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第二章 古戦場にて
12話
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12
五人は門より魔城に入り、固まって進んでいった。絨毯、シャンデリア、彫刻像など、内装はルミラリアの富裕層の邸宅に近いものがあった。だが明かりはまばらにある松明のみで薄暗く、空気は不気味なまでにひんやりとしている。
エル・クリスタ軍がおおかた倒したようで、悪竜との遭遇は少なかった。遭遇してもすでに手負いだったりと、苦戦する相手はいなかった。
ひときわ強大で邪悪な気配を感じるというルカの導きで、迷いはしなかった。階段を上がり大広間を横切り渡り廊下を抜け、五人は禍々しい城を突き進んでいった。
何度目かの小さな鉄扉を開き、ユウリは上に視線を向けた。円筒形の建物の内側に沿って、螺旋階段がどこまでも続いている。
百段ほど行き、踊り場に辿り着いた。ユウリはそこにある扉に手を掛け、一気に押し開けた。
目に飛び込んできたのは、石畳の空間だった。広さはおおよそ二十ミルト四方で、周囲を囲む石壁の外には森と夜空が広がっている。
向こう側の石壁近くには、エル・クリスタとその軍隊が敵と思しき者を取り囲んでいた。中には倒れ伏す者もおり、戦闘がある程度進んだのだと予想できた。ユウリは敵を注視する。
それは人の形をしており、身長もユウリとほぼ同じだった。ただ頭部は悪竜の頭そのものであり、背中には黒色の翼が付いている。全身に纏う鎧は漆黒。その装飾は精緻かつ豪奢で、怪しい魅力に満ちていた。
「人型の、悪竜? そんなの見たことが……」
ユウリが唖然としていると、人型悪竜は籠手に包まれた右腕を突き出した。すると虚空から線上の物体がいくつも生じた。狙いは前方のエル・クリスタである。
エル・クリスタは空中で横回転した。するとその周囲に黄金の気流が発生。人型悪竜が放った攻撃を打ち落とした。ユウリは落下したそれらに目を向ける。
「メイサ先生、あれです! 僕とフィアナが戦った奴だ!」ユウリはメイサに向き直り、地面を指差した。八体の小型悪竜が地面に伸びている。
メイサが大きな目を見開き、何かを言おうとした。だが、
「「摂理の真性は聖にして貴。されど神敵、暴悪なれば、邪に染まりても其を滅す。出でよ、黒神蝶!」
何十人もの声が響き渡った。すると、ユウリ達のはるか上方に透明の何かが姿を現し始めた。数瞬の後に完全に実体化する。
全身真っ黒の蝶だった。大きさは、羽根の両端の間隔がユウリの背丈の三倍ほど。数は四で、いずれも小さく羽ばたき続けている。
エル・クリスタ軍の一部が両手を組んだ。皆、蝶翼を身につけた者たちだった。すっと目を瞑り、祈るような動きをする。
四匹の黒蝶の動きが止まった。次の瞬間、黒蝶の頭部から黒い光が放たれる。四筋の光は高速で天へと昇り、合流して地へと向かい始めた。
一瞬で黒光は石畳に到達。人型悪竜に命中する。光ゆえか完全に無音だが、凄まじい迫力が感じられた。
一秒、二秒、三秒。ようやく光は収まり、人型悪竜の姿が見えた。片膝を石畳に突いている。頭部の角は左が折れており、全身から黒い血がとめどなく流れていた。呼吸は荒く、表情は苦悶に満ちている。
ふわり。エル・クリスタが舞い上がった。頭を上げて高らかに鳴く。ユウリはその全身に目をやり、決して浅くない傷があちこちにある事実に気づいた。
(エル・クリスタといえど無傷とは行かなかったのか。けど、これで終わりだ!)
ユウリが確信していると、エル・クリスタの右翼が一瞬にして肥大化した。先ほど同様、黄金色で、きらきらと清らかに輝いている。
エル・クリスタは右翼を振るった。瞬く間に人型悪竜に到達。胴体に当たり、真っ二つに断ち切った。
人型悪竜の身体が崩れ落ちた。辺りが歓声に包まれる。しかしユウリの意識は、ふうっと闇に溶けていった。
五人は門より魔城に入り、固まって進んでいった。絨毯、シャンデリア、彫刻像など、内装はルミラリアの富裕層の邸宅に近いものがあった。だが明かりはまばらにある松明のみで薄暗く、空気は不気味なまでにひんやりとしている。
エル・クリスタ軍がおおかた倒したようで、悪竜との遭遇は少なかった。遭遇してもすでに手負いだったりと、苦戦する相手はいなかった。
ひときわ強大で邪悪な気配を感じるというルカの導きで、迷いはしなかった。階段を上がり大広間を横切り渡り廊下を抜け、五人は禍々しい城を突き進んでいった。
何度目かの小さな鉄扉を開き、ユウリは上に視線を向けた。円筒形の建物の内側に沿って、螺旋階段がどこまでも続いている。
百段ほど行き、踊り場に辿り着いた。ユウリはそこにある扉に手を掛け、一気に押し開けた。
目に飛び込んできたのは、石畳の空間だった。広さはおおよそ二十ミルト四方で、周囲を囲む石壁の外には森と夜空が広がっている。
向こう側の石壁近くには、エル・クリスタとその軍隊が敵と思しき者を取り囲んでいた。中には倒れ伏す者もおり、戦闘がある程度進んだのだと予想できた。ユウリは敵を注視する。
それは人の形をしており、身長もユウリとほぼ同じだった。ただ頭部は悪竜の頭そのものであり、背中には黒色の翼が付いている。全身に纏う鎧は漆黒。その装飾は精緻かつ豪奢で、怪しい魅力に満ちていた。
「人型の、悪竜? そんなの見たことが……」
ユウリが唖然としていると、人型悪竜は籠手に包まれた右腕を突き出した。すると虚空から線上の物体がいくつも生じた。狙いは前方のエル・クリスタである。
エル・クリスタは空中で横回転した。するとその周囲に黄金の気流が発生。人型悪竜が放った攻撃を打ち落とした。ユウリは落下したそれらに目を向ける。
「メイサ先生、あれです! 僕とフィアナが戦った奴だ!」ユウリはメイサに向き直り、地面を指差した。八体の小型悪竜が地面に伸びている。
メイサが大きな目を見開き、何かを言おうとした。だが、
「「摂理の真性は聖にして貴。されど神敵、暴悪なれば、邪に染まりても其を滅す。出でよ、黒神蝶!」
何十人もの声が響き渡った。すると、ユウリ達のはるか上方に透明の何かが姿を現し始めた。数瞬の後に完全に実体化する。
全身真っ黒の蝶だった。大きさは、羽根の両端の間隔がユウリの背丈の三倍ほど。数は四で、いずれも小さく羽ばたき続けている。
エル・クリスタ軍の一部が両手を組んだ。皆、蝶翼を身につけた者たちだった。すっと目を瞑り、祈るような動きをする。
四匹の黒蝶の動きが止まった。次の瞬間、黒蝶の頭部から黒い光が放たれる。四筋の光は高速で天へと昇り、合流して地へと向かい始めた。
一瞬で黒光は石畳に到達。人型悪竜に命中する。光ゆえか完全に無音だが、凄まじい迫力が感じられた。
一秒、二秒、三秒。ようやく光は収まり、人型悪竜の姿が見えた。片膝を石畳に突いている。頭部の角は左が折れており、全身から黒い血がとめどなく流れていた。呼吸は荒く、表情は苦悶に満ちている。
ふわり。エル・クリスタが舞い上がった。頭を上げて高らかに鳴く。ユウリはその全身に目をやり、決して浅くない傷があちこちにある事実に気づいた。
(エル・クリスタといえど無傷とは行かなかったのか。けど、これで終わりだ!)
ユウリが確信していると、エル・クリスタの右翼が一瞬にして肥大化した。先ほど同様、黄金色で、きらきらと清らかに輝いている。
エル・クリスタは右翼を振るった。瞬く間に人型悪竜に到達。胴体に当たり、真っ二つに断ち切った。
人型悪竜の身体が崩れ落ちた。辺りが歓声に包まれる。しかしユウリの意識は、ふうっと闇に溶けていった。
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