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第四章 Repatriation

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 試合後の挨拶が済んだ。両チームの面々が、荷物とともにベンチから引き上げ始める。
 負けたシェフィールドBには、沈んだ面持ちの者が多かった。一方のウェブスターは勝ったにも拘わらず、一様にあっさりとした雰囲気だった。
 ユニフォームと同色のベンチ・コートを身に着けたヴィクターが、確かな足取りでダンに歩み寄ってくる。
「ご観戦、お疲れ様でした。相手は紛れもない強敵でしたが、幸運にも勝ち試合をお見せできて安堵しています」
 ヴィクターはなおも、どこかから借りてきたような振る舞いだった。
 ダンは、微妙によそよそしい口振りで話し始める。
「今日は、どうもありがとう。決勝では、互いにベストを尽くして、英国のフットボール史に残る好ゲームにしよう」
 二人はほぼ同時に手を出し、握手をした。数秒の後に、すっと手が離れる。
「校門前に移動して、ミーティングだ。ここで行うと、両チームの撤収の妨げとなる」
 ぴしりと告げるや否や、ダンは歩き始めた。桐畑たちも、遅れないように後に続く。
 草地に生える木々の間を抜けると、モノクロの石を四角形に舗装した道に出た。右手には、城風の建築物が立ち並んでいる。
 道の左は、背丈ほどの高さの柵に囲まれた芝生のコートだった。中では、ハンドボールの練習が行われている。
 一つのゴールを用いた、攻撃対守備の練習だった。攻撃側はゴールから離れた場所で、ゆったりと左右にボールを回す。守備側のプレッシャーも、まだ緩かった。
 攻撃側の中央の選手に、ボールが渡った。すると一人の選手が、ゴールの近くへと移った。すぐさま、縦へのボールが出される。
 攻撃側の選手は連動して、細かく速く動き始めた。ぱんぱんと小気味よく、短いパスが回る。
(……これだ。あのカンスト超人のギディオンを潰すには、これしかねえよ)
「ケント、どーしたんだ?」エドの、呑気な声が耳に届いて、桐畑は前を向いた。ホワイトフォードの一行の最後尾は、二十mほど前方だった。
「遅れて悪い。すぐ追い付く」
 軽く答えた桐畑は、小走りで走り寄っていく
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