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第四章 伝統の一戦(クラシコ)と少女の真相
14話
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集合が解かれて、神白はその場で大きく深呼吸した。気力は充実し、気分は最高だった。
「神白君」女性の澄んだ声がして、神白は後ろを見返った。エレナだった。何かを悟ったかのような優しい笑顔を見せている。
「相手は強敵で、君が進むは茨の道だ。先人のほとんどいない未踏の道でもある。でも今日のこの場は、自分を表現する千載一遇のチャンスだよ。逃しちゃあ絶対にだめだ」
エレナの口振りは、温かみに満ちていた。神白はまたしても涙が出そうになった。
「みんな君の味方だ! 進め、神白樹! 自分だけの道を!」
勇ましく叫ぶと、エレナは完璧なウインクを見せた。「ありがとう」神白は笑って、エレナに謝意を述べた。
コートに向き直った神白は、力強い大股で中央へと進んでいった。
センターサークルに至り、神白は両手を身体の前でクロスさせてのストレッチを行っていた。すると「樹センパイ」と背後から声が掛かった。
振り返ると、天馬とレオンがいた。二人とも晴れ晴れしい表情をしている。
「俺、正直めちゃくちゃびっくりしてるっす。いつも何でも堅実にやっていってる樹センパイが、あんなウルトラ大冒険をするなんてね。でも俺はセンパイの味方っす。心のままに突き進んじゃってください」
エネルギッシュに神白を元気づけると、天馬は肩の前で右手をぐっと握った。神白に向ける視線には、少年特有の朗らかさがある。
「この試合、必ず勝つっすよ。樹センパイは守護神の役割をしながら、攻撃のタクトもぶんぶん振るう。そんで俺はぜってー、モンドラゴンをぶち抜いて一点取ってやるっす」
天馬の力強い豪語に、「了解。期待してるぞ」と、神白は軟らかく返答した。
「まったく同感だよ。クラシカルなゴールライン型のキーパーだったイツキが、センターラインより前に上がってくる日が来るとは思わなかった」
おどけた風にレオンは続けた。
「俺も不安がなくはないんだ。少なくともヨーロッパでは、俺が前半にしたみたいなプレーをするキーパーはいないからさ」
神白が答えると、レオンはにこりと笑みを大きくした。
「『狭き門より入れ。滅びに至る門は大きくその路は広く、これより入る者多し。命に至る門は狭く、その路は細く、これを見出す者なし』だよ。イツキと俺たちの向かう門は、狭いが命に至る、すなわち勝利に繋がる門だ。臆する必要はない。ルアレに完勝して、雑音は黙らせてやろう」
レオンは滑らかに、演説のような調子で神白を鼓舞した。神白は満ち足りた心持ちで小さく頷く。
十一人全員がコートに入り、神白たちは円陣を組んだ。皆、高揚したような顔付きで、神白は優勝への確信を強めた。
円陣が解かれて、神白はゴール前へと駆けていった。
「よっ、樹! ここまで来たんだ、絶対に優勝すんぞ」ざっくばらんな声が後ろから掛かった。振り向くと暁だった。野心に満ちた、獣のような笑顔を湛えている。
「炎のセンターバックの二つ名を持つ俺が言うことじゃねえかもしれんが、末恐ろしいスタイルに目覚めたな。だが俺は応援してる。お前ならやれる。絶対にやれるんだ」
興奮を無理に抑えた口調で、暁は言葉を並べ立てた。「遼河……」神白は想いを込めて、親友の名を口にした。
「後ろは気にすんな。いや、ちょっとは気にして欲しいがよ。行けると思ったら情け容赦なく上がってやれ! 骨は俺が拾ってやる! 一つ残らず徹底的にな! GOだ、樹!」
あまりにもパワフルな激励だった。「サンキュな、遼河」と、神白は答えた。
神白はゴールに向き直り、再び走っていった。
(ああ、俺はこんなにもたくさんの人に支えられてたんだ)
神白は最高の充足感に浸っていた。サッカーをやっていて良かったと、神白はこの上なく強く感じた。
集合が解かれて、神白はその場で大きく深呼吸した。気力は充実し、気分は最高だった。
「神白君」女性の澄んだ声がして、神白は後ろを見返った。エレナだった。何かを悟ったかのような優しい笑顔を見せている。
「相手は強敵で、君が進むは茨の道だ。先人のほとんどいない未踏の道でもある。でも今日のこの場は、自分を表現する千載一遇のチャンスだよ。逃しちゃあ絶対にだめだ」
エレナの口振りは、温かみに満ちていた。神白はまたしても涙が出そうになった。
「みんな君の味方だ! 進め、神白樹! 自分だけの道を!」
勇ましく叫ぶと、エレナは完璧なウインクを見せた。「ありがとう」神白は笑って、エレナに謝意を述べた。
コートに向き直った神白は、力強い大股で中央へと進んでいった。
センターサークルに至り、神白は両手を身体の前でクロスさせてのストレッチを行っていた。すると「樹センパイ」と背後から声が掛かった。
振り返ると、天馬とレオンがいた。二人とも晴れ晴れしい表情をしている。
「俺、正直めちゃくちゃびっくりしてるっす。いつも何でも堅実にやっていってる樹センパイが、あんなウルトラ大冒険をするなんてね。でも俺はセンパイの味方っす。心のままに突き進んじゃってください」
エネルギッシュに神白を元気づけると、天馬は肩の前で右手をぐっと握った。神白に向ける視線には、少年特有の朗らかさがある。
「この試合、必ず勝つっすよ。樹センパイは守護神の役割をしながら、攻撃のタクトもぶんぶん振るう。そんで俺はぜってー、モンドラゴンをぶち抜いて一点取ってやるっす」
天馬の力強い豪語に、「了解。期待してるぞ」と、神白は軟らかく返答した。
「まったく同感だよ。クラシカルなゴールライン型のキーパーだったイツキが、センターラインより前に上がってくる日が来るとは思わなかった」
おどけた風にレオンは続けた。
「俺も不安がなくはないんだ。少なくともヨーロッパでは、俺が前半にしたみたいなプレーをするキーパーはいないからさ」
神白が答えると、レオンはにこりと笑みを大きくした。
「『狭き門より入れ。滅びに至る門は大きくその路は広く、これより入る者多し。命に至る門は狭く、その路は細く、これを見出す者なし』だよ。イツキと俺たちの向かう門は、狭いが命に至る、すなわち勝利に繋がる門だ。臆する必要はない。ルアレに完勝して、雑音は黙らせてやろう」
レオンは滑らかに、演説のような調子で神白を鼓舞した。神白は満ち足りた心持ちで小さく頷く。
十一人全員がコートに入り、神白たちは円陣を組んだ。皆、高揚したような顔付きで、神白は優勝への確信を強めた。
円陣が解かれて、神白はゴール前へと駆けていった。
「よっ、樹! ここまで来たんだ、絶対に優勝すんぞ」ざっくばらんな声が後ろから掛かった。振り向くと暁だった。野心に満ちた、獣のような笑顔を湛えている。
「炎のセンターバックの二つ名を持つ俺が言うことじゃねえかもしれんが、末恐ろしいスタイルに目覚めたな。だが俺は応援してる。お前ならやれる。絶対にやれるんだ」
興奮を無理に抑えた口調で、暁は言葉を並べ立てた。「遼河……」神白は想いを込めて、親友の名を口にした。
「後ろは気にすんな。いや、ちょっとは気にして欲しいがよ。行けると思ったら情け容赦なく上がってやれ! 骨は俺が拾ってやる! 一つ残らず徹底的にな! GOだ、樹!」
あまりにもパワフルな激励だった。「サンキュな、遼河」と、神白は答えた。
神白はゴールに向き直り、再び走っていった。
(ああ、俺はこんなにもたくさんの人に支えられてたんだ)
神白は最高の充足感に浸っていた。サッカーをやっていて良かったと、神白はこの上なく強く感じた。
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