The Demons !!

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奴隷の悪魔と2人の雇われ悪魔

奴隷の悪魔と2人の雇われ悪魔 1

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 虫の鳴く声がまるでオーケストラのように響いている。
夜も更けに耽ってあたりのもの全てが眠り落ちているかのようであった。

そんな静けさの中を車輪が転がっていく音が響き渡る。
ろくに舗装されていない道を黒塗りの馬車が走っている。
派手な装飾はされていないが、その作りからある程度身分が高いものが乗っているのは火を見るよりも明らかであった。
そんな馬車が真夜中に森の中を走っているとなると、その様子を見た人はよほどの理由があるものだと思うだろう。
しかしここは人気のない森の中、おまけに昼間は高くともDランクのモンスターしか出ないこの初心者の森も、一度夜の暗闇に包まれれば、そこはCランク以上のモンスターの蔓延る危険地帯となる。
その危険度は熟練の冒険者の護衛を10人引き連れたとしても危険とされるほどであった。

そんな危険地帯を一台の馬車が走る。
しかしよく見ればそれは場所というにはいささか後ろの部分が大きく、何か大きのものが入っていのか。
あるいは…たくさんのものを運ぶためにあるかのようであった。

そう、例えば…人、であるとか…。



「…うう…」

「何をそんなに怖がってるんだ、何も出てきやしないさ。もっと堂々と構えたらどうだ?」

走る馬車の前方部分で話し声が聞こえてきた。
どうやら馬車を操る中年の御者と一人の男が会話をしているようだ。

前で馬の手綱を握る御者の男は、しきりにあたりを見回し何かに怯えているようだった。
しかし一方の男はまるでここが危険地帯であるということを知らないかのようにリラックスしていた。

「…何度も言っているが、この馬車には手練れの魔術師の手によって魔物避けの呪文が仕込まれている」

そう言うと男は、自分が顔を出している馬車内部への入口の壁を手の甲で軽く叩いた。

「この馬車が粉々になるか、それこそ呪文を施した魔術師よりも格上の魔術に長けた魔物でもいない限り襲われることはない」

「そうは言ってもよお…俺ぁアンタみたいに強い人間じゃねえ、毎日魔物やら盗賊やらに怯える一介の人間さあ…」

そう言うと御者の男は身震いした。

「おまんま食うにもぐっすり寝るにも金がいるが…それでも命あっての物種だろぉ…?」

馬車の中に座っている男は溜息を吐いた。

「ならなんでこの仕事を受けたんだ?最初に危険な仕事だと説明しただろ?」

御者の男は後ろに座る男にチラリと目を向けた。

「そりゃあ、命があっても金がなけりゃ腹が減れば飢え死、冬なら薪を買えずに凍え死に、税が払えなけりゃお縄について獄中送りで一生を過ごすか打ち首じゃ」

「矛盾だな」

「人間ってのはそういうもんなんですよぉ…そういうあんたはどうなんですかい?」

今度はそっちの番というかのように御者の男が話を振る。

「俺か?」

「そうですよ。俺ぁ訳ありっぽいのエルフ族を隣国まで乗せたことはありますがねぇ…」



「悪魔の御仁の客なんざ初めてでしてね」





 俺は悪魔だ。
名を奴隷の悪魔スレイバー。
奴隷を司る悪魔だ。
頭は人の頭サイズの鉄球が乗っており、後頭部に当たる部分からは鎖につながった足かせがついている。
口も耳も鼻もなく、よく見聞きするような悪魔…ツノの生えた裸でいかつい顔をしてコウモリの羽に矢印のような尻尾…とはまた違う存在だ。
詳しく説明すると…知り合い曰く限りなく人間に近く、かつ人間とはかけ離れた存在…らしい。
しかしそんなことを言われても正直余計ややこしく感じるだけだった。
自分で自分のことが分からないというのはもどかしく感じるが俺はこの世に誕生してからすでに数百年は経過している。
もはやそんなことは小さな問題であった。

そんなことよりも今は金を稼ぐことが生きがいとなっていた。
奴隷を集めては売る、買っては売るを繰り返し、いつしか地球の奴隷業界を手中に収めるまでになった。
そうすると今度はより市場を広げ、より多くの利益をあげることを望むようになった。
そこで知り合いの悪魔の力で他の次元や異世界へと渡り、そこで様々な種族の奴隷を集めた。
最初はそれぞれの世界でのセオリーや需要に四苦八苦したが、それも昔の話。
今やこの世界でも奴隷商としての高い地位を手に入れた。

今もそうした仕事の最中である。
少々荷物の中に取り扱いが難しいものがあるくらいで今の所順調であった。



「安心しろ。悪魔は約束事やら契約なんかにはうるさいのさ。仕事の出来によっちゃあ報酬の上乗せも検討しよう」

そろそろこの怯えまくっている御者を宥めるのも面倒になってきたのでここらで馬車の中に戻ろうかと話を終わらせにかかる。金の話をすれば少しは恐怖も薄れるだろう。

「本当ですかい?それを聞いて安心しやしたよ」

「わかったらそうビクビクせずに堂々としてろ。むしろそうやってると騎士団なんかに目をつけられるからな」

「何か中に見られると困るようなもんが…?」

こいつ、あまり賢くないと思っていたがこういうところには気がつくのか。

「まあな。少々見つかると厄介なものが…」

「…?どうかしやしたかい?」

「…馬車を止めろ」

「ええ?」

馬の嘶きとともに馬車が静かに停車した。

「…囲まれてるな」

俺がそう言うと、御者の男は驚いたようにこちらに顔を向けた。

「ええ!?じゅ、呪文が効かなかったんで!?」

「いや、魔物じゃあないな」

御者はそう言われて一瞬安堵するが、すぐにまた怯えた表情になる。

「じゃ、じゃあ…盗賊…?」

「呪文には悪意を持った輩を近づけない効果もある」

「そんなら一体全体何が居るんですか!?」




その言葉を合図にしたかのように、木の枝や後ろ、草むらからゾロゾロとたくさんの人間が現れた。
その手にはそれぞれ剣や斧、弓に杖と様々な武器を持ち、革製鉄製の鎧やローブを身にまとうその姿からこの集団が何者であるかが見て取れた。
どうやらここに集まったのは全員冒険者のようであった。

「無駄な抵抗はするな。おとなしく投降すれば命は助ける」

集団の中から一人の十代後半くらいの年齢の少年が前に出た。
黒髪に黒い瞳から東国の出身であることがうかがえる。
どうやら彼がこの集団のリーダーのようだ。

俺は馬車から降りた。

「おやおやこれはこれは、冒険者の皆さんが一体何ようで?」

そう言いながら目の前にいる彼らを眺めていると、冒険者集団の胸元に光るバッジが目にとまった。

「そのバッジは…なんと!アースブルム王国のギルド章ではないか!」

大袈裟にリアクションを取りながら話を続ける。

「確かちょうど我々が出発した街にギルドの支部があったはずだねえ…いつからつけていたのかね?」

「お前が街にいる時からずっとさ」

そう言うとリーダー格の少年が腰に下げたカバンから紙のようなものを取り出した。
それを広げて目の前に掲げる。

「これは国からの令状だ」

「令状…?」

俺は首を傾げた。
国から命令されるような心当たりはない。
強いて言うなら、奴隷としての取引が禁止されているハイエルフ…それも混じりっ気なしの純血を捌いたくらいだが…バレないように細心の注意を払い、取引を代わりに行った下請けは全員始末した。
まさか死体でも見つかったか?

「お前はどの国にも属していない流れ者のようだが、郷に入っては郷に従え…国からの命令を無視はできないぞ?」

「なるほど?それで私にどうしろと?かくれんぼでもしようってか?」

ふざけてそう言うと、周りの冒険者が熱り立つ。

「テメェ!ふざけるのもいい加減にしやがれ!」

「お前が王女様を攫ったんだろ!」

リーダー格の少年は溜息をついた。

「…そういうわけだ。貴様には王女誘拐の容疑がかかっている」

なるほど…、つまり街で準備していたところから既に監視されていたという訳か。
おまけに運んでる荷物がなんなのかもお見通し、と…。

今回俺は隣国の大きな奴隷オークションに出品する予定がある。
その目玉商品を探している中で、王位継承線のために誘拐された王女の処理を持ちかけられた。
容姿端麗、頭脳明晰、おまけに希少なユニークスキルを持っている。
これほどの奴隷もそうは簡単に見つからない。
だから無償で引き取ってとっとと売り飛ばそうとしたわけなのだが…どうやら王女様は冒険者どもに好かれているらしい。
厄介なことだ。

「馬車の荷を改めさせてもらう」

徐々に冒険者どもが馬車ににじり寄ってくる。
退路も完全に塞がれ逃げる隙が全くない。
荒くれ者集団である冒険者をまとめ上げるその手腕は賞賛に値するが…。
こちらとしては大問題だ。

「それは困るなあ…こっちは急いでるんだ。そんな王女の誘拐事件かなんかで時間を割くわけにはいかないんだよ」

「…お前にとってはそんなことかもしれないが、俺たちにとって王女は大切な存在だ」

そういうや否や少年は目の前の何も無い空間から券を取り出すと、その切っ先を馬車の前に立つ俺にむけてきた。

「俺は彼女にこの命に代えても守ると誓った…」

「…いくら欲しい?今の持ち金は少ないが、後でいくらでも払ってやるぞ?」

「金などいらん」

周りの冒険者たちも臨戦態勢に入る。

「俺たちは金にも権力にも縛られない、自由な人間だ…貴様らのような金の亡者にはわからないだろうがな」



「…今助ける、…エイス王女!」





「何が自由だ、洒落臭い」

俺は徐々に後ろに下がる。
冒険者たちが前に詰め寄る。

「結局人間なんてのは金で買えるようなやっすい生き物なんだよ」

背中が馬車の側面と合わさる。
もはや逃げ場は無い。

「搾取される側の連中が偉そうに自由を語るもんじゃ無いぞ?」

「黙れ、俺はもう誰にも負けない」

「お前の過去に何があったかは知らねえが俺にはどうでもいいことだ」

後数歩の位置まで近づかれた。

「大切なのは”今””お前ら”が”俺達”に”殺される”ってことだ」


ガンガン



俺は馬車の壁を叩いた。



「仕事だぞ!」



バァン!!


馬車の側面のドアが開かれる。
そこから一本の足が伸びていた。

冒険者達の目が足の方へと向く。



刹那、白い軌道を描きながら何か小さなものが高速で射出された。

それらは俺の近くにいた冒険者三人の身体を撃ち抜いた。

口から血を拭きながら崩れ落ちる冒険者、それに合わせるかのように馬車の入り口から一人の男が気だるそうに降りてきた。

否、正確には人ならざる男である。


大きな一つ目であたりに睨みを効かせながら男は言った。

「あーあー、やかましいわ。もっと静かに起こせよ”奴隷”」

「ふん、護衛の分際ですぐに出てこない役立たずが、さっさと仕事をしろ」

軽い言い合いを間に挟みつつ、スレイバーの前に人外の男が立った。

「で?コイツらを殺しゃあいいのか?」

「あの偉そうな餓鬼と女は殺すな。奴隷にして売る」

「こんな時まで商売逞しいねえ。あーがめついがめつい」


そう話しているうちにも冒険者達が男に向かって来る。
一人の冒険者の剣が男を捉える。
冒険者は勝利を確信した。


しかしその剣は男に届くことはなかった。
剣が当たる寸前、地面から白い塊が冒険者に向かって勢いよくせせり立った。

胴体に深く突き刺さったそれは勢いそのままに冒険者の男をリーダー格の少年の後方へと吹き飛ばした。


「おいおい、名乗りも終わってないのにいきなり斬りかかって来るたあご挨拶だな」

男が着ているジャケットの埃を払う。
すると、白い砂のような物がパラパラと服からこぼれ落ちた。
それはとどまることなくこぼれ落ち続けた。

「こんな連中に名乗るほどの価値も奴隷としての価値があるかは知らんが…」

男の周りに手のひらサイズのサイコロ状の白い塊が無数に浮かぶ。


「悪魔として名乗る」



「海より大地より来たるは白き恵み…塩の悪魔ソル」

塩の悪魔と名乗った男は手を拳銃の形にすると冒険者達へ向けて銃を撃つジェスチャーをした。


「まずは死ね、話は地獄か来世で聞いてやる」


白い塊が一斉に射出された。


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