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はじまりはじまり。小さな冒険?

52、side ユージア お風呂。

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「異種族婚の場合、呪をかけて、他種族の皮を被せて…育つ。これなら里の外でも狂わずに済む」


 里が襲撃を受けて、人攫い達に捕まって…『ハズレ』と言われて。
 当時の記憶が蘇る。
 他にも子供達がいたはずだった。彼らはどうなったのだろう?……考えたくない。
 自分の状況考えるとどうしても、脳裏によぎってしまう。


「これが、ユージアが…里の襲撃時に…すでに姿が…変わっていたのは…ユージアは聖樹に守られていても、影響を受けてしまうほどに弱くて、里にいながらも呪をかけねば生きていけなかった…からだ」


 ……エルフは、人攫いに捕まるとその容姿から、ほぼハズレなく全てが良質な商品となる。
 だから、そのエルフに紛れ込んでいたと思われた、人の姿をした俺を見て『ハズレ』だと言ったのだろう。
 いろいろ思い出してしまって顔色が悪くなっていたのだろうか?
 気遣うように肩をぽんとアルフレド宰相に叩かれて、顔を覗き込まれる。


「──さて、そろそろ時間だ、ユージア君には、王宮内にゲストルームが準備されているから、そちらで晩餐会の準備をしておいで。私達は離宮に一度戻るから、また後でね」

「セシリアも一緒に参加するからね。またよろしくね」


 ふわりと笑みを浮かべて、アルフレド宰相とクロウディア様が退室していく。
 続いて退室しようとすると、気づいたクロウディア様に部屋へ押し戻された。


「もう少しだけでいいから、お話、聞いてらっしゃい」


 あ、いや、もう充分です。むしろ2人きりとかいろいろ危険すぎて嫌です。
 ちょっと泣きそうになりながら、大人しくソファーに戻る。


「ユージア……里にいた者達は、すぐに救出…されたんだよ……アデルも無事だった。お前の…妹も」

「妹!?いたの?」


 そもそも妹の存在を知らない。
 記憶が混乱しているのだろうか?忘れてしまったんだろうか?


「あの時、アデルは……妊娠中だった。避難中にユージアと…はぐれたそうだ。お前…以外は、里の者は全員無事に戻ってきた。お前だけ……見つけられなかった」

「生まれたのが、妹なの?」

「そうだ。その後、弟も生まれたが、アデルは…ずっとユージアの身を案じていたよ」


 母さんアデルは人間だった。教会と『隷属の首輪』に囚われていた期間の長さを考えると、もう……。


「ずっとお前の身を案じ、無事を信じ、日々の祈りに乗せてその呪に魔力を送り続けていたんだ」


 さっき、クロウディア様の所で涙は流し切ったはずなのに、またじわりと目が熱を持ち始め、思わず俯いてしまった。
 すると、こつんと、おでこに指と魔力を含んだ熱を感じた。


「一時的にではあるが、元に、本来の姿に……戻る魔法を、教える、が……呪も魔法も…その姿、大切にするがいい」


 熱に驚き、顔を上げると、
 寂寞の色を湛えた琥珀色の瞳が、こちらを真っ直ぐに見つめていた。

 本当は、聞きたい事がいっぱいあったんだけどね。
 母さんの事とか、妹と弟の事とか……言葉が出なくて、頭を整理していたら時間が来てしまったのか、扉がノックされる。


「ハンスイェルク様、失礼致します。ユージア様をお迎えにあがりました。ご案内いたしますのでご準備をお願い致します」

「……じゃあ、また後で」

「…また」


 父はエルフだ。
 所在さえわかっていれば、まぁ急がなくても、また機会があれば色々聞けると思うし。
 今は、自分の意思きもちを優先させてもらおう。

 今は……セシリアのそばにいたい。
 彼女は、彼女の周りは温かいから。

 ──僕もその中の1人でいたい。






 ******






「ユージア様、こちらになります」


 声とともに扉が開かれ、部屋に案内される。
 とても豪華な……これ、1人で使う部屋なの?やたら大きなベッドがあったり、他にも従者用の部屋だろうか?繋がりにいくつかの部屋も用意されていた。

 最初に案内されたのは寝室、の奥にある浴場だった。
 無駄に広い脱衣所には、上等な着替えが準備されており、晩餐用のスーツのようだった。

 湯浴みが準備されていて……すっと、嫌な予感がよぎる。


「では、失礼致します」


 やっぱり!?
 背後両サイドから女性の声が聞こえて、服を脱がそうと手が伸ばされる。


「いや、補助はいらない……自分でできるよ?!」

「申し訳ございませんが、ハンスイェルク様からの御指示ですので」


 あ…あのクソ親父……っ!
 どんな指示を出したんだ……。
 そう思っている間にも、抵抗虚しくローブもシャツも脱がされて、ベルトへと手が伸びてきていた。

 ベルトだけは死守!と思った瞬間に、ものすごい力で両腕を真上に引き上げられ、固定される。
 そこには何も存在していないのに、手枷でもつけられたかの様に、空中に腕が固定されて動かない。


『あら、幼生なのに一丁前に恥ずかしがるのねぇ』


 白いドレスの風の乙女シルヴェストルが浴場から漏れ出る湯気を集める様にして姿を現した。
 メイドたちはその姿を確認すると、軽く一礼し、作業に戻る。
 そう……両腕を拘束されてるのを良いことに、あっさりと、ベルトを外され、脱がされてしまった。下穿きまで。


「だっ!大丈夫だからっ!1人で入れるよっ!」

「時間もおしてますので……むしろ諦めてください」


 にこやかに満面の笑みを浮かべた2人のメイドに切り返される。
 こういうことは諦めたくないですっ!いや、諦めちゃいけないと思う。

 裸にされた途端に、腕の拘束が外れた感触があり、ダッシュで湯船に飛び込もうとすると、またもや風の乙女シルヴェストルに拘束をされて……結局、全身をメイド2名に丸洗いされている。

 高貴な人のお風呂ってこれが当たり前なの!?
 貴族って、1人でお風呂すら入れないんだろうか?
 これ、毎日とか、どんな苦行ですかっ!


『そんなに恥ずかしいの?耳まで赤くなってる!幼生のくせに!やだ可愛い!』

風の乙女シルヴェストル…君は何しにきたの?まさか君も父さんの指示とか?」

『そうねぇ…不自由しないように手伝ってやれ、とは言われたわね』


 公開処刑…もとい、入浴風景を何かに座るような姿勢で、ふわりと宙にとどまって楽しげにこちらを見つめている。
 ……って視線が合わないんですが、なにを、どこを、見てるんですかね。


「……で、堂々と覗きですか」

『やだー!見るならもっと大人の方がいいわぁ。そうね、ハンスイェルク様とアルフレド様は内勤なのに意外と……』

「いや、いい、いいから。そんな意外性は要らないから……」


 思わず遠い目になる。
 オッサンのハダカ事情を聞かされても、まったくもって嬉しくない。

 風の乙女シルヴェストルは形の良い頰をぷくーっと膨らませて抗議!というような表情になる。


『聞くならちゃんと最後まで聞きなさいよ~!……そういえばさっき、すごく珍しくて綺麗な獣も見たわね~ユージアみたいに逃げ回ってたから、少しお手伝いしてきちゃった』


 えへへっと笑い、褒めて褒めて!という顔でこちらを見ている。
 ……誰が褒めるかっ!
 そして、風の乙女シルヴェストルにお手伝いされちゃった獣って……うん、聞かなかったことにしとこう~


『ま、元気に帰ってこれたようで何よりだわ!…お風呂恥ずかしくて困ってるなら、またお手伝いしてあげるから、いつでも呼んでね♡』

「……絶対に呼ばないっ」


 そう、言うだけ言うと、風の乙女シルヴェストルは、にこりと笑って、周囲の湯気を派手に吹き飛ばして姿を消した。
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