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はじまりはじまり。小さな冒険?
99、お誕生日。
しおりを挟む「あとはお土産……何がいいのかしら?」
国の宰相がねだるようなお土産なんだから、珍しい物が欲しいのかな?
それとも有用そうな魔道具?
「……そのジャムとクッキーでも持ち帰るか?」
「……ぶっ!それ、何してたのか疑われそうだから、やめてっ」
ついつい手が止まらずに、会話中もジャムをクッキーに盛るようにのせて食べていたので……突飛な案に、思いっきりむせかける。
……とっても美味しいから、持ち帰れるならゼンやエル達に食べさせたい。
「クランベリー、好きだろう?ふふっ」
「好きだけどっ!」
涙目になりつつ、紅茶で喉に詰まりかけたクッキーをどうにか流し込む。
文句を言おうと見上げた先には、楽しげに笑いながらクッキーとジャムの追加注文をしているルーク……本当に持って帰るつもりなの?!
「きっと大切に研究所に持ち帰って、検査されて……きっと何かあるはずだ!とか……ひたすら探究されるのでは?楽しみだな」
「それ、意地悪でしかないから…普通のクッキーとジャムだしっ!」
こだわるにしても、味の再現だって、レシピさえあればメアリローサ国でも可能だから!
もういいや、ルークの意見は当てにならない。
頑張って考えよう。
「王子達には指輪でいいかな……護身用のなんだけど、杖の代わりになるやつ。エルにも持って行こう……父様には、うーん。鈴でいいかな。他の宰相って、どんな人なんだろう?何が喜ばれるかな?」
一応実用的な路線で選んだつもり。
剣技やら色々習うっぽいけどさ、それでも咄嗟の時ってあったら嫌だから。
しっかり守れるように。
父様は前線で戦う事もあるみたいだから、鈴の方が使いやすいと思う。
他の宰相は……正直どんな方か知らない。
セシリアの叔父にあたる方達なのだけど。
「……育毛剤?」
ぽつりとルークの呟きに、私の手が、紅茶を飲もうとカップを持っていた手が、ぴくりと止まる。
育毛剤って……あのまま紅茶を飲んでたら、ルークに向かって思いっきり吹くところだった…危ない。
「……さっきからやたらと失礼な気がするんだけど……怒られるよ?と…え、もしかして結構深刻な感じ?喜ぶなら……育毛じゃなくて発毛剤があるけど」
「発毛…あるのか……喜ぶと、思う…っふ」
ムッとしつつ、ルークを見ると紅茶を片手にふるふると震えて俯いていた。
……宰相は、おいたわしい感じなのだろうか。
「ぶわっと、生えるよ。塗った途端に、艶々の綺麗な髪が」
「…ぶわって……ぶ…くっ…」
……勝った。
さぁ、笑い転げてしまえっ!
私のクッキーとジャムの仇っ!
ルークは震える手でなんとか紅茶を置きなおし……やっぱり笑いが抑えきれずに笑い出す。
「永久脱毛の薬剤の依頼を受けてたんだけどさ、じゃあその『毛のメカニズムを調べよう!』ってやってる段階で、うっかり出来ちゃった」
「うっかりって……あはははっ」
爆笑で息も絶え絶えである。
ちなみに効能はちゃんと長く効きます。
あ、一応だけど『育毛剤』っていうのは、これから生えてくる、もしくは育ってる最中の毛に有効なお薬です。
だから、去りゆく毛を留めたり、毛を増やす機能は正直ありません。
栄養状態が良くなるから、よく育って毛の寿命は長くなるだろうけどね。
『発毛剤』ってのは、読んで字の如く、もっさりもさもさと生やすお薬です。
生やす薬か、伸ばす薬かってとこかな。
「ちなみにもう1人は…?」
「直接の絡みはないが……胃腸薬かな。最近、申請が多い……ガレット家と教会絡みでね」
「あ……ごめんなさい。それ、ほぼ私ですよね……」
「だな……ふふっ」
笑いが止まらなくなっているようで、普段の無表情では綺麗すぎて冷たくも感じる顔の頬が赤らみ、琥珀の瞳には涙まで浮かんでいる。
……そこまで笑わなくたって。
でも良い笑顔。思わず見惚れちゃう。
「……試作というわけじゃないんだけど、シシリーが作ったやつでも、いいかな?」
つまり納品用とか製品としてではなくて、個人的に作った物だから、ラベルとかも手書きなんだ。
つまり、見た目からしてちょっと怪しげ……。
使ってもらえるかしら?
「それなら、私も何か欲しいな……」
「ルークも?……うーん…あ!あるある!ちょっと待ってて!」
ここで笑顔で、ルークの分!って発毛剤でも渡そうかと、ちょっと……いや、かなり思っちゃったわけですが、やめておく。
何故なら私室に、ルーク用に準備しておいた物があったから。
そーっと私室のドアを開けて中を覗くと、ユージアがすやすやと気持ち良さそうな寝息を立てているのが見えた。
こっそりと入室して、サイドチェストの一番下の引き出しから、小さな包みを取り出すと執務室へ戻った。
「はい、どうぞ……渡しそびれた、というか、渡す前に会えなくなっちゃったから」
魔物の氾濫で……。
物は完成してるのだけど、ラッピングまでは間に合わなくて、取り寄せておいた収納用の布張りの小箱に詰め込んで、がさっと作業用に敷いていた紙で包んであるだけだった。
(……今になって渡す機会ができるとは思わなかったよ)
不思議そうな顔をしながらルークが受け取るのを確認して、顔を見てにこりと笑う。
こういうのって自然と笑み、出るよね。
「お誕生日おめでとう!」
当時のデザインを真似て作ったものだから、今の流行ではないかもしれないんだよね……。
でも、大奮発して作ったの。
ルークは、本当に凄かったんだよ。
武勲をたくさん上げたから、近々表彰される予定だった。
それのお祝いも兼ねて、私も頑張ったんだ。
「ずいぶん時間かかっちゃったけど……渡せてよかった」
自信作だからね。
喜んで?褒めて褒めて?……そう思ってルークを見つめる。
満面の笑みで渡して、わくわくとその反応を待つ。
嬉しそうに、笑い返して欲しかったのに。
思いっきり俯かれてしまった。
「あり……がとう……」
返事もさっきまでの明るい声はどこへ行ったのか、暗い。
気づけば雫がぽたぽたとこぼれて、紙の包みに染みを広げていくのが見えた。
「……って、ちょっと……泣かないでよ」
長い艶やかな黒髪が、俯くルークの顔を隠してしまっているのですぐには気づけなかったけど、また泣かせてしまったみたいだった。
うーん、ガッツリ無表情の学生時代の時より、今のルークの方が笑顔も素敵で表情豊かだとは思ったけど、泣かれちゃうのは困る。
隣に移動して、黒髪を肩へ流すようにして覗き込むと、端正な顔をぎゅっと歪めて、泣いていた。
……大人の男の人が泣くのを見たのは二回目か……って、両方ルークだし……。
そういえば、ユージアも泣いてたなぁ……このエルフの親子は涙脆いのか?
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