上 下
115 / 455
はじまりはじまり。小さな冒険?

115、死因。

しおりを挟む




隣に座っていたはずの風の乙女シルヴェストルの姿が、焼き菓子の盛り合わせとともにいつの間にかに消えていた。
朝まで見回り続けるって言ってたし、上のゲートの安全確認へ行ってくれたのかな?


「それにしても……この卵、なんだろう?本当に記憶に無いんだけど…どうしよう」

「卵に見覚えは……本当に、ないのか?」

「ない。なんだろうこれ?」


ルークは酷くショックを受けたように目を見開いて、悲しげに視線を伏せてしまった。
本当に、全くもって、記憶にない。
でも、知らないといけない事なのだろうか?

なにか思い出せないかと、隣に置かれた卵に触れてみる……温かい。
卵は、ほんわかと内側から発光しているのかと見紛うほどに、白い。
魔物の氾濫スタンピードがあったあの日から、ずっと眠り続けているという時点で、精霊か聖獣……神獣と呼ばれるような種族の卵なのだとは思う。

いや、待って?『獣』ってつくから哺乳類みたいに、お母さんから生まれてくるんじゃないの?
卵で良いのか……?


(……あの夢でシシリーわたしが助けようとしたのは、子供だったはずだ…卵は知らない)


あの子供は無事だったのだろうか?
どうしても思い出せず、助けを求めるようにルークを見ると、視線は伏せられたまま、言いにくそうにポツリと言葉を発した。


「あぁ……それは、まぁ……端的に言えば、シシリーきみの死因だ」

「死因って……」


まさかの死因!
……これ、起こしたら、また死んじゃうとかいうフラグじゃないよね?!

フレアを『どんな理由で縛りつけていた』のか……。
もしかして手に負えない魔物を封じた『封印』なのか。
もしくは守るために閉じ込めた『保護』なのか。

ざーっと寒気が背を駆け巡る。


(理由、聞いてないや…でも、起こしてあげてって言ってたし、害のあるモノじゃ無いよね?)


ていうか、1000年放置の時点で…起こしても恨まれてたりしない?
今回のタイミングでもなければ、下手すると2000年後とかにもなってたかも知れないわけで……。


シシリーキミは、それを守るために、死んだらしい」

「らしいってのは?」


手が、寒くもないのに、かじかんでくる。
腕に震えが……ぞわり、と背にも寒気が襲ってくる。


(あ、これはヤバイかも……あぁ、でも知りたい!)


そう思っていると、膝の上で抱えていたユージアの、私に抱きつく腕にぎゅううっと力がこもった。
……3歳児いまのわたしに聞かせる話ではないのはわかっているのだけれど、どうしても気になる。


「……私が駆け付けた時には、それと子供しか残されていなかった……遺体は確認できなかった」

「遺体が無いって?」

「無いんだ。ただ、目撃者はいた。シシリーは持てる全て・・を使ってその卵と子供を守ったらしい……それだけだ」

「全て……」


『全てを使う』……咄嗟に足りない魔力を補うために、自分の身体の一部を生贄のように捧げて魔力へと還元、使用するという事がある。
『大きな魔法を使った反動で、視力を失った』とか『普段は使えない魔法を必死に発動させたら、腕を失った』こういうものは無意識に行われてしまう事もあるのだけれど、流石に命どころか身体全てとなると……確実に本人シシリーの同意があってのことだと思う。

自殺同然の行動だ。
絶対にやってはいけないし、誰かがやらなくてはいけないような状況を作ってはいけない。

……それをやってしまったのなら、シシリーはどんな気持ちだったのだろうか?
せめて状況を知りたいと思ったのだけど……怖い。
身体が強張っていくのがわかった。


「その時に、精霊あのこを縛り付けちゃってたのかな?」

「多分だが、シシリーの死の記憶が無いのは、自らの死を認識する前に、消滅したからなのでは……と思う」

「守らせたまま、それも忘れてたとか、ダメダメだね……フレア、ごめんね」


視界が一気に歪む。堪えようとしたのに、決壊したかのように止まらなくなる。
酷く緊張したときのように、呼吸が難しくなる……。


(あぁ、やっぱりダメか……怖いよね。いきなり死ぬ話とか。しかも脳内で覚えてるだけは再生されちゃうから……恐怖映像だよね)


精霊フレアへの罪悪感よりも自分の死への恐怖が止まらない。
怖い、怖い、怖い……。


「親父、ストップ。紋が痛い」

「わかった……」


ユージアが胸を掴むようにおさえている。
紋…奴隷紋の事だよね。
護衛契約がメインの奴隷紋の場合、雇い主の生命の危機に際して、奴隷門が反応して、主人のもとへ呼び寄せる、というのがあった気がするのだけど。

……生命の危機を感じるほどの、恐怖だったのだろうか。
まさか痛みで知らせるなんて……ユージアも痛かったんだね、ごめん。

謝らないと……と思ったら余計に涙が止まらなくなってしまった。


「ねぇ、多分だけど、離宮の屋根を吹き飛ばした時も、その辺りの怖い夢だったんじゃないかな?紋の痛み方が同じ感じだし」

「離宮で見た夢は……街で……魔物がいて、子供を助けようとする夢だったの。でもすごく、怖かった」


多分、あの夢は、ルークの説明してくれた、そのときの記憶の一部なんだろうね。
記憶としてははっきりと覚えていないのだけど。
目撃者がいたということは、いずれははっきりと理由を知る事ができるんだろうか?

……そして、シシリーわたしが全てをかけてまで、守ろうとしたものは、ちゃんと守られたのか?
今は無理でも、いずれは知りたいです。

そう伝えたくて、ルークにお願いしようと思って……でも、呼吸でいっぱいいっぱいの口からは言葉が出てこなくて、そのまま泣き続けることになってしまった。


「……大切な話ではあるから、いずれまた……学園入学前くらいには、説明の場を作ろう」

「うん……お願い」


でも、ルークが先に言ってくれた。
ありがたい。
いずれは知りたい事、入学前だったら、落ち着いて聞けるようになれるかな?


「セシリアも辛そうだし、帰りの道も安全そうだし?明日の朝早いなら、さっさと寝ちゃおうよ。あとは食料持つだけでしょ?体調を整えておくのも大事だよ?」


相変わらず、胸を鷲掴みにしたままで、少し苦しそうに顔を歪ませつつ笑顔を作っているユージアを見て、ただただ申し訳なくて、余計に涙が止まらなくなる。

本当にごめん。
心配かけちゃって、ごめんね。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後

綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、 「真実の愛に目覚めた」 と衝撃の告白をされる。 王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。 婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。 一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。 文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。 そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。 周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?

【完結】お前を愛することはないとも言い切れない――そう言われ続けたキープの番は本物を見限り国を出る

堀 和三盆
恋愛
「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」 「お前を愛することはない」  デビュタントを迎えた令嬢達との対面の後。一人一人にそう告げていく若き竜王――ヴァール。  彼は新興国である新獣人国の国王だ。  新獣人国で毎年行われるデビュタントを兼ねた成人の儀。貴族、平民を問わず年頃になると新獣人国の未婚の娘は集められ、国王に番の判定をしてもらう。国王の番ではないというお墨付きを貰えて、ようやく新獣人国の娘たちは成人と認められ、結婚をすることができるのだ。  過去、国の為に人間との政略結婚を強いられてきた王族は番感知能力が弱いため、この制度が取り入れられた。  しかし、他種族国家である新獣人国。500年を生きると言われる竜人の国王を始めとして、種族によって寿命も違うし体の成長には個人差がある。成長が遅く、判別がつかない者は特例として翌年の判別に再び回される。それが、キープの者達だ。大抵は翌年のデビュタントで判別がつくのだが――一人だけ、十年近く保留の者がいた。  先祖返りの竜人であるリベルタ・アシュランス伯爵令嬢。  新獣人国の成人年齢は16歳。既に25歳を過ぎているのに、リベルタはいわゆるキープのままだった。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

家族内ランクE~とある乙女ゲー悪役令嬢、市民堕ちで逃亡します~

りう
ファンタジー
「国王から、正式に婚約を破棄する旨の連絡を受けた。 ユーフェミア、お前には二つの選択肢がある。 我が領地の中で、人の通わぬ屋敷にて静かに余生を送るか、我が一族と縁を切り、平民の身に堕ちるか。 ――どちらにしろ、恥を晒して生き続けることには変わりないが」 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したユーフェミア。 「はい、では平民になります」 虐待に気づかない最低ランクに格付けの家族から、逃げ出します。

運命の番でも愛されなくて結構です

えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。 ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。 今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。 新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。 と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで… 「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。 最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。 相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。 それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!? これは犯罪になりませんか!? 心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。 難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...