの映画で見た、美貌の魔王様みたいだわ……。
******
……ふと気づけば、片手に持っていた水はお茶に変わり、膝の上には数枚のクッキー。
小春日和のほんのり暖かい日差しと共に、まったりと…とまではいかないか、情報共有ってことで魔力測定会の日の出来事から、セシリアが拐われてしまった事、拐われた先での出来事をさらっとカイルザークに説明することになった。
カイルザークの反応としては「お粗末すぎるでしょ」と、ぽつりとこぼしてたくらいだった。
まぁ、私が一方的に説明したしただけだから、現在進行形で教会への対応しているルーク特に口を開かなかったのを見ると、きっと他にも色々と悪事が出てきているのかなと思った。
(今度話してくれるって言ってたし、その時にはちゃんと説明してもらえるのかな?)
気になるところではある。
特に『籠』と呼ばれる、場所に長らく監禁されていた少年たちの事。
私の誘拐に関しては、そもそも魔力持ちの誘拐が恒常化していたようなので、今回の大騒ぎの原因は、感覚が麻痺しての結果だろうと思っているから、あえて言わなくても厳しく詳細が調べられるに違いないと思っている。
ただ、うまい具合に揉み消されることがないようにだけ、願いたい。
「あれって、さっきフレアが言ってたお迎えかなぁ?なかなか来ないと思ったら、あの大軍じゃあしょうがないよね」
「あ!……本当だ。来た来た」
野営広場の入り口の向こう、まだ少し離れた位置にぼんやりと、商隊と言うよりは軍隊!といった感じの、かなり幅をとった馬車のような隊列が見え始めた……。
随分進み方がゆっくりだなぁ……なんて思っていると、明らかに王家の馬車と、その護衛だとわかる軍団が土煙を上げながら、こちらに近づいてくるのが見えてきた。
いくら整備された街道といっても、さすがに一般の馬車より大型の車体の周囲を、さらに取り囲むようにして併走するとか、他の馬車とのすれ違いとか厳しいと思うんだよねぇ。
陽もだいぶ高くなり、時刻はちょうど昼前ぐらいだろうか?
本来ならば、私の徒歩移動であれば、まだまだ森の中だったのかもしれないから
到着時間としては遅すぎた、ということはないはずなんだけどね。
(そういえばお昼ご飯の準備しなかったなぁ……まぁ、お腹すいてないから良いかな。酔ってるし)
そもそも、フレアから『もう到着する』って聞いてたから、準備しなかったってのもあるのかな?
なんて、ルークからもらったお茶をちびちび飲みつつ、隊列が徐々に近づいてはっきりとその姿が見えてくるのをぼーっと眺めていた。
馬車とその護衛の軍団は野営広場の大きく膨らんだ部分で歩を止めると、私達に気づいたのか先触れと思われる騎士が馬から降りて近づいて来る。
ルークの姿を認めると、敬礼のようなポーズをとった。
白く磨き上げられた鎧がきらりと光る。
……メアリローサ国の騎士ですね。
「お待たせ致しました!お迎えにあがりましたっ」
格好いい!とか思いながらぽかんと見つめていると、後方に止められた馬車から小さな人影のようなものが転がり落ちるかのように飛び出し、なんだろう?と、目を凝らそうとし……あっという間に、目の前に近づいてくる。
「セシリアっ!……って1人増えてる」
エルネストだった。
エルネストも、やっぱ獣人なんだなぁ。速い。
そんなエルネストの表情は…心配してくれていたんだろうね、少し青ざめていた。
そんな顔はさせたくないと思う。
でも思いっきりさせてしまってたんだね、反省しないとだ。
こちらの世界では『行方不明→二度と会えない』なんてことが当たり前にあるのだから。
「「あ、獣…人…?」」
エルネストが一目散に駆け寄ってきたのと同時に、カイルザークの姿を認めると、不思議な顔をして固まってしまった。
不思議を通り越してあれは『不審』かもしれない。
カイルザークも、彼にしては珍しく、眉間しわしわにして見つめあってる。
「「獣人だね?」」
ユージアと私とでハモるように言ってしまったけど、とにかく2人の反応が面白くて、思わず笑ってしまった。
極端な反応なんだよなぁ、何かあったんだろうか?
転がり落ちるように馬車を飛び出してきたエルネストに遅れること少ししてから、馬車から数人の人影がさらに降りてきた。
「セシー!おかえり!って……1人増えてる」
「あ!、2人目っ!…ほらね、普通はこの反応するって…あははっ」
既視感!
ユージアは笑っていうけど、君も同じような反応したよね?
だから、これで3人目だからね?
馬車から降りてきたのはセシリアの父様と母様だった。
嬉しくて思わず顔がほころび走り出す。
「父様母様っ!」
「セシー!おかえり」
思わず父様へと駆け寄ると、その勢いのままに抱き留められる。
ぽんぽんと頭を撫でられる。
……やっぱり父様が1番落ち着く。
「頑張ったんだってね。話は聞いたよ?」
「セシリアはお友達いっぱいでいいわねぇ」
うふふ。といつもなら頭上から聞こえるはずの母様の声が、間近に聞こえた。
あぁそうだった、いつもの小さな姿じゃなかったんだった……。
思いっきり父様に向かって飛び込んでしまう格好になってしまったけど、と思ったけどびくともしなかったな……うん、頑丈な父様で良かった。
あやうくウッカリで父様にタックルをくらいかけさせた事に気づき、冷や汗が浮かびかけたところで、私のローブの裾をつんつんと引かれる感覚があり、振り向く。
「ねえさま……?」
「ねえさま、ですって!可愛いわぁ~。セシリアはこの子のお姉ちゃんなのね?」
ひょこりと、私の影からカイルザークが父様と母様を見上げるようにしていた。
あざとい!あざといよ!カイルザークっ!
さっきまでの不遜な態度はどこ行っちゃったのさ……。
私よりしっかりした会話してたじゃないかっ!
「ハンス……この子は…?」
母様の表情は既に、とろけそうな程に緩んでいる。
カイルザーク、可愛いもんね。
0
お気に入りに追加
626
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る
堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
「お前を愛することはない」
デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。
彼は新興国である新獣人国の国王だ。
新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。
過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。
しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。
先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。
新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。
みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。
主人公は断罪から逃れることは出来るのか?
家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~
りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。
ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。
我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。
――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。
「はい、では平民になります」
虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。
運命の番でも愛されなくて結構です
えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。
ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。
今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。
新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。
と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで…
「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。
最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。
相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。
それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!?
これは犯罪になりませんか!?
心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。
難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる