9 / 78
第一章 巨月《ラージムーン》のアストーリ
第9話
しおりを挟む
9
シルバとトウゴは、ジュリアを追って中に入った。
調理器具を確保した三人は、家の裏の草地に移り、ゆっくりと腰を下ろした。
水を張った三脚付きの鉄鍋の下に、トウゴはたくさん炭を置いた。火打石と鉄片を何度かぶつけて火花を熾し、炭の近くの杉の葉に点火をする。
炭に火が移ってしばらくすると、鍋の水が沸き立ってきた。
トウゴは、木の大皿上に載せておいたベーコンとキャベツを、手で豪快に鍋に入れていった。傍ら、真剣な顔でしゃがむジュリアは、木の棒で炭を動かした。火の強さの調整だった。
(親子の絆ってやつか。俺が、永久に手に入れられないもの。ガキどもを教え導き、ジュリアには己の情熱を注ぎこむ。今の生活に不満があるわけじゃあないが、やっぱり正直、羨ましい、よな)
親子二人の息の合いように、シルバの胸に感慨が訪れた。だが気持ちを切替えて、二つの大皿を脇に避けた。
五分ほど経つと、液体がうっすら色づいてきた。膝立ちのトウゴは小皿の塩を一抓み入れて、レードルでスープを掬った。
ジュリアはすばやく前屈みになった。顔をレードルに近づけ、ふーっとスープを吹いて冷ます。
「ありがと、ジュリア」
トウゴはレードルに口を付け、味見をした。
「素晴らしい夜に相応しい、完璧な味わいだな。二人とももう食えるぞ。母さん直伝、俺が芸術の域にまで高めたスペシャル・スープを、心行くまで堪能せよ」
レードルから顔を上げたトウゴは、芝居がかった口調で勧めてきた。
「ありがとうございます。では、遠慮なく」と、シルバは、真顔のトウゴを直視して丁重に返した。
シルバとトウゴは、ジュリアを追って中に入った。
調理器具を確保した三人は、家の裏の草地に移り、ゆっくりと腰を下ろした。
水を張った三脚付きの鉄鍋の下に、トウゴはたくさん炭を置いた。火打石と鉄片を何度かぶつけて火花を熾し、炭の近くの杉の葉に点火をする。
炭に火が移ってしばらくすると、鍋の水が沸き立ってきた。
トウゴは、木の大皿上に載せておいたベーコンとキャベツを、手で豪快に鍋に入れていった。傍ら、真剣な顔でしゃがむジュリアは、木の棒で炭を動かした。火の強さの調整だった。
(親子の絆ってやつか。俺が、永久に手に入れられないもの。ガキどもを教え導き、ジュリアには己の情熱を注ぎこむ。今の生活に不満があるわけじゃあないが、やっぱり正直、羨ましい、よな)
親子二人の息の合いように、シルバの胸に感慨が訪れた。だが気持ちを切替えて、二つの大皿を脇に避けた。
五分ほど経つと、液体がうっすら色づいてきた。膝立ちのトウゴは小皿の塩を一抓み入れて、レードルでスープを掬った。
ジュリアはすばやく前屈みになった。顔をレードルに近づけ、ふーっとスープを吹いて冷ます。
「ありがと、ジュリア」
トウゴはレードルに口を付け、味見をした。
「素晴らしい夜に相応しい、完璧な味わいだな。二人とももう食えるぞ。母さん直伝、俺が芸術の域にまで高めたスペシャル・スープを、心行くまで堪能せよ」
レードルから顔を上げたトウゴは、芝居がかった口調で勧めてきた。
「ありがとうございます。では、遠慮なく」と、シルバは、真顔のトウゴを直視して丁重に返した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
KAKIDAMISHI -The Ultimate Karate Battle-
ジェド
歴史・時代
1894年、東洋の島国・琉球王国が沖縄県となった明治時代――
後の世で「空手」や「琉球古武術」と呼ばれることとなる武術は、琉球語で「ティー(手)」と呼ばれていた。
ティーの修業者たちにとって腕試しの場となるのは、自由組手形式の野試合「カキダミシ(掛け試し)」。
誇り高き武人たちは、時代に翻弄されながらも戦い続ける。
拳と思いが交錯する空手アクション歴史小説、ここに誕生!
・検索キーワード
空手道、琉球空手、沖縄空手、琉球古武道、剛柔流、上地流、小林流、少林寺流、少林流、松林流、和道流、松濤館流、糸東流、東恩流、劉衛流、極真会館、大山道場、芦原会館、正道会館、白蓮会館、国際FSA拳真館、大道塾空道
MMS ~メタル・モンキー・サーガ~
千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』
洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。
その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。
突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。
その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!!
機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
鉄錆の女王機兵
荻原数馬
SF
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語。
荒廃した世界。
暴走したDNA、ミュータントの跳梁跋扈する荒野。
恐るべき異形の化け物の前に、命は無残に散る。
ミュータントに攫われた少女は
闇の中で、赤く光る無数の目に囲まれ
絶望の中で食われ死ぬ定めにあった。
奇跡か、あるいはさらなる絶望の罠か。
死に場所を求めた男によって助け出されたが
美しき四肢は無残に食いちぎられた後である。
慈悲無き世界で二人に迫る、甘美なる死の誘惑。
その先に求めた生、災厄の箱に残ったものは
戦車と一体化し、戦い続ける宿命。
愛だけが、か細い未来を照らし出す。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる