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第二章 Kirihata's Growth

10話

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 コートを退出した桐畑たちは、控え選手とともにベンチに座るダンの元へと集った。
「同点で折り返したが、皆が感じている通り、相手にペースを掴まれている。このままだと、二失点目も時間の問題だ。さあ、どうする? 私にも案はあるが、まずは君たちで考えろ」
 握り拳を膝に置いたダンの声色は、厳格ながらもゆったりしていた。顔付きは柔和で、椅子から離した背はぴしりと伸びている。
「俺がフルバックに回ります。んでもって、2番をマン・マークして潰します」
 意を決した桐畑は、ダンに鋭い視線を送りつつ宣言した。
 すぐさまエドが、ばっと振り返った。見開いた目からは、驚きが伝わってきた。
「マジかよ。ケント、今までずっーと、前のポジションばっかだったじゃん。ディフェンス、ちゃんとやれんのかよ」
 エドの問責するような発言に、「問題ねえよ。やるってったら、俺はやる」と、桐畑は力強く断言した。中学時代の県のトレセンで、ストッパーをした経験があった。
「異論や他の提案がある者はいるか」と、ダンは淡々と尋ねた。しかし、誰も口を開かない。
「わかった。では、ケントを後ろに下げて、フォーメーションを2ー3ー5に変更しよう」
 明るさをかすかに滲ませた口調で告げて、ダンはその後も喋り続けた。ミスの叱責は一度もなく、全てが前向きな指示だった。
「では、私からは、以上だ。健闘を祈る」
 わずかに口角の上がったダンの励ますような台詞に、「ありがとうございました」と、会員たちは声を揃えてから、その場を離れ始めた。
 桐畑が後半のプレーのイメージをしていると、「アルマ」と、沈痛な声が耳に飛び込んできた。
 振り向くとすぐ近くで、遥香とブラムが向かい合っていた。
「最後のエドのセンタリングだけど、何であんな無茶をした?」
 ブラムは、悲しみと批難の入り混じった表情だった。真顔の遥香は、ブラムの目を凝視したまま微動だにしない。
「そりゃあ、キーパーを潰してのヘディング・シュートは、得点源の一つだよ。だけどな。病み上がりの、それも女の選手がするプレーじゃあないだろ?」
 有無を言わせぬ口振りに、顔を歪めた遥香は、「でも」と、小さく声を絞り出した。
 だがブラムは、「競り勝てる可能性はほとんどないから、体力の無駄だしな」と、少し冷静さを取り戻した語調で言葉を被せる。
「とにかく、だ。試合に出るのなら、分相応のプレーを心懸けてくれ。頼むよ。俺はアルマが、大事なんだ」
 遥香の肩を緩く掴んで、ブラムは意識に刷り込むように明言した。やがて軽く視線を落として、思い出したように歩き去る。
 桐畑は、まだ動かない遥香の顔を見詰める。大丈夫かよ、と訊こうか迷うが、難しい面持ちの遥香は泣きそうですらあり、下手に声が掛けられなかった。
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