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はじまりはじまり。小さな冒険?
133、もふもふ。
しおりを挟む人懐こそうににこにこ笑いながら、ユージアが近づいてくる様子をカイルザークはじーっと見つめている。
ユージアもカイルザークのケモ耳やしっぽを観察するように見つつ、私のそばにしゃがみ込む。
そうだった、絨毯張りの床とはいえ、そこにぺたりと座り込んでいたのだった。
「セシリア、また泣いてたでしょ?何か辛かった?……夢、みちゃった?」
「……痛かった?ごめんね、でも大丈夫」
「うん」
笑って返事を返す。大丈夫。
ユージアには心配そうに覗き込まれたけど、むしろ謝るのは私のほうだよね。
胸、痛かったよね。
お風呂行ってたのに、胸の痛みで呼び戻すような状況になってしまったのだろうか?
それにしても……と座り抱っこのままのカイルザークの頭をぽんぽんと撫でながら、不思議そうに話を続ける。
「セシリアって、もふもふが異常に好きだから……いきなり襲いかかるくらいに。本当にこの子を造っちゃったのかと思ったよ」
「好きだけど、襲ってないよ?!」
襲うとか……心外なんだけど!
確かに隙をついて触ろうとはしたし、ていうか触っちゃったし……堪能もしちゃったような気もしなくはないけどっ!
襲ってないよ?!
首をぶんぶんと振って否定してみたけど、ユージアは自信たっぷりに頷きながら、カイルザークにも教えるかのように返事をする。
「いや、あれは襲ってた」
「え……セシリアって、そういう子なの……?」
カイルザークにまで遠い目をされてしまった。
そういう子って、どういう子ですか……。
何かを警戒するかのように、そろーっと、膝から逃げ出してるし。
「誤解だからねっ?エルが……あ、カイみたいな獣人の子がいるんだよ、その子が可愛くてついつい」
「ついつい捕獲して全身撫でまわしてたよねぇ……」
ユージアがにやーっと悪い笑みを浮かべてる。
全身とか!撫で回してません!
全力でひたすらに首をぶんぶん振りながら否定するも、カイは私から少し離れた位置にしっぽと耳を隠してちょこんと正座している。
……警戒してる?
「可愛かったから……でも、そこまでは、してないからね?!」
「……そうか『子供なら許される』なるほど……うん、この姿も悪くはないね」
カイルザークがにこりと、可愛らしく微笑みながら『悪くはない』と何かを納得していた……何が『悪くはない』んだい?
ていうか、何を考えているんだ。
それを聞いたユージアは、遠い目をしつつ。
「うわぁ……セシリアの野郎版みたいなのがいるよ…」
「「それ失礼すぎっ!」」
「うわぁ……ハモるくらいに……うわぁ」
めちゃくちゃ引いてるよね。
ていうか、私そんなに悪い子じゃないはずなんだけどなぁ
ユージアから見た私って、どんな子に映ってるんだろうね。
「あははっ、僕はカイルザーク、よろしくね。さっき卵から生まれたとか言われてたんだけど……一応、普通の獣人のはずだよ?」
「あ、本当だ。卵なくなってる……ってあの血塗れの服、何?うえぇ酷い血濡れ…」
「僕の、だよ。もう着れそうにないけど、ね」
「そっか……僕はユージアだよ。よろしくね」
血塗れでぼろぼろのカイルザークの衣類を視界におさめると、驚いたような言葉とは違って、とても悲しそうな表情をしたユージア。
よろしく、と言う頃には、いつものにこにこに戻っていたのだけれど。
「ん~、そろそろ出発の準備したほうが良いよって起こしにきただけなんだけどさ、この子、どうするの?」
「……えっと、とりあえず帰ったら何とか……ならない?」
「ならないと思う」
思わずしょんぼりする私の隣に正座していたカイルザークが、ユージアをじーっと見つめ続けていることに気づいて、不思議そうに首を傾げると、ぽつりと呟く。
「ユージアは懐かしい…匂いがする……少し、臭いけど」
「えっ!?風呂上りなのに……」
臭いと言われて、反射的に自分の袖の匂いを嗅いでいるユージア。
そもそも、その服は新品でしょう……?
でも、やっぱりちゃんと洗えてなかったのかな?少し不安になる。
「ちゃんと洗えてる?やっぱり、教えようか?」
「だ、大丈夫、ちゃんと洗ったし!」
「でも、臭いらしいよ?」
必死に否定をされるけれど、また誰かに任せて、変な誤解が生まれるのは嫌だしね。
機会があれば必ず今度は私がっ!
嫌がっても確実に私がっ!
……ここまで張り切ると、本当に変態のような気がして自分にびっくり。
でも、知っておくべき事はちゃんと教えてあげたい。
がんばるぞ。
そう思ってたら、そうじゃないよとでも言うように、カイルザークが軽く首を振って、話を続ける。
「……毒の臭いがするよ。長患いのようだから…しっかり解毒した方がいい」
「毒……」
ユージアが思いっきり嫌な顔をする。
そうだよね、毒には思い当たることがありすぎるから。
「あ……そういえば『籠』でユージアだけ解毒してもらってなかったんだっけ?」
「僕には効いてないと思ってたんだけどね……死ななかったし」
「馴染んでしまっているだけだね、君はエルフ?だよね?耐性があるんだと思うよ。それでも毒が残ってるくらいだから、かなりきつい毒だったのかな?」
相変わらずカイルザークはユージアを観察するかのように、じーっと反応を待っている。
警戒心が強い子だからなぁ……。
昔から必ず、どんな会話でも相手の反応をしっかり吟味してからの、対応をする子だった。
だから、と言ってはいけないのだけど、研究所内の交渉役にはうってつけで、とても優秀で。
ただ、本人としては、人と接する事自体が苦手だったようで、褒めると嫌がってたけど、まさに適材適所という塩梅だった。
まぁ、警戒されなくなれば、ゆるーくお話ができるようになるんだけどね。
「……セシリア、この子、鼻良すぎない?」
「えっと……そうね、あの人体模型の共同研究者って言ったら納得してくれる?」
「あ~……うん、変態仲間っ!」
今度はユージアが思いっきり警戒の表情になった。
しかし……変態とか、酷い。
あの人体模型、そんなに衝撃的だったのだろうか。
でもちゃんと役に立つものだったんだよ?
作るにも、かなりの苦労があったんだからね?
「変態って…酷い……あ、でも多分、キミもそんなに変わらないと思うよ?」
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