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はじまりはじまり。小さな冒険?
53、side ユージア 湯冷め。
しおりを挟む何度もごしごしと洗われては流されて……まぁそうか、滅多にお風呂なんて入れてもらえてなかったしなぁ。
抵抗する気力すらも洗い流されてしまうほどに、何度も何度も繰り返し洗われているうちに、メイド達の満足の域まで綺麗になったのか、湯船へと解放された。
湯船に浸かり、メイドが髪を整えるための香油を取りに行った背を、のぼせ気味の頭でぼーっと見つめていると、急激にきゅーっと胸が痛くなる。
……いや、表現じゃなくて、痛い。ぎりぎりと痛い。
痛みの元はどうやら奴隷紋のようだった。
直後に恐ろしいほどの不安に襲われ始めたので、風呂を飛び出ると、先ほど剥がされた下穿きとズボンを着けると、近くの窓から外へ飛び出し、奴隷紋に呼ばれるように屋根から遠目に見える離宮の1つへ、真っ直ぐに駆ける。
直後、目指していた離宮の屋根から火柱が上がったのを目にした。
むしろ、目指す離宮の屋根の上に、とんっと飛び乗った瞬間、目の前に火柱が現れ、屋根が吹き飛んだ。
「っと、ど、わぁあっ!」
すんでのところで体勢を立て直し、屋根に開いた大穴から室内へ侵入する。
ひどく焦げ臭く、瓦礫が散乱した部屋のベッドで苦しそうに呻くセシリアと、爆風の煽りで吹き飛ばされたのか、専属メイドのセリカが倒れていた。
「セシリア…?」
「うう…うううぅ……」
体を揺すってみても起きる気配はなく、汗でシャツをぐっしょりにさせて、ぐーっと体を強張らせて唸っていた。
うなされているのかな…。
「セシリア、夢でまで怖い思いしなくていいんだからね…」
ぎゅっと抱き上げて、背中をさすってみるけど、唸り声は止まなかったので、ばちん!と、頰を少し強めに叩く。
直後、ぱちりとセシリアの目が見開かれると、大粒の涙が溢れ出してきた。
「う…うわああああああああん!」
「ほらほら、大丈夫、大丈夫~。もう、怖くないから。ほら、怖くないでしょ~?」
大仰に振り回すようにゆらゆらと動きながら、セシリアの背中をさすり、なだめる。
すると、少し覚醒したのか、悲鳴に近い号泣から、子供らしい泣き声に変わっていった。
でも、余程怖かったのか首に回してきた手はがっちりとしがみつき、震えは止まらず、そのまま泣き続けている。
「……おい、大丈夫かい?セシリアは見てるから、傷の手当と人呼んできて~」
「は…はい!」
専属メイドのセリカに声をかける。……かすり傷程度ならいいんだけど。
セシリアは相変わらず泣いていて、震え続けていた。
『籠』での事や、フィアの豹変等々、夢に出てきてしまうほどに怖かったのだろうね。
セシリアの震えを抑えるように、ぎゅっと抱きしめ直して、背をさする様にぽんぽんと叩く。
「やっぱ、怖かったよね……ごめんね。もう大丈夫だから、ここにいるから、怖くないよ~」
「派手な……夜泣きだね。ていうか、移動早いな。ユージア。さっきまで王宮の奥にいなかったか?」
ふと頭上から気配があり、ゼンが屋根から降ってきた。
猫のように、というか見た目も大きな猫なんだけど!音もなく降り立つと、微妙に怒りの混ざった呆れ顔でこちらを見る。
そういえば…青い髪の人とみっちり反省会するって連れていかれてたし、どうなったんだろうね。
セシリアも徐々に落ち着いてきたようで、強張っていた身体もいつものふわふわの抱き心地に戻っていて、泣き声もトーンが下がってほとんどしゃくりあげるだけになってきていた。
「あぁ早い理由はコレ。僕は護衛契約してるから、奴隷紋に呼ばれたんだよ。相当怖い夢見てたんじゃないかなぁ?そういや、反省会お疲れさま?」
「ひどい目にあった…」
シュトレイユ王子の姿を借りて、名まで騙っちゃってたしなぁ…。
まぁ自業自得ではあると思うんだ。
「あはは……流石になぁ~。王族騙っちゃったらなぁ」
「それはともかく、これどうすんの?」
自分達が侵入してきた屋根の大穴を見上げる。
襲撃か何かかと思ったんだけど、魘されてるセシリアと、吹き飛ばされた専属メイドしかいなかったし。
「さぁ?」
「そろそろ晩餐だから、起しにきたとこなんだけどね、僕は」
セシリアは相変わらず泣き続けていたけど、目も覚めてきてずいぶん落ち着いたのか、抱っこにもむずがらずに、くっ付いてくれてた。
「どうしようね?セシリア。まだ当分泣いてそうだけど?」
このまま寝かしてしまっても落ち着けるとは思うのだけど、これから晩餐会があるし、また怖い夢の続き……なんてなってしまったら可哀想で、起こす方向で歩く振動が伝わるように、ゆらゆら歩く。
「……僕もセシリア抱っこしたい」
「だーめ。セシリアが抜け毛まみれになっちゃう」
顔を伝う涙にむずむずしたのか、セシリアが胸に顔をすりすりと擦りつけてきたのを目にしたゼンが、嫉妬と殺気に近い怒りが入り混じったような視線を向けてくる。
「抜けっ…!抜けないっ!」
「ダメだよ~。さっきまで号泣してたんだから、毛に埋もれて窒息しちゃうからねっ!悔しかったら人化してごらん~あははは」
セシリア背中をぽんぽんしながら、脚に猫パンチをかましてくるゼンを往なしながら、部屋をゆらゆらと逃げ歩く。
「あらあらあら……またこれは……随分見晴らしのいいお部屋になっちゃったわねぇ」
「その前にだ、ゼンは廊下に出る!ユージアは着替えてこい!セシリアはセリカ!湯浴み!」
「はいっ」
専属メイドの先導でアルフレド宰相とクロウディア様が到着した。
「……ほら、もう大丈夫だよ」とセシリアに囁いて、ぽんぽんと背中を叩くと、首に回っていた手が緩められたので、セリカへと渡す。
セシリアがぽかぽかだったから気にならなかったけど、離れた途端に、ひやりと夜の冷気が体を駆け巡った。やっぱ、何も着てないのは寒いね!
あ、ズボンは着けてるからね?!
動きやすさ重視の緩めの七分丈くらいのだけど!
ぞわりと全身を寒気が走り抜けた。
うん、もう一回お風呂入り直そう、焦り過ぎて気づいてなかったけど、湯冷めしちゃったみたいだ。
「僕も湯の途中だったんだ!戻りますっ」
「あっこら!ドアから行けー!」
さっき飛び出た窓は、そのまま開け放たれていたので、すんなりと部屋に戻れ、お風呂の続きを……1人で堪能できた。
高級な宿屋でも滅多に設置されてない、石造りの豪華なお風呂。
せっかくなんだからしっかり堪能したかったんだ!
やっぱ、お風呂は1人がいいよ…お手伝い、いらないよ。
で、風呂から出たら、いつの間に気づかれたのかメイドが待機していて、がっつり着せ替え人形にされた。
なんかもう、女性用のドレスを着けさせられそうな勢いだった。怖い……。
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