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はじまりはじまり。小さな冒険?

111、人体模型?。

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「じゃあ……隣の部屋のは?」


あからさまに不審な色。
ユージアの表情がころころと変わる。
変わりすぎて冷や汗が止まらない。


「あっちも見ちゃったの!?」

「……見ちゃいました」


ユージアの返答にどう答えるべきか、あわあわしていると、有無を言わさずにルークが隣のドアへ移動する。
ルークさん……なんでこういう時ばっかり、行動力があるのさ……。


「どれ……「ああああ、だめっ……!」」


止める間もなく、二つ目のドアが勢いよく開かれ、ルークは室内を見渡し、あからさまにぎくりと扉の前で動きを止めると、何もなかったかのように……ドアを閉める。


「……失礼」


ぽつりと呟く。
ルークは口元に手をあてると視線を伏せ、みるみるうちに顔が紅潮していく。
常に無表情の、人形のような完成された美しさを持つ美貌、その表情の急激な変化は、とても珍しくて、思わず見とれてしまう……というか、見てる私の方がつられて恥ずかしくなってしまうくらいに恥ずかしそうにしてる。

普段、本当に表情に…言葉の抑揚すらも乏しい人だから。

ユージアはその様子を面白そうに見上げて、ぶはっと吹き出した。


「…ぶっ!あははははっ!変態親父でも、ああいうのは焦るんだね!あははは……痛っ!」


……なにこの公開処刑。
室内を勝手に覗かれた上に、ドアの前で固まる親子。
というか、ユージアは爆笑しすぎ。
また角砂糖が飛んできてるけど、今回はさすがに庇ってあげないっ。


「ダメって言ったのに……」

シシリーせいぜんの趣…「違うからっ!」」


変な誤解を受けるのは勘弁願いたいけど、なんだろう?ルークの反応が無駄に可愛らしい。
耳まで真っ赤にしてもじもじとか……
思春期の子でも見てるような反応なのだけど。

……逆に言えば、ユージアは少し冷静すぎ。
すれちゃってる?


「……あれは、隣の動く人体模型の発展型ですよ」

「「どうして内臓が怪しい下着になるっ」」


親子の悲鳴じみた苦情は聞こえなかった事にして……。

ルークによって閉められたドアを再び全開にする。
じり…とルークが後ずさるのが、なんか可愛いと思ってしまうのは内緒にしておこう。

ルークってば、あれだけの優れた美貌なのだもの、今までに女性からのお誘いどころか、色仕掛け的な突撃があってもおかしくないんじゃないかと思っていたのよね。
そうなると、自衛のためにも女性のあしらい方もだけど、簡単には動じないんじゃないかなーって。

案外、純情なのかしら?


扉の中では、さっきの部屋と形状こそは似ているが、内蔵丸見えの人体模型ではなく、うっすらと肌色で半透明、内側から仄かに光を放つスライム状の人形をした物が、かなり際どい下着を身に纏い、くねくねうねうねと動いていた。


「やはり趣…「絶対に違うからねっ?!」」

「着眼点の違いかな……あの模型の滑らかな動き、見たでしょう?あの動きを下着のパーツに導入できたら、従来のものよりもフィット感の素晴らしいものに……!という物ですよ。ほら、あんなに動いてもズレてなーい☆」


デザイン、というよりは構造重視のために、あまりにシンプルすぎて露骨にいやらしさ全開の下着っぽい、というか、むしろほぼ紐のようなモノの上にさらに「上に衣類を着けた状況下での下着の様子が見える」という観察目的のために、ベビードールのようなすけすけの夜着を纏って、うねうねしてるのもいた。


(扇情的、という言葉はすでに通り越しちゃってる風景ですね)


さっきの部屋の模型よりは人間っぽい外見ではある。
そんな模型が数体、変な姿勢でこんがらがってるし、我ながら、この光景に言葉を失いかける。


「……フィット、の割には布地の少ないデザインが多いようだが」

「変態親父好みの下着でもあったの?……って痛いよ!」


さっきから、すごい勢いで角砂糖に襲われてるユージアなわけですが、またもや懲りずにルークを揶揄っている。

ちなみに、この研究では『シリコンのような物』をつけた下着を作ってたのですよ。
前世にほんでは当たり前のものでも、縫製自体がほとんどが手縫いの世界だから、そういう特殊な素材の使用自体が、まず候補に上がらないんだ。


「あぁ、デザインはね……布の少ない物の方が、動いた時のズレたりヨレたりがはっきり分かるでしょう?フィット感っていう意味で着用感を、実際に使ってもらって募っても、個人差が大きいっていうのもあって、まずは布地の少ないデザインで作ってみて、あの模型を使って目視でその効果を調べてね……それから布地の大きな、というか一般的なものを開発しつくっていこうとしてたのよ」


実際、スタイルよくいきなり大きくなったセシリアわたしが今着けている、ブラやショーツも、ゆるい。
体勢をちょっと変えるだけでずれる。

少しの動作でも揺れる胸を、この下着は整えても支えてもくれないから、動くたびに腕に当たって、邪魔。

公爵家で用意したものでも、このレベルだよ?
平民の女性が着けてるものなんて、ほぼサラシのようなものなんじゃないの?とか思う。
いや、むしろサラシの方が母様やセシリアわたしみたいに、胸がふくよかさんには、動きやすくて便利なんじゃないかと思う。
そんな下着事情ですよ。


「あ、男性用もあるから、気になるならどうぞ?」

「……遠慮する」


あ、ルークに憮然とした顔をされてしまった……。
せっかくの美貌なのに、また眉間を押さえて、でも顔が赤いね。面白い。

って……私の周囲の大人は、みんな眉間がしわしわになる呪いがあるのかもしれない。

その様子を見てひたすら爆笑のユージアも、どうしてくれようか。
君達の反応、親子逆なんじゃないかなぁ、とちょっと呆れてしまう。


(しかし、そこの男性型の模型を見てても思うんだけど、アレはアレで邪魔そうなんだよね)


それこそ幼児体型である、今のユージアくらいであれば、オマケみたいにちょこんと付いてるだけだけど、成長と共に、そこも育ちますから……。

あ、前世の自分の息子達もそうだったけど、育ったあたりでブリーフやボクサーから、トランクスになるんだよね。
あれって女性の目から見るとさ、サポート力0なんだよね。
ブラジャーみたいに固定されていないってのが、真面目に見ていて邪魔そうだから困る。

まぁ、サポート力をそもそも求めていないらしいけどね。
じゃあトランクスに何を求めているのか、ちょっと気になるところではあるんだけど。


「男性用も素敵にフィット感バツグンですよ?……ふふ」

「キミは『恥じらい』という言葉を学習した方がいい」



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