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第二章 神白樹の飛躍

2話

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 バルサボールのキックオフだった。7番がちょんっとボールを出した。天馬が受けて試合開始。
 バルサの布陣は4―3―3。少し前の紅白戦主力組からの変更点は、キーパーが神白に変わったのみだった。
 一方のジムナスティコは、3―4―3。センターフォワードの絶対エース、ビジャルを得点源としていた。
 ビジャルが一気に加速。天馬へとプレッシャーを掛ける。
 ビジャルと連動して、ジムナスティコの面々はすばやく各々のマーク相手に詰め寄った。ポジショニングには乱れがなく、強い統率を感じさせた。
(ジムナスティコ・ビルバオは、バスク人のみが所属できるクラブ。その分、チームへの忠誠心は強く、バスク人の特徴もあって献身性の高い選手が多い、か)
 神白は位置を微調整しつつ、分析していた。ビジャルに詰められた天馬は、後方にパスをした。
 右センターバックのアリウム・ジュニオールが、上がり目のポジションを取った。ボールは中盤を経て、アリウムに渡る。
 カメルーン出身のアリウムは、二年前、十七歳でスペインに帰化した選手だった。黒人選手らしく、パワー・スピードとも抜群である。
「アリウム!」レオンが駆け寄り、ボールを要求した。アリウムはすぐさまレオンへとパスを転がす。
 トラップしたレオンは右足で反転。前を向き、右前方に視線を遣った。
 敵の8番が足を出す。見切ったレオンは、足裏でボールを引いた。身体の後ろを通して反対に切り返す。
 無駄のない動きで8番を躱し、レオンは左足を振り被った。すぐに、相手守備陣の裏へとボールが飛ぶ。振り脚は恐ろしいほどの高速だった。
「開始早々大チャンスっすね!」オフサイド(敵最後尾選手の後ろでパスを受ける反則)ぎりぎりの位置にいた天馬が、瞬時に反応。野心たっぷりに叫び爆速ダッシュを始めた。
 ライナー性のボールがジムナスティコを切り裂く。天馬はノーバウンドで、すぐに蹴れる位置に止めた。和製ロナルディーノの二つ名に恥じない、柔らかすぎるタッチだった。
 キーパーが出てきた。天馬は構わず撃った。ふわりとしたシュートがゴールに向かう。
 しかしキーパーの反応も早い。ぐっと右手を上に伸ばし、どうにかボールに指先を掠める。
 天馬のシュートは、わずかに上方へとベクトルを変える。それでも入りそうに思えたが、すんでのところで敵2番が滑って触れた。
 ボールはサイドへと流れる。敵3番が追いつき、右に出してからクリア。バルサの好機は無得点に終わった。
「侑亮、ナイスシュート! それを続けていこう!」神白はぱんぱんと手を叩きつつ、高らかに叫んだ。
 右ハーフの4番が、ワンバウンドの後にトラップした。すぐさまターン。バルサの8番が左前の半身で相対する。
 4番は右足の外側で持ち直した。助走を取りロングキックを放つ。8番が足を出すが、わずかに届かない。
 バルサ3番とビジャルが追う。近い位置にいた3番が早い。スライディングを仕掛けてパスカットを試みる。
 しかし、バルサを不運が襲う。3番の手前で、ボールは不自然に跳ねた。スライディングは空振りに終わる。
(芝のギャップ!)神白は即座に看破し、「リー、フォローだ! アリウムも絞れ!」と、センターバック二人に指示を出す。
 ビジャルがボールを収めた。バルサ4番が詰め寄る。
 一瞬の間を置いて、ビジャルは縦へとドリブル開始。読んでいた4番も追うが、すぐにぶっちぎられる。
 カバーをすべく、アリウムが走り寄る。しかしビジャルの判断は早い。アリウムに寄せられる前にシュートを放った。
(左隅!)即断して神白は跳んだ。掌に当たった。カンッ! 後ろで高い音がすると、背中に何かが当たった。すぐにボールが地面を跳ねる音がする。
 神白は着地した。即座に振り返った。ボールはころころと、ゴールへと向かっていく。
 全力で地を蹴った。掻き出すべく滑り込む。だがわずかに届かない。
 ボールがラインを割った。ピピーッ! 笛の高い音を聞いて、神白は呆然とする。〇対一。バルサはジムナスティコに、前半二分で先制を許した。
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