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第12話

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 その翌日、恭介は一人で登校していた。頭に浮かぶのは、佳奈との会話ばかりだった。
『「ああもう、この人だ!」ってビビッときて。背中にピカッと電気が走って。で、先輩を好きになったんですよ』
(今、思うと、あれはけっこう恥ずかしいセリフだよなあ。あんなこっぱずかしい事を、臆面もなくよく言えるもんだ。それも本人の前で、だもんな。どんだけ俺を好きなんだよって話だよな。……あの子には最後、だいぶきつい台詞を吐いちまった。今日、きっちり謝ろう。それで終わりにしよう)

 朝練が終わり、恭介は靴箱を開いた。すると、中から「源先輩へ」と、見覚えのある女の子っぽい字で書かれた封筒が出てきた。恭介ははっとして、あわてて中の手紙を取り出す。
「初めにあった日の告白は、どう考えても驚かせちゃいましたよね。私が告白したのは、先輩が好きで好きでたまらなくて。先輩が卒業しちゃってから後悔しないように気持ちを打ち明けました。でも先輩の辛い話きいて、先輩の悩みを知って、なんとかしてあげたいなって思って、ああやって一緒に登校させてもらいました。でも結局、あんな結末になっちゃって。私がそばにいると先輩が迷惑するんなら、もう先輩には近づきません。先輩が過去を乗り越えて、好きな人と幸せになることを祈っています。 佳奈」
 恭介が呆然としていると、朝練後の着替えを終えた柴田が近づいてきた。
「あ、キャプテン。どうしたんすか、その手紙。その字はもしかして、森本さんっすか? 最近まで一緒に登校してたんすよね」
 驚いた恭介は、柴田に向き直って左肩を掴んだ。
「字でわかるのかよ。柴田、お前、森本佳奈を知ってんのか?」
「中学同じっすからね。ちなみに家は隣っすよ。俺とあの子の家、家族ぐるみで仲良くて、ガキの頃は一緒にバーベキューとかしてましたよ」
 愕然とする恭介。今まで気づかなかったが、佳奈は三日間、部活で朝が忙しい恭介より、更に早起きしていたはずだった。柴田の家から恭介の家は学校を挟んで歩いて五十分。佳奈は三日とも六時二十分には家の前にいた。つまり佳奈は……。
(そうか、君はそこまで俺のこと……。なのに俺は……。俺は君になんて事を……)
 恭介が衝撃のあまり固まっていると、柴田から控えめな声が掛かった。
「森本さんっすけど、俺さっき見ましたよ。テニスコートのとこのトイレ前で。なんか怖い雰囲気の女子と一緒にいましたけど」
「まじかよ。ってか柴田。お前、なんで止め……。まあいい。俺が今から行ってくる」
 決意とともに告げた恭介は、走り出そうと振り返った。たがふと思いついて、静かに柴田に質問をする。
「正直に答えてくれ。柴田お前、自分が好きな子に、他のやつが対象の恋愛相談持ちかけられたらどう思う?」
「あ、そりゃイヤっすよ。ちょっとは俺の気持ちも考えろって思いますよ」
 柴田は批難を籠めた語調で、きっぱりと即答した。
「……そうか、わかった」
 今度こそ恭介は靴箱を後にした。
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