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第三章 運命の決闘《デート》@練習試合
24話
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24
女子Aはまたショート・コーナーを使い、ボールが未奈ちゃんに渡った。俺は、ターンした未奈ちゃんと向き合った。
今の未奈ちゃんは、神々しいまでに艶やかだ。こんなに近くで見られる俺は、本当に幸せ者である。
左アウトでちょんとボールを出し、間髪を入れずにインで切り返す。重心が一瞬右に乗った俺は動けない。
右足裏から回した左足でクロスが上がる。11番がヘディングで合わせるが五十嵐さんがミラクル・キャッチ。なんとか難を凌いだ。
エラシコからのラボーナ・キックかよ。魅せてくれるじゃんかよ。こりゃあ俺も、お返ししないと、だね。
やられたにも拘わらず気分爽快な俺は、仲間とともに上がり始めた。すると、沖原が小走りで近づいてくる。
「わかった、星芝。水池は、お前に任す。悔しいけど俺じゃどうにもならないし、お前なら何かやってくれそうだからな」
真剣そのものな沖原は、声がとても重かった。
沖原の信頼を感じた俺は、取り戻したいつもの調子を崩さない。
「おう、任された。ついでにサクッと未奈ちゃんを止めてやっから、乞うご期待」
沖原の目を強く見つめてぐっと親指を立てた。
「ああ、わかってるよ。お前はずーっとそういう奴だよな。それじゃ、よろしく頼むぜ」
唇を歪めて悟ったような台詞を吐き、沖原は俺から離れていった。
沖原とも、ここまでわかり合えた。入部したては、まーったく仲良くなれる気がしなかったけど。
沖原だけじゃあない。サッカーをする中で、たくさんの人と深く関われた。色々あったけど、竜神サッカー部に入ってほんとに良かった。
俺はね、未奈ちゃんを含めて、莫大な数の人間の期待を背負ってるんだよ。だからさ、こんなところで、終わるわけがねーだろ?
俺たちの攻撃。最前線の釜本さんにボールが収まる。
「沖原、俺、上がるよ。後ろ、お願いしちゃっていいかな?」
ハイ・テンションを抑えもせずに、俺は沖原に尋ねた。
沖原は、俺の高揚が感染したかのような、心底、楽しげな笑顔だった。
「ああ、とっとと行けっての! 遠慮はいらん! お高くとまった女子どもに、目に物見せてやれ!」
沖原の上擦った声を聞いた俺は釜本さんに駆け寄った。「先輩!」と、どでかくボールを要求する。
釜本さんからパスが来た。トラップすると、目の前にすっと未奈ちゃんが出現。ポジションなんかお構いなしだ。
よく来てくれたね、未奈ちゃん。今から見せるプレーが、俺の全部だよ。
ますますハイになる俺は、ボールを高速で大きく跨ぎ、左足で小さくエラシコ。未奈ちゃんを抜くべく、縦に持ち込む。
しかし、未奈ちゃんは素早く反応。左足でボールを引っ掛け、近くにいた7番に繋いだ。
俺は全力で引きながら、未奈ちゃんの後ろ姿をじっと見つめる。
今の未奈ちゃん、マジで神。俗人には到達し得ない遙か天上に在しましている。教えてくれ。俺はどうすりゃ、そこに行ける?
自陣の中ほどで、俺は再びボールを足元に置いた未奈ちゃんと相対する。相変わらずの神聖な佇まい。
未奈ちゃんが動き始めた。俺の思考は止まる。と同時に、周りから音が消える。
身体が右に揺れる。まだフェイク。重心が反対に移っていく。左アウト。ここだ。右足を出す。
未奈ちゃんは左インで出した。俺の踵にボールが掛かる。ボールを奪った! 俺は前を見る。
佐々が手を挙げている。足を振り被り、ミートの瞬間に止める。
美しい弧を描いて飛んだボールは、ゆっくりとキーパーの手前に落ちる。狙い通りのバック・スピン。
あおいちゃんと佐々が並走する。あおいちゃんのスライディングが、ボールを掠めた。
ボールはキーパーに向かって転がる。だが触れられる前に、佐々ループ・シュート。弾んだボールがネットを揺らす。三対三。
ベンチにいる人たちが立ち上がる。柳沼コーチの声にならない叫びが轟く。走る佐々が、またしても全力の跳躍で狂喜を存分に表す。
味方の全員が歓喜に湧く中、俺はまだ不思議な感覚に包まれていた。
女子Aはまたショート・コーナーを使い、ボールが未奈ちゃんに渡った。俺は、ターンした未奈ちゃんと向き合った。
今の未奈ちゃんは、神々しいまでに艶やかだ。こんなに近くで見られる俺は、本当に幸せ者である。
左アウトでちょんとボールを出し、間髪を入れずにインで切り返す。重心が一瞬右に乗った俺は動けない。
右足裏から回した左足でクロスが上がる。11番がヘディングで合わせるが五十嵐さんがミラクル・キャッチ。なんとか難を凌いだ。
エラシコからのラボーナ・キックかよ。魅せてくれるじゃんかよ。こりゃあ俺も、お返ししないと、だね。
やられたにも拘わらず気分爽快な俺は、仲間とともに上がり始めた。すると、沖原が小走りで近づいてくる。
「わかった、星芝。水池は、お前に任す。悔しいけど俺じゃどうにもならないし、お前なら何かやってくれそうだからな」
真剣そのものな沖原は、声がとても重かった。
沖原の信頼を感じた俺は、取り戻したいつもの調子を崩さない。
「おう、任された。ついでにサクッと未奈ちゃんを止めてやっから、乞うご期待」
沖原の目を強く見つめてぐっと親指を立てた。
「ああ、わかってるよ。お前はずーっとそういう奴だよな。それじゃ、よろしく頼むぜ」
唇を歪めて悟ったような台詞を吐き、沖原は俺から離れていった。
沖原とも、ここまでわかり合えた。入部したては、まーったく仲良くなれる気がしなかったけど。
沖原だけじゃあない。サッカーをする中で、たくさんの人と深く関われた。色々あったけど、竜神サッカー部に入ってほんとに良かった。
俺はね、未奈ちゃんを含めて、莫大な数の人間の期待を背負ってるんだよ。だからさ、こんなところで、終わるわけがねーだろ?
俺たちの攻撃。最前線の釜本さんにボールが収まる。
「沖原、俺、上がるよ。後ろ、お願いしちゃっていいかな?」
ハイ・テンションを抑えもせずに、俺は沖原に尋ねた。
沖原は、俺の高揚が感染したかのような、心底、楽しげな笑顔だった。
「ああ、とっとと行けっての! 遠慮はいらん! お高くとまった女子どもに、目に物見せてやれ!」
沖原の上擦った声を聞いた俺は釜本さんに駆け寄った。「先輩!」と、どでかくボールを要求する。
釜本さんからパスが来た。トラップすると、目の前にすっと未奈ちゃんが出現。ポジションなんかお構いなしだ。
よく来てくれたね、未奈ちゃん。今から見せるプレーが、俺の全部だよ。
ますますハイになる俺は、ボールを高速で大きく跨ぎ、左足で小さくエラシコ。未奈ちゃんを抜くべく、縦に持ち込む。
しかし、未奈ちゃんは素早く反応。左足でボールを引っ掛け、近くにいた7番に繋いだ。
俺は全力で引きながら、未奈ちゃんの後ろ姿をじっと見つめる。
今の未奈ちゃん、マジで神。俗人には到達し得ない遙か天上に在しましている。教えてくれ。俺はどうすりゃ、そこに行ける?
自陣の中ほどで、俺は再びボールを足元に置いた未奈ちゃんと相対する。相変わらずの神聖な佇まい。
未奈ちゃんが動き始めた。俺の思考は止まる。と同時に、周りから音が消える。
身体が右に揺れる。まだフェイク。重心が反対に移っていく。左アウト。ここだ。右足を出す。
未奈ちゃんは左インで出した。俺の踵にボールが掛かる。ボールを奪った! 俺は前を見る。
佐々が手を挙げている。足を振り被り、ミートの瞬間に止める。
美しい弧を描いて飛んだボールは、ゆっくりとキーパーの手前に落ちる。狙い通りのバック・スピン。
あおいちゃんと佐々が並走する。あおいちゃんのスライディングが、ボールを掠めた。
ボールはキーパーに向かって転がる。だが触れられる前に、佐々ループ・シュート。弾んだボールがネットを揺らす。三対三。
ベンチにいる人たちが立ち上がる。柳沼コーチの声にならない叫びが轟く。走る佐々が、またしても全力の跳躍で狂喜を存分に表す。
味方の全員が歓喜に湧く中、俺はまだ不思議な感覚に包まれていた。
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