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第10話
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朝練後の着替えを終えた恭介は、恐る恐るクラスに入った。すると教室の端で話し込んでいた狩野京香が、恭介にゆっくりと近づいてきた。
恭介は京香の当番掃除のさぼりを、先生に言いつけた事があった。以来京香には嫌われているらしく、事あるごとに恭介に絡んできていた。
キスができるような近距離まで近づくと、京香は恭介を間延びした声で嬲り始める。
「ロリコン部長のご登場、だね。ってなんかしおこんぶちょーみたいになったね。まあ笑えるって点じゃあ、なーんも変わんないけど」
ギャルそのものな風貌の京香は、にやにやと締まらない笑顔を浮かべ続けている。
「は、ロリコン? 何の話だよ。全然わからんから、教えてくれっての」
内心の焦りを隠しつつ、恭介は負けじと力強く詰め寄った。
「うわー、まだばっくれられると思ってんだ。おめでたい頭してるよね。ゆっとくけど、学校中その話題だよ。天下のサッカー部キャプテン様は、中学生にしか見えない子とのデート登校を決めちゃうロリコン野郎だった! みたいなね。まあでも本望だよね。あーんなアッツアツの様子、見せびらかすんだもんね」
怒り心頭の恭介は、「いや、あれは違うっての……」と言い返そうとするが、聞く耳持たずの京香は更に続ける。
「まあ安心してよ。私は寛容だから、五十人くらいにしか広めないしさ。いやー、楽しみだ。どうなるんだろね、これからのあんたの学校生活は」
言い捨てた京香は最後に、ふん、といった感じで恭介を睨み、席に戻っていく。
しばらく固まる恭介だったが、やがて夏希の席を歩いて過ぎて、よろよろと自分の椅子に座った。
その日は恭介にとって地獄だった。運が悪い事に移動教室が多く、事実ではないのかもしれないが、恭介は全ての生徒が自分たちの噂をしているようにすら感じていた。
「……あの人がそうなの」
「うん、らしいよ」
「堂々と一年の子と歩いてるなんてねー。相手の子、あたし見たけど、外見はほとんど中学生だよ。勇気があるというか、チャレンジャーというか、とにかくちょっと逸脱はしてるよねー」
四時間目の授業がある音楽室への廊下の端、恭介に不審げな目を向けながら、知らない女子たちがこそこそ話をしていた。早足で通り過ぎた恭介は、苛立ちを加速させる。
(くだらない、非生産的な噂をぺらぺらぺらぺら。もっと他に話すことないのかっつの。せめて聞こえないように喋れよな。救いようがないにも程があるだろ)
朝練後の着替えを終えた恭介は、恐る恐るクラスに入った。すると教室の端で話し込んでいた狩野京香が、恭介にゆっくりと近づいてきた。
恭介は京香の当番掃除のさぼりを、先生に言いつけた事があった。以来京香には嫌われているらしく、事あるごとに恭介に絡んできていた。
キスができるような近距離まで近づくと、京香は恭介を間延びした声で嬲り始める。
「ロリコン部長のご登場、だね。ってなんかしおこんぶちょーみたいになったね。まあ笑えるって点じゃあ、なーんも変わんないけど」
ギャルそのものな風貌の京香は、にやにやと締まらない笑顔を浮かべ続けている。
「は、ロリコン? 何の話だよ。全然わからんから、教えてくれっての」
内心の焦りを隠しつつ、恭介は負けじと力強く詰め寄った。
「うわー、まだばっくれられると思ってんだ。おめでたい頭してるよね。ゆっとくけど、学校中その話題だよ。天下のサッカー部キャプテン様は、中学生にしか見えない子とのデート登校を決めちゃうロリコン野郎だった! みたいなね。まあでも本望だよね。あーんなアッツアツの様子、見せびらかすんだもんね」
怒り心頭の恭介は、「いや、あれは違うっての……」と言い返そうとするが、聞く耳持たずの京香は更に続ける。
「まあ安心してよ。私は寛容だから、五十人くらいにしか広めないしさ。いやー、楽しみだ。どうなるんだろね、これからのあんたの学校生活は」
言い捨てた京香は最後に、ふん、といった感じで恭介を睨み、席に戻っていく。
しばらく固まる恭介だったが、やがて夏希の席を歩いて過ぎて、よろよろと自分の椅子に座った。
その日は恭介にとって地獄だった。運が悪い事に移動教室が多く、事実ではないのかもしれないが、恭介は全ての生徒が自分たちの噂をしているようにすら感じていた。
「……あの人がそうなの」
「うん、らしいよ」
「堂々と一年の子と歩いてるなんてねー。相手の子、あたし見たけど、外見はほとんど中学生だよ。勇気があるというか、チャレンジャーというか、とにかくちょっと逸脱はしてるよねー」
四時間目の授業がある音楽室への廊下の端、恭介に不審げな目を向けながら、知らない女子たちがこそこそ話をしていた。早足で通り過ぎた恭介は、苛立ちを加速させる。
(くだらない、非生産的な噂をぺらぺらぺらぺら。もっと他に話すことないのかっつの。せめて聞こえないように喋れよな。救いようがないにも程があるだろ)
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