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第三章 総力戦と致命禁断の詠唱
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1
「メイサ先生は挙げなかったけど、悪竜真球と戦えたのと神代の戦の結末が見られたのは大きな成果だよな。ただ命まで張ったんだから、もう少し色々調べられれば良かったな」
隣を歩くシャウアが不満を漏らした。口を引き結んだ難しい面持ちをしている。五歩ほど前方にはフィアナとルカの姿があり、リラックスした表情で会話している。
神代の戦で人型悪竜が倒された後、五人は気がつくと元の時代の校長室に帰還していた。その後にメイサから、小型悪竜は人型悪竜由来である可能性が高いと総括があった。
ひとしきり話し込んだ五人は解散し、ユウリたち四人は帰路についていた。
「最後の人型悪竜は伝承にも登場するって話だったけど、いったい何者なんだ?」
ユウリは素朴な疑問を口にした。
「さすがの俺もわからねえよ。なにせ、人型悪竜の記載は書紀でも一言しか触れられてねえからな。ま、俺がわからないってこたぁ、エデリアの誰一人わからないってことになるんだけどよ」
どこか得意げな返答が来た。(というか、なんでこいつは俺に対してずっとタメ口なんだ?)
考えを巡らしたユウリは、ぴたりと歩みを止めた。フィアナとルカが気づかずに歩き続ける一方で、シャウアは立ち止まった。「どうしたよユウリ」と呟き、不思議そうな視線を向けてきている。
「シャウアってフィアナが好きなんだよな?」
潜めた声でさらりと告げた。シャウアは大きく目を見開き、焦ったような面持ちになる。
「は? いやいやいやいや、い、意味わからんっての。俺が、フィアナを、好きだって? どどどどういう発想をしたらそういう結論に至るんだよ」
シャウアの返答は早口だが小声だった。右手を胸の前でぶんぶんと横に振り否定を示しているが、本心は顔に書いてあった。
「ま、まあ顔はな。多少かわいらしいのは認めてやらないでもないけどよ。あと性格も悪くはないな。ぱっと見、きついようでいて面倒見はよくて優しいしな。あと努力家でもある。でもそれだけだよそれだけ。他の取り柄は皆無だ。な、わかったか。ってかわかれ、わかってくれ」
(容姿も性格もべた褒めじゃないかよ。これでごまかせてるつもりなのか? 神童と言っても内面はまだまだ子供だな)
クールな思考は口には出さず、ユウリはさらに続ける。
「まあそういうことにしておこう。それと、良いところは他にもあるだろ。仲間を守るためなら、強敵にも臆せずに立ち向かうところとかな。男だ女だ言うのは主義じゃあないけど、あれだけ勇気のある女の子は俺は他に知らないよ」
ユウリが実感を込めて告げると、シャウアがすうっと真顔になった。
「確かにそうだよ。フィアナは強いし勇敢だ。一方俺は、口が達者なだけで戦闘じゃあクソの役にも立たない。ただのお荷物野郎だ」
言葉を切ったシャウアは、唇を噛んだ。苦しげで、深い苦悩を感じさせる声色だった。
怪訝に思ったユウリは、シャウアの目を見つめた。
「俺はそんなことを言いたいわけじゃあないんだけど。何を急に自分を責め始めてるんだ?」
ユウリの静かな問い掛けに、シャウアは一呼吸置いて口を開いた。
「エデリアに住む者はみんな、神蝶エデンの恩恵を受けている。だけどそれは平等じゃなく、背中に翼を生み出せる者は約半分なんだよ。そんで俺は残りの半分、俗に言う『無翼』だ。エデンのご加護があるにもかかわらず、飛翔能力を持たないでき損ないなんだよ」
(無翼、だって? 呼び方も割合もルミラリアと完全に同じだ。どうなってるんだ、つくづく)ユウリが驚く一方で、愁いを帯びた佇まいのシャウアはさらに続ける。
「それだけお強いユウリ様にはわかんねえだろうな。女に守ってもらうことの情けなさ、無念さなんてものはよ。神代の戦でもな。俺はずうっと思ってたよ。『フィアナは身体を張って戦って血路を切り開こうとしてんのに、俺はぼうっと突っ立って観戦かよ。何なんだこの差は』ってな」
「いや、そんな風に卑屈になるなよ。シャウアはシャウアで、別の方法で色んな人の役に立ってるだろ」
ユウリは必死に説得するが、シャウアの面持ちは浮かないままだった。
「わからんでもない主張だが、俺はそれだけじゃあ満たされねえんだ。絶大な武力を振るって、愛する人を身を挺して守る。男に生まれたからには、誰もが憧れる生き方だろ」
ユウリが答えに窮していると、シャウアは突然、歯を見せて笑った。何かを企んでいるような、野心を感じさせる笑みだった。
「だがしかし! 俺でも戦闘に貢献できる方法の目途が付いた! まだ未完成も未完成で、実用段階じゃあまったくないがよ。でも見てな! ぜってー完成させて、フィアナもユウリも死ぬほど驚かせてやんぜ!」
びしりとユウリを指差して、シャウアは自信たっぷりに言い放った。だいぶ先に進んでいたフィアナたちが不思議そうな顔で振り返る。
(「方法」とやらが何かはわからないけど、今のシャウアには危なっかしさを感じる。……本当に大丈夫か?)
不安でいっぱいのユウリだったが、それ以上の問答は止めておいた。シャウアの悩みはあまりにも共感ができるものだった。
「メイサ先生は挙げなかったけど、悪竜真球と戦えたのと神代の戦の結末が見られたのは大きな成果だよな。ただ命まで張ったんだから、もう少し色々調べられれば良かったな」
隣を歩くシャウアが不満を漏らした。口を引き結んだ難しい面持ちをしている。五歩ほど前方にはフィアナとルカの姿があり、リラックスした表情で会話している。
神代の戦で人型悪竜が倒された後、五人は気がつくと元の時代の校長室に帰還していた。その後にメイサから、小型悪竜は人型悪竜由来である可能性が高いと総括があった。
ひとしきり話し込んだ五人は解散し、ユウリたち四人は帰路についていた。
「最後の人型悪竜は伝承にも登場するって話だったけど、いったい何者なんだ?」
ユウリは素朴な疑問を口にした。
「さすがの俺もわからねえよ。なにせ、人型悪竜の記載は書紀でも一言しか触れられてねえからな。ま、俺がわからないってこたぁ、エデリアの誰一人わからないってことになるんだけどよ」
どこか得意げな返答が来た。(というか、なんでこいつは俺に対してずっとタメ口なんだ?)
考えを巡らしたユウリは、ぴたりと歩みを止めた。フィアナとルカが気づかずに歩き続ける一方で、シャウアは立ち止まった。「どうしたよユウリ」と呟き、不思議そうな視線を向けてきている。
「シャウアってフィアナが好きなんだよな?」
潜めた声でさらりと告げた。シャウアは大きく目を見開き、焦ったような面持ちになる。
「は? いやいやいやいや、い、意味わからんっての。俺が、フィアナを、好きだって? どどどどういう発想をしたらそういう結論に至るんだよ」
シャウアの返答は早口だが小声だった。右手を胸の前でぶんぶんと横に振り否定を示しているが、本心は顔に書いてあった。
「ま、まあ顔はな。多少かわいらしいのは認めてやらないでもないけどよ。あと性格も悪くはないな。ぱっと見、きついようでいて面倒見はよくて優しいしな。あと努力家でもある。でもそれだけだよそれだけ。他の取り柄は皆無だ。な、わかったか。ってかわかれ、わかってくれ」
(容姿も性格もべた褒めじゃないかよ。これでごまかせてるつもりなのか? 神童と言っても内面はまだまだ子供だな)
クールな思考は口には出さず、ユウリはさらに続ける。
「まあそういうことにしておこう。それと、良いところは他にもあるだろ。仲間を守るためなら、強敵にも臆せずに立ち向かうところとかな。男だ女だ言うのは主義じゃあないけど、あれだけ勇気のある女の子は俺は他に知らないよ」
ユウリが実感を込めて告げると、シャウアがすうっと真顔になった。
「確かにそうだよ。フィアナは強いし勇敢だ。一方俺は、口が達者なだけで戦闘じゃあクソの役にも立たない。ただのお荷物野郎だ」
言葉を切ったシャウアは、唇を噛んだ。苦しげで、深い苦悩を感じさせる声色だった。
怪訝に思ったユウリは、シャウアの目を見つめた。
「俺はそんなことを言いたいわけじゃあないんだけど。何を急に自分を責め始めてるんだ?」
ユウリの静かな問い掛けに、シャウアは一呼吸置いて口を開いた。
「エデリアに住む者はみんな、神蝶エデンの恩恵を受けている。だけどそれは平等じゃなく、背中に翼を生み出せる者は約半分なんだよ。そんで俺は残りの半分、俗に言う『無翼』だ。エデンのご加護があるにもかかわらず、飛翔能力を持たないでき損ないなんだよ」
(無翼、だって? 呼び方も割合もルミラリアと完全に同じだ。どうなってるんだ、つくづく)ユウリが驚く一方で、愁いを帯びた佇まいのシャウアはさらに続ける。
「それだけお強いユウリ様にはわかんねえだろうな。女に守ってもらうことの情けなさ、無念さなんてものはよ。神代の戦でもな。俺はずうっと思ってたよ。『フィアナは身体を張って戦って血路を切り開こうとしてんのに、俺はぼうっと突っ立って観戦かよ。何なんだこの差は』ってな」
「いや、そんな風に卑屈になるなよ。シャウアはシャウアで、別の方法で色んな人の役に立ってるだろ」
ユウリは必死に説得するが、シャウアの面持ちは浮かないままだった。
「わからんでもない主張だが、俺はそれだけじゃあ満たされねえんだ。絶大な武力を振るって、愛する人を身を挺して守る。男に生まれたからには、誰もが憧れる生き方だろ」
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「だがしかし! 俺でも戦闘に貢献できる方法の目途が付いた! まだ未完成も未完成で、実用段階じゃあまったくないがよ。でも見てな! ぜってー完成させて、フィアナもユウリも死ぬほど驚かせてやんぜ!」
びしりとユウリを指差して、シャウアは自信たっぷりに言い放った。だいぶ先に進んでいたフィアナたちが不思議そうな顔で振り返る。
(「方法」とやらが何かはわからないけど、今のシャウアには危なっかしさを感じる。……本当に大丈夫か?)
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