上 下
84 / 90
終章

3話

しおりを挟む
       3
 
 試合前のアップと小一から小四チームの試合が終わり、小五チームの出番になった。
「お願いします!」と元気に叫んで、FCエステラと、対戦相手の光泉SCの小五チームのレギュラーは、初夏の日差しが降り注ぐコートに入っていった。
 小学サッカーは、八人制で行われる。両チームともバック二人、中盤四人、トップ一人の布陣で、左利きの由衣香は中盤の左、右利きの慶太は中盤の右だった。
 蝉が盛んに鳴くコートの外には日除けパラソルがところどころにあり、その下で保護者たちが、熱心な視線を子供たちに向けていた。ここまでならどこにでもある小学サッカーの試合風景だけど、異質なのは十五人はいる報道関係者だった。
 彼らの目当ては、光泉SCの遊馬尊あすまたけるだ。遊馬は強豪、光泉SCのエースにして、バルサ、ユーベ、リヴァプールなど海外の有名クラブからも注目されている、日本サッカー界のホープだった。
 FCエステラも全国的に有名なチームで、衣香と慶太も地元では知らない人のいない期待の選手だ。
 だけど、遊馬は完全に別格だった。今日の報道関係者の関心は、「天才・遊馬が、強いとは言えど絶対的エース不在のFCエステラから何点を取るか」だった。
「初めてだよなぁ、慶太たちがここまでの遥か格上の選手とやるのは。才能の差を見せつけられて、潰れてしまわなけりゃあ良いけど」
 隣に立つ瑛士が、深刻そうな調子で呟いた。
 私は小さく息を吸って、気持ちを整える。
「大丈夫、慶太たちはそんなに柔じゃあない。絶対に、何かやってくれるよ。なんてったって、私と貴方の子だもの」
 確信を込めた私の台詞に、「そこまでストレートだと、どーにも照れちまうな」と、瑛士は恥ずかしそうに頭を掻いた。
 私がくすりと笑った次の瞬間、笛の音が響き渡り、FCエステラのトップがボールを中央から蹴り出した。
しおりを挟む

処理中です...