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第四章 Repatriation

15話

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 ヴィクターは、落ちるボールを足で去なした。3タッチ目で右方の4番へと転がす。
 ヴィクターは前進しながら、あちこちに声を張り上げる。ヴィクターの指揮に従って、ウェブスターのメンバーはシステマティックに動き始めた。
 パスを受けた4番は、すぐさま右斜め前の7番に回した。機敏な方向転換をしたヴィクターが、「来い!」と叫んだ。スピードは桐畑よりわずかに遅いが、動作にはキレがあった。
 ヴィクターにボールが出た。中を向いて止めたヴィクターは、ぐるんと左に視線を遣った。だがフェイント。首の向きは変えないまま、走り込む7番へと右回転のパスを供給する。
 グラウンダーのボールに7番は滑り込み、中へとクロスを上げる。オフサイドがぎりぎりの、絶妙なコンビネーションだった。
 飛び出したキーパーが、両の拳で弾いた。ボールを収めた3番は前へと蹴ろうとするが、敵に阻まれてラインを割った。
(男子ドイツ代表を彷彿とさせる、磨き抜かれた組織力だよね。私たちみたいに、未来からタイム・スリップしてきたのかもって疑っちゃうぐらいだよ。ヴィクターって、味方の能力を深く把握してる。運動能力も低くはないしさ。シャビか、もしくはトニ・クロースを相手にしてる気分だよ。
 ほんと、最後の最後で難敵に当たったもんだよね。でも諦めてなんかいられない。桐畑君のためにも、ホワイトフォードのみんなのためにも)
 決意を再確認した遥香は、パスを受けられる位置に着くべく引き始めた。胸に静かに滾る闘志は、中学時代の全日本ユースにも劣らないものだった。
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