最後列のファンタジスタ~禁断の移籍を敢行した日本人キーパーは、神秘のバルセロナ美少女と出会って超越する~

雪銀海仁@自作絵&小説商業連載中

文字の大きさ
上 下
4 / 71
第一章 慈悲なき豚の頭と謎の美少女の降臨

4話

しおりを挟む
       4

 直後、礼拝堂には警備員たちが入ってきた。神白たちを見つけると安堵の表情を浮かべ、コートに戻るよう告げてきた。
 神白は指示に従い、コートに向かって歩き始めた。どういう訳か、エレナも従いて来ていたが。
 試合終了後の挨拶を終え、コートの外でバルサ・フベニールAの面々は輪になり、監督の話を聞いた。責めの言葉こそなかったが、敗北の原因の分析があった。
 神白は、苦々しい思いと共に、監督の論評を傾聴していた。真剣そのものな顔付きで当然のように輪に加わるエレナが気になってはいたが。時折ふむふむといった感じで頷く様が、可愛らしくて目を惹かれた。
 監督の話が終わり、選手たちは各々でクール・ダウンのストレッチを始めた。神白は皆から少し離れたところに腰を下ろした。今は一人でいたい思いだった。 
 エレナの件は気になってはいた。だが、敗戦の責任者という自責の念は、あまりにも強かった。
 神白は股割り前屈の姿勢になり、左足の爪先へと両手を伸ばす。すると、すぐさま肩に手の感触が生じ、ぐっと身体が前に行った。
「痛っ! 誰だよ、いきなり……」突然の痛みに、神白の口から言葉が漏れた。
「本日からフベニールAの第二GKコーチを務めます、みんなのアイドル、エレナ・リナレス・ハポンです♪ 以後お見知りおきを。って言っても、あなた以外の人は、みんな、私はずーっと第二GKコーチだった、って認識なんだけどね」
 背後から、女性の愉快げな声が聞こえてきた。
「何を訳のわからない……。礼拝堂での催眠術めいた真似といい、君はいったい何者なんだ?」
 ストレッチに耐えつつも、神白は疑念を口にした。
「『君』だなんて、失礼しちゃうな。私の年齢、まだ知らないでしょ? もし年上だったら、君はレッドで一発退場、だよ」
(そういやそうか。迂闊だったな)神白は小さく後悔する。
「まあでも私は十八歳。君からすると、見目麗しい美人同級生。だから気易くタメ口でよろしくね」
 エレナは親指を立て、にこりと愛嬌たっぷりに微笑む。
(ってか見目うんぬんは年齢とは関係ないだろ。見た目は凄い聡明そうなのに、奔放というか自由というか。掴み所のない人だ)
 アップダウンの激しいエレナの台詞に、神白は思考を巡らせる。
「初耳な情報がてんこ盛りだろうから、順を追って説明するね。私は、日本人の血が混じったスペイン人。ハポンっていう姓は、江戸時代にスペインに渡った慶長遣欧使節団の末裔だからなの。芸術の都バルセロナで生まれて、優しい両親の元でのびのびと育って、六歳の時にサッカーを始めた」
 エレナは落ち着いた調子で説明を始めた。エレナの特異な経歴に、神白は興味を惹かれる。
「私は必死で練習した。やるからには頂点! トップ! 全プレイヤーの目標だもんね。弛まぬ努力と、ある程度はあった才能のおかげで、十七歳の時にバルセロナSC・フェメニのスカウトの目に留まった。十八歳でトップに上がって、すぐにレギュラーを奪取したのよ」
 一転、エレナの声は弾んでいた。
 背後なので見えはしない。だが、神白にはエレナの得意げな表情が目に浮かぶようだった。
(女子と男子じゃ状況は違うけど、十八歳でレギュラーは大したもんだよな。俺も日本にいた頃は、神童だ何だって身の丈に合わない騒がれ方をしてたけど、エレナもそういう人の一人ってわけだ)
 神白は一人、納得していた。
「でも、あれこれ事情があって、私はカンプ・ノウの礼拝堂であなたと出会い、怒り狂うファンから催眠術の力で救った」
 ストレッチを中断し、神白は振り返った。
「説明、飛ばし過ぎでしょ。いったい何がどうなって、バルサ女子期待の若手キーパーが、マリア様の御使いみたいな存在になってるんだ?」
 努めて穏やかに、神白はエレナに問い掛けた。
「教えてもいいけど、私の使命とは無関係だし止めとくね。あまり進んで話したい内容でもないし」
 諦めたような雰囲気で、エレナはぽつりと言葉を漏らした。
「使命って、何?」神白が静かに疑問を口にする。
「あなたがサッカーで成功するための支援。それが私の全て。使命にして生きがい」
 エレナは一瞬にして真顔になった。これまでの飄々とした佇まいとは一線を画していた。
 神白が言葉を失っていると、エレナはふいに余裕たっぷりの笑顔になる。
「そりゃあ気になるよね。こーんな絶世の美人が急に現れて、『私には使命がある』だなんて嘯くんだもの。引っかからないほうが嘘だよ、うん。でも今はとにかく私を信じて腕を磨くのよ。今日の失敗程度でへこたれちゃあダメだよ。勝利も敗北も、全ての経験を糧にもっと上を目指すの。そうすりゃ自然と道は開けるから」
 確信に満ちた口振りで、エレナは言葉を紡いだ。神白は思いを巡らせる。
(正体はめちゃくちゃ気になるけど、俺を助けたいって気持ちは本物なんだろな、うん。誠意には誠意でもって応えなくちゃいけない)
 結論づけた神白は、「ありがとう。そんじゃあこれからよろしく」と右手を差し出し握手を求めた。
「ちょっとちょっと。握手はいいけど聞き流さないでよ。礼拝堂に続いてまさかの二度目よ。『見目麗しい』とか『絶世の美人』とかは突っ込んでくれないと。私を自分大好きな痛い女にしないでよ」
 慌てた様のエレナは早口で一人喚いた。
(んなむちゃくちゃな。怒りそうな気がしたからスルーしたんだっての。……良い人そうだけど、一癖も二癖もある感じだな)
 神白は声には出さず、呆れるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

Halloween Corps! -ハロウィンコープス-

詩月 七夜
キャラ文芸
この世とあの世の狭間にあるという異世界…「幽世(かくりょ)」 そこは、人間を餌とする怪物達が棲む世界 その「幽世」から這い出し「掟」に背き、人に仇成す怪物達を人知れず退治する集団があった その名を『Halloween Corps(ハロウィンコープス)』! 人狼、フランケンシュタインの怪物、吸血鬼、魔女…個性的かつ実力派の怪物娘が多数登場! 闇を討つのは闇 魔を狩るのは魔 さりとて、人の世を守る義理はなし ただ「掟」を守るが使命 今宵も“夜の住人(ナイトストーカー)”達の爪牙が、深い闇夜を切り裂く…! ■表紙イラスト作成:魔人様(SKIMAにて依頼:https://skima.jp/profile?id=10298)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...