57 / 71
第四章 伝統の一戦(クラシコ)と少女の真相
14話
しおりを挟む
14
集合が解かれて、神白はその場で大きく深呼吸した。気力は充実し、気分は最高だった。
「神白君」女性の澄んだ声がして、神白は後ろを見返った。エレナだった。何かを悟ったかのような優しい笑顔を見せている。
「相手は強敵で、君が進むは茨の道だ。先人のほとんどいない未踏の道でもある。でも今日のこの場は、自分を表現する千載一遇のチャンスだよ。逃しちゃあ絶対にだめだ」
エレナの口振りは、温かみに満ちていた。神白はまたしても涙が出そうになった。
「みんな君の味方だ! 進め、神白樹! 自分だけの道を!」
勇ましく叫ぶと、エレナは完璧なウインクを見せた。「ありがとう」神白は笑って、エレナに謝意を述べた。
コートに向き直った神白は、力強い大股で中央へと進んでいった。
センターサークルに至り、神白は両手を身体の前でクロスさせてのストレッチを行っていた。すると「樹センパイ」と背後から声が掛かった。
振り返ると、天馬とレオンがいた。二人とも晴れ晴れしい表情をしている。
「俺、正直めちゃくちゃびっくりしてるっす。いつも何でも堅実にやっていってる樹センパイが、あんなウルトラ大冒険をするなんてね。でも俺はセンパイの味方っす。心のままに突き進んじゃってください」
エネルギッシュに神白を元気づけると、天馬は肩の前で右手をぐっと握った。神白に向ける視線には、少年特有の朗らかさがある。
「この試合、必ず勝つっすよ。樹センパイは守護神の役割をしながら、攻撃のタクトもぶんぶん振るう。そんで俺はぜってー、モンドラゴンをぶち抜いて一点取ってやるっす」
天馬の力強い豪語に、「了解。期待してるぞ」と、神白は軟らかく返答した。
「まったく同感だよ。クラシカルなゴールライン型のキーパーだったイツキが、センターラインより前に上がってくる日が来るとは思わなかった」
おどけた風にレオンは続けた。
「俺も不安がなくはないんだ。少なくともヨーロッパでは、俺が前半にしたみたいなプレーをするキーパーはいないからさ」
神白が答えると、レオンはにこりと笑みを大きくした。
「『狭き門より入れ。滅びに至る門は大きくその路は広く、これより入る者多し。命に至る門は狭く、その路は細く、これを見出す者なし』だよ。イツキと俺たちの向かう門は、狭いが命に至る、すなわち勝利に繋がる門だ。臆する必要はない。ルアレに完勝して、雑音は黙らせてやろう」
レオンは滑らかに、演説のような調子で神白を鼓舞した。神白は満ち足りた心持ちで小さく頷く。
十一人全員がコートに入り、神白たちは円陣を組んだ。皆、高揚したような顔付きで、神白は優勝への確信を強めた。
円陣が解かれて、神白はゴール前へと駆けていった。
「よっ、樹! ここまで来たんだ、絶対に優勝すんぞ」ざっくばらんな声が後ろから掛かった。振り向くと暁だった。野心に満ちた、獣のような笑顔を湛えている。
「炎のセンターバックの二つ名を持つ俺が言うことじゃねえかもしれんが、末恐ろしいスタイルに目覚めたな。だが俺は応援してる。お前ならやれる。絶対にやれるんだ」
興奮を無理に抑えた口調で、暁は言葉を並べ立てた。「遼河……」神白は想いを込めて、親友の名を口にした。
「後ろは気にすんな。いや、ちょっとは気にして欲しいがよ。行けると思ったら情け容赦なく上がってやれ! 骨は俺が拾ってやる! 一つ残らず徹底的にな! GOだ、樹!」
あまりにもパワフルな激励だった。「サンキュな、遼河」と、神白は答えた。
神白はゴールに向き直り、再び走っていった。
(ああ、俺はこんなにもたくさんの人に支えられてたんだ)
神白は最高の充足感に浸っていた。サッカーをやっていて良かったと、神白はこの上なく強く感じた。
集合が解かれて、神白はその場で大きく深呼吸した。気力は充実し、気分は最高だった。
「神白君」女性の澄んだ声がして、神白は後ろを見返った。エレナだった。何かを悟ったかのような優しい笑顔を見せている。
「相手は強敵で、君が進むは茨の道だ。先人のほとんどいない未踏の道でもある。でも今日のこの場は、自分を表現する千載一遇のチャンスだよ。逃しちゃあ絶対にだめだ」
エレナの口振りは、温かみに満ちていた。神白はまたしても涙が出そうになった。
「みんな君の味方だ! 進め、神白樹! 自分だけの道を!」
勇ましく叫ぶと、エレナは完璧なウインクを見せた。「ありがとう」神白は笑って、エレナに謝意を述べた。
コートに向き直った神白は、力強い大股で中央へと進んでいった。
センターサークルに至り、神白は両手を身体の前でクロスさせてのストレッチを行っていた。すると「樹センパイ」と背後から声が掛かった。
振り返ると、天馬とレオンがいた。二人とも晴れ晴れしい表情をしている。
「俺、正直めちゃくちゃびっくりしてるっす。いつも何でも堅実にやっていってる樹センパイが、あんなウルトラ大冒険をするなんてね。でも俺はセンパイの味方っす。心のままに突き進んじゃってください」
エネルギッシュに神白を元気づけると、天馬は肩の前で右手をぐっと握った。神白に向ける視線には、少年特有の朗らかさがある。
「この試合、必ず勝つっすよ。樹センパイは守護神の役割をしながら、攻撃のタクトもぶんぶん振るう。そんで俺はぜってー、モンドラゴンをぶち抜いて一点取ってやるっす」
天馬の力強い豪語に、「了解。期待してるぞ」と、神白は軟らかく返答した。
「まったく同感だよ。クラシカルなゴールライン型のキーパーだったイツキが、センターラインより前に上がってくる日が来るとは思わなかった」
おどけた風にレオンは続けた。
「俺も不安がなくはないんだ。少なくともヨーロッパでは、俺が前半にしたみたいなプレーをするキーパーはいないからさ」
神白が答えると、レオンはにこりと笑みを大きくした。
「『狭き門より入れ。滅びに至る門は大きくその路は広く、これより入る者多し。命に至る門は狭く、その路は細く、これを見出す者なし』だよ。イツキと俺たちの向かう門は、狭いが命に至る、すなわち勝利に繋がる門だ。臆する必要はない。ルアレに完勝して、雑音は黙らせてやろう」
レオンは滑らかに、演説のような調子で神白を鼓舞した。神白は満ち足りた心持ちで小さく頷く。
十一人全員がコートに入り、神白たちは円陣を組んだ。皆、高揚したような顔付きで、神白は優勝への確信を強めた。
円陣が解かれて、神白はゴール前へと駆けていった。
「よっ、樹! ここまで来たんだ、絶対に優勝すんぞ」ざっくばらんな声が後ろから掛かった。振り向くと暁だった。野心に満ちた、獣のような笑顔を湛えている。
「炎のセンターバックの二つ名を持つ俺が言うことじゃねえかもしれんが、末恐ろしいスタイルに目覚めたな。だが俺は応援してる。お前ならやれる。絶対にやれるんだ」
興奮を無理に抑えた口調で、暁は言葉を並べ立てた。「遼河……」神白は想いを込めて、親友の名を口にした。
「後ろは気にすんな。いや、ちょっとは気にして欲しいがよ。行けると思ったら情け容赦なく上がってやれ! 骨は俺が拾ってやる! 一つ残らず徹底的にな! GOだ、樹!」
あまりにもパワフルな激励だった。「サンキュな、遼河」と、神白は答えた。
神白はゴールに向き直り、再び走っていった。
(ああ、俺はこんなにもたくさんの人に支えられてたんだ)
神白は最高の充足感に浸っていた。サッカーをやっていて良かったと、神白はこの上なく強く感じた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
卑怯な黒魔術師ウォーロックだとしてパーティーを追放されたけど、ユニークスキル範囲魔法でソロ余裕でした。今更戻ってこいと言われても、もう遅い
滝川 海老郎
ファンタジー
ルークは黒魔術師ウォーロックだった。この世界ではウォーロックは安全な後方から単体魔法で攻撃するだけの「卑怯者」という烙印を押されている。
それを承知の上でパーティーに入れていたはずなのに、ある日パーティーから追放されてしまう。
ルークはソロ魔術師になったが必殺技があった。それは「範囲攻撃魔法」だった。周囲に味方がいると使いづらいから封印していたが、ソロなら余裕だ。
大量の魔物を一度に屠り続け、最強のソロ魔術師になろうとした。
しかしエンチャンターでエルフの彼女と出会い、最強のコンビを組むことになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる