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第四章 Repatriation

10話

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 体操とミーティングが終わった。遥香は着替えをすべく、他の会員と同様に更衣室へと向かっていた。すると、「アルマ」と背後から平静な声がする。
 足を止めた遥香は、振り返った。すると、神妙な顔付きのブラムがじっと見詰めてきていた。
「明日の相手は、フィールド外で敵を壊すような常識外の奴らだ。試合中に何をしてくるかわかったもんじゃない。だから、身体をぶつけたりは絶対になしだ。約束してくれ」
 ブラムの有無を言わせぬ口振りに、遥香は、少し考えて控えめな反論を始める。
「でも、ブラムたちは接触プレーをするんでしょ? 私だって少しくらい」
「アルマは忘れがちだけどな。フットボールは本来、男のためのスポーツなんだよ。止むを得ず女子がする場合は、男が危ない部分を肩代わりする。英国紳士としては、当然の心掛けだ」
 変わらぬ語調で、ブラムは言葉を被せてきた。遥香は「だけど」と、わずかに俯く。
 ふーっと息を吐いたブラムは、遥香への視線をさらに強めた。
「この際だから、打ち明ける。よく聞いてくれ。俺はアルマと仲違いをしてでも、アルマを大切にするよ。アルマが、好きだから」
 ブラムの真っ正直な告白に、遥香は凪いだ精神状態で思考を巡らせる。
(予想はしてたけど、このタイミングで告げてくるなんてね。ほんと、どんどん状況がややこしくなってくよ)
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