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第三章 Eduardo's Suffering

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 グラウンドに赴いた桐畑たちは、すぐに練習着に着替えた。全会員でのアップの後に、紅白戦を観戦する。
 控えメンバーは全体的に年齢が低く、技術はまだまだ未発達だった。しかし、身体のぶつけ合いのような、荒々しいプレーを避けるような者はいなかった。
 レギュラーに劣らぬサブの気迫に、桐畑は気持ちを引き締め直した。
(うかうかしてらんねーな。レギュラー落ちは、龍神でもう懲り懲りだしよ)
 練習後、グラウンドの端のダンの元に集まった。立位の会員たちは円を成し、その円の一地点にいるダンの話を聞く。
 ダンは紅白戦の総括の後に、控えでも目立てば、すぐさまスターティング・メンバーとして試合に出す旨を、貫録のある様で告げた。以降も、一般的なスポーツの監督が口にしがちな激励が続いた。
 だが、ある時ふっと顔を固くしたダンは、口を閉じた。
「すでに知っていると思うが、私たちの試合と同時刻に、英葡永久同盟に基づく王室特別招待枠の全ポルトガル代表と、ブランデルズ校との準々決勝があった。結果は、二対〇でポルトガル代表の勝利。私たちの準決勝の相手は、ポルトガル代表となった」
 先ほどまでの活力に溢れた話し振りから一転、ダンの口調と面持ちに苦々しさが混じり始めた。
(この時代のポルトガルって、実際どうなんだ? フィーゴ、ルイコスタ、クリロナはパねぇが、生まれてすらねえだろがよ)と、桐畑はひそかに首を捻る。
「君たちの中には、ポルトガルに深い因縁のある者もいる。だが、フットボールはフットボールだ。気負わず弛まずスポーツマンシップを発揮して、後腐れのない勝利を収めよう。以上だ」
 練習を締めたダンにお礼を告げた会員たちは、男女に分かれて、ぞろぞろと更衣室へと向かい始めた。
 わけのわからない桐畑は流れに乗らず、最下級性の三つ編みの女の子と親しげに会話していた遥香に駆け寄る。
「あさな……、じゃなくて、アルマ。一個訊きたいんだけど、今、時間は良いか?」
 桐畑がはっきりと問うと、「ちょっと待っててくれる? ごめん」と、遥香は、三つ編みの女の子に慈しみを籠めた調子で謝った。
「うん」という小声の返答を受けて、遥香は薄く微笑んだ。その後、すぐに桐畑に歩み寄る。
「どうしたの。何か、緊急の用件?」
 桐畑の目をまっすぐに見る遥香は、いつも通りの爽やかな雰囲気だった。
「暗黙の了解みたいになってっけど、校長の台詞にあった、『ポルトガルに因縁のある者』って、誰なんだ?」
 純粋に疑問を解消したいだけの桐畑は、重く聞こえないように問い掛けた。すると、遥香は唸らんばかりの表情になった。
「会話中に割り込んでするほどの質問かな。まあでも、君も知っとくべきだから教えるけど、エドだよ。ただ、どこまで教えて良いかは私の裁量じゃ決められないから、本人に直接尋ねてくれるかな」
「この時代に来たの、俺と三日しか変わんねえんだよな? 朝波はよく知ってるな。ああ、『アンテナを張った生活』の賜物か」
 機嫌を戻した様子の遥香に、桐畑は、感心をそのまま口に出した。
「うん、そうだね。初日に小耳に挟んだから、さり気なくエドに尋ねたら、全部、教えてくれたよ。エドって、本当にアルマを信頼してたんだね。それと本物のアルマも、遠慮して訊いてなかったのか、まだ知らなかったみたい」
 どことなく投げ遣りな口調が引っ掛かったが、桐畑は、「わかった。サンキュな」と軽く告げて、男子更衣室へと方向転換をした。
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