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はじまりはじまり。小さな冒険?

118、温泉。

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「って、冷たっ!?セシリア、湯冷めしてるじゃん……もう大丈夫だから、温まっておいで」

「うん、ちなみにね、あと洗ってないのは…前だけなんだけど。洗い方……教える?」


さっきまで気持ち良さそうに思いっきり緩んでいた表情が、即座に紅潮した顔に戻ってしまった。
やっぱり、可愛い。


「自分で洗うっ!」

「あははっ!じゃあ、洗ったらちゃんと湯船に浸かるんだよ~」


反応が可愛すぎて思わず笑いつつ、湯船に向かう。
ユージアを必死に洗ってた時は、ほんのり汗をかくくらいだったんだけどなぁ。
濡れたバスタオルを巻いてるから、ここから冷えちゃったのかな?
かけ湯をすると、肌にあたるお湯がかなり熱く感じられた。

湯船に浸かると、お風呂セットを置きっぱなしにしていたあたりまで移動して、湯船の縁で頬杖をついて、ぽやーっとする。

……まぁ最初にいた位置だから、遠目に身体を洗うユージアの背中が見える。
覗き趣味じゃ無いからね?昔の癖だからね?子供の姿を視界から外したく無い。
何か怪我でもしてしまったら嫌だし。


(子供って、本当に一瞬の隙をつくように、とんでもないことをしでかすからなぁ……)


ん~そういえばだけど、ユージアって出会ってから急激に行動が幼くなってきてる気がする。
出会ったばっかりの頃は、かなりしっかりした感じ……うーん、ちょっと違うな、なんか飄々とした感じのお兄ちゃんって印象だったのに。
精神こころが育ってないって聞いてるから、多分これが本来のユージアなんだろうなぁ。

……こんな子達を教会は『雛』と呼んで『籠』という猛毒の香を焚いた部屋に閉じ込めていた。
思考を制限し、生活最低限の生きていくための教育すら施さずに。
そして、使い捨てる。
教会の影響を考えるごとに、どんどん許せなくなっていく。

真面目な信者もいるのだろうけど、やはり、宗教嫌いの私には……ダメだね、拒絶反応が出てしまう。

教会自体を裁くのは、父様たち大人の仕事だけど、被害を受けた子供たちは裁かれた教会を見て、許せると思える日が来るのだろうか?
亡くなってしまった子たちは?

……今、考えるべきことでは無いね。
また泣き出すか、奴隷紋に刺激がいってユージアを苦しめてしまいそうだ。


(あー椎茸茶飲みたいな。昆布茶でも良い……梅昆布茶が良いかも!)


ここの大浴場は、奥に進むと半露天風呂のようになってる。
まぁ露天って言っても、地下なので洞窟の壁がそれっぽく露出しているだけなのだけども。
少し照明も落とされていて、水晶なんかもちらちらと見えて幻想的なんだ。

そこまで進むと、ちょっとした飲料が出てくるコーナーがある。

そこへ向かって少し奥に進もうかと思っていると、ユージアは身体を洗い終えたのか身支度を整えはじめているのが見えた。


『洗って貰えばよかったのに』

「は?!」


ユージアのものでは無い、子供の声が聞こえてきた。
鈴の転がるような可愛らしい女の子の、精霊独特のよく通る声。


『ちゃんと全部・・洗って貰えば良かったのに』

「あれ?風の乙女シルヴェストル?」

「自分でできるから、いいのっ!」


私とユージアのちょうど中間地点に、ふわりと白いワンピース姿の女の子が、浮かび上がるように姿を現した。
ユージアは必死に反論しているけど、風の乙女シルヴェストルは全く気にした様子はない。
というか、にやにやと状況を楽しんでいるようにも見えた。
……こういう子供らしい反応って、精霊は好きだもんね。


『セシリア、お風呂中にごめんなさいね。風呂場から悲鳴が聞こえたって言われて様子を見にきたのよ……結局、一緒に入ってたのね』

「それ誤解だから……」


湯船の縁で頬杖をつく私の前で、ふわりとカーテシーをしてにやりと悪戯な笑みを浮かべると、ちらりとユージアへ視線を向ける。


「なにが誤解なのか凄く気になるところだけれど、一緒には入ってるでしょう?ふふっ」

「本当に誤解だからね?!」


まぁ、誤解より何よりそのままだと湯冷めさせちゃうから『おいでおいで』と手招きをすると、おずおずと湯に入ってきた。
ん~やっぱり、かけ湯を知らないな?

いきなり入ったら、火傷しちゃうかもしれないからね。
あとはなんだっけ?あぁ、身体を清めてから入るっていう意味もあるんだっけ。
いきなりどぼんっと飛び込むよりは、綺麗に見えるでしょう?

こっちの世界での温泉マナーは知らないけど、やらないよりは良いだろうし、これも後で教えてあげようっと。


『まぁ問題なさそうだから、監視に戻るね。ごゆっくり~』

「お仕事増やしちゃってごめんね。風の乙女シルヴェストル、監視ありがとうね、頑張って行ってらっしゃい」

『はいはーい』


風の乙女シルヴェストルはくるりとその場で回るように向きを変えると、白いワンピースがふわりと広がる。
その様子をぼんやりと眺めていると、ふと、何かを思い出したのか、こちらへ戻ってきた。
ユージアがびくりと小さく飛び上がる。


『あ、そこの幼生ユージアを洗うお手伝いが必要なら呼んでね?拘束くらいならいくらでも・・・・・手伝えるから♪』

「手伝い、いらないから……本当にやめてっ!」


ユージアは顔を真っ赤にさせて怒って…る?
困ってるのかな?
風の乙女シルヴェストルを苦手そうにしてる気がするんだけど、何があったんだろう?


「拘束……?ユージアは、お風呂で…何してたの」

「えっと……王宮で、洗われまくったって言ったでしょ?その時にちょっと、ね……」


マナーの悪さを注意されたのかな?
あ、そもそも私もマナー知らないんだけど。
身のこなしの良さで、逃げ惑っての捕獲だったり?


「あ……だからさっき『捕まった』って……風の乙女シルヴェストルに『拘束』されてたのね…そういう趣味とか?」

「違っ!違うからね?!1人で入ろうとしたら、メイドが2人来て『身体を洗うのを手伝う』って…恥ずかしかったから断って逃げようとしたら、風の乙女シルヴェストルが来て、両手足を拘束されて……」


あぁ、貴族でも無ければ湯浴みなんて1人が当たり前だしなぁ……。
逆に言えば、湯浴みを手伝われるとか、しかもユージアから見たら異性であるメイドさんに。
恥ずかしくて嫌だよね……。

現に説明しているユージアは、湯にのぼせたのか恥ずかしいのか判別つかないほどに顔を真っ赤にさせて涙目になっている。
まぁ、その表情がめちゃくちゃ可愛いわけなんですが、さすがに今、可愛いとか言ったら怒られそうなので静かに聞く。


「それって10代いつもの姿でだよね?」

「うん……しかも風の乙女シルヴェストルにかなりの時間、じーっと風呂を観察されてたし」


相当恥ずかしかったみたいで、説明している間にも、金の瞳がうるうると……ダメだ可愛すぎる。
あんまり近づきすぎると、うっかり抱きつきかねない…じゃなくて、露天に続く湯船を少し奥に進み、飲み物を確保すると真っ赤な顔のユージアへ渡す。

恥ずかしさの紅潮じゃなくて、湯でのぼせてたら怖いからね。

氷の入ったレモン水が、温度差からか頭がキーンとなるくらいに冷たくて美味しい。
温泉なら熱燗でしょう?と絵的にはなるんだけど、未成年なのですよ!

というかそもそも、こんなに身体が温まって元気な時にお酒なんて、しかも日本酒って度数高いもんね。


(呑んでしまったら、一気に酔いが回って、よほどお酒に強い人じゃ無いと倒れちゃうからね?)


まぁ、大人になったら試してみたいと子供心に思っていた時期もあったわけですけどね。
実際は、熱燗じゃなくて氷水かスポーツドリンクが一番美味しかったです……。


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