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第4話

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「中学の時に私、美化委員に入ってて、そのとき先輩が委員長で。すっごい優しく丁寧に仕事を教えてくれたり、居残りまでして私のミスをフォローしてくれたりしたじゃないですか。それで私、『ああもう、この人だ!』ってビビッときて。背中にピカッと電気が走って。で、先輩を好きになったんですよ。まあでも、あっさり断られちゃったんですけどね。人生、うまくいかないもんですよねー」
「……あ、そうなんだ。ごめん、覚えてないわ。人生の思い通りにいかなさについては、激しく同意するけどさ」
 佳奈が妙にテンションの高い一方で、恭介はフラットな心境だった。佳奈は、恭介とは微妙に距離を開けて歩いていた。歩き始めの時に恭介の置いた距離を、律儀に守っているようだった。
(気を利かせられるんだな。まあ、いい子ではある)と、恭介は一人納得していた。
「ほら先輩、明るく明るく。人間、元気が一番。暗くしてたって、なーんにもいいことないですよ?」
「……ああ、わかった。ポジティブにいくわ」
 ぽつりと恭介が答え、二人はしばらく無言で歩き続けた。
 大通りの信号の前で立ち止まった時、佳奈がおずおずと沈黙を破った。
「先輩、中学の時は部活と委員会、両方してましたよね? 両立しててすごいなって思ってたんですけど、高校は委員会入ろうとか思わなかったんですか? あ、いや。別に強制してるわけじゃあないんですよ。ただ単に、何でかなぁって思って」
「高校は部活一本でいこうと思って、委員会は入らなかったんだよ。委員会も得るものは多かったし、かなり迷いはしたんけどさ。時間はだいぶ持って行かれるからな」
「そうなんですかー。委員会も大変ですもんねー。私もやったからわかります」
 合点のいったような調子の佳奈の返答の後、再び会話は途切れた。数歩進むと、唐突に佳奈はぱんっと手を叩いた。
「そうだ! いいこと、思いつきました! 先輩、部活の試合って近いうちにありますか? 私、見に行きたい! 先輩のサッカーしてるところ、ぜひとも見たいです!」
「……ああうん、ずいぶんグイグイ来るな。今日って金曜だよな。明日、ちょうど練習試合あるわ。会場はうちのグラウンドで、開始は十一時くらいかな。見に来たけりゃあ、来たらいいよ。ああでも、あんまり目立たずに。まかり間違っても、俺の関係者だとは知られないように頼む」
 恭介の静かな懇願を受けて、佳奈はふふんといった感じの澄まし顔になった。
「了解です。先輩のためなら、たとえ火の中水の中。ネタバレしちゃうようなヘマは、絶対に犯しません!」
「……なんか君って、いちいち言い回しが面白いよな。退屈はしないからいいけど」
 思わず呟いた恭介は、おもむろに周りを見渡した。
「うん、そろそろ学校の奴に目撃される危険があるし、潮時だな。もうちょい離れて歩いてくれる?」
(ああ、ミスった。ドライな感じになっちまった)
 恭介は瞬時に後悔をした。
「了解です。つかず離れず、心地よい距離感で先輩についていきます」
 楽しげなひそひそ声で返事が来たかと思うと、佳奈はすぐにすうっと後ろに下がった。
(……本当に何なんだこの子は。行動原理がまったく理解できん)
 学校へと歩を進める恭介は、一人深く考え込んでいた。
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