19 / 90
第二章 Kirihata's Growth
2話
しおりを挟む
2
五時半、フットボール結社の面々は、ダンの元に集合した。場所は、桐畑が初めに倒れていた階段の近く、芝生の上に広葉樹が生えた三十m四方ほどの一帯だった。夜のような静寂が包む古ぼけた校舎には、そこはかとない神秘性が感じられた。
エドによると、フットボール・コートは遠いので、時間の短い早朝練習は校舎の近くでしているという話だった。
集まってすぐに、ダンが口を開いた。アルマはすぐには復帰できないが、練習に参加できるメンバーだけで頑張っていく旨が告げられ、昨日もした練習前のルーティーンに移った。
その後、キャプテンのブラムを先頭とした三列の行列になり、芝生の周りのランニングをした。早朝ゆえ無言だったが、足音はぴたりと揃っていた。
三周してから円形に広がり、体操を行った。内容は、現代日本のものと変わり映えがなかった。中央のブラムが、抑えてはいるが芯のある声で、終始カウントを取っていた。
体操が終わり、会員たちは芝生の領域の端近くに、二列に並んだ。ダンが小さめに吹くホイッスルの音に合わせて、向こうの端まで走っていく。
桐畑の隣は、エドだった。気負いのない顔で、ぴょんぴょんと早いピッチで両足ジャンプをしている。
ホイッスルが鳴る。五十mが六秒七と、足にはそこそこの自信がある桐畑は、エドに勝つ気で遮二無二足を動かす。
すくに、エドが前に出た。動作はゆったりしているがストライドが大きく、どんどん距離は開いていく。
二歩分の差を付けられて、芝生の端に達する。息を整える桐畑は、アフリカ系の選手の恐るべき運動能力に瞠目する思いを抱いていた。
ジョギングでスタート地点に戻りながら、一つの事実に思いが至る。
(身体を動かしてる時の感じが、ケントになる前と変わってねえ。そういや、昨日の紅白戦も違和感がなかった。こりゃあ朝波の、フットボールをするためにこの時代に飛ばされた説も、当たってんのかもな)
以降も桐畑は、エドに勝つべく全力を尽くす。しかし、負けは嵩んでいく。
十五本目、ついに桐畑は、エドに三歩分の差を開けられた。小走りで帰っていると、後ろ走りのエドが、屈託のない笑みを浮かべていた。
「へっへー、まさかまさかの十五連勝。ダメダメじゃん、ケント。どーしたどーした。一回ぐらい、俺に勝ってみろよ」
「んな挑発には乗らんっつの。フットボールは、スピードだけじゃあないんだよ。これから骨の髄まで、ばっちり実感させてやる。あ、いやいや。走りでもこのまま、負けっぱでいる気はないけどな」
桐畑は負けじと即答した。
エドは笑顔を大きくし、しばらく桐畑を見詰めてから、身体の向きを戻した。広くはないがしなやかなエドの背中に目を遣りながら、桐畑は、しみじみと考える。
(退部から大して時間も経ってねえのに、懐かしいな。なんていうかサッカーに、一点集中する感じ? やっぱ俺のいるべき場所は、他のどこでもない「ここ」なんだよな)
五時半、フットボール結社の面々は、ダンの元に集合した。場所は、桐畑が初めに倒れていた階段の近く、芝生の上に広葉樹が生えた三十m四方ほどの一帯だった。夜のような静寂が包む古ぼけた校舎には、そこはかとない神秘性が感じられた。
エドによると、フットボール・コートは遠いので、時間の短い早朝練習は校舎の近くでしているという話だった。
集まってすぐに、ダンが口を開いた。アルマはすぐには復帰できないが、練習に参加できるメンバーだけで頑張っていく旨が告げられ、昨日もした練習前のルーティーンに移った。
その後、キャプテンのブラムを先頭とした三列の行列になり、芝生の周りのランニングをした。早朝ゆえ無言だったが、足音はぴたりと揃っていた。
三周してから円形に広がり、体操を行った。内容は、現代日本のものと変わり映えがなかった。中央のブラムが、抑えてはいるが芯のある声で、終始カウントを取っていた。
体操が終わり、会員たちは芝生の領域の端近くに、二列に並んだ。ダンが小さめに吹くホイッスルの音に合わせて、向こうの端まで走っていく。
桐畑の隣は、エドだった。気負いのない顔で、ぴょんぴょんと早いピッチで両足ジャンプをしている。
ホイッスルが鳴る。五十mが六秒七と、足にはそこそこの自信がある桐畑は、エドに勝つ気で遮二無二足を動かす。
すくに、エドが前に出た。動作はゆったりしているがストライドが大きく、どんどん距離は開いていく。
二歩分の差を付けられて、芝生の端に達する。息を整える桐畑は、アフリカ系の選手の恐るべき運動能力に瞠目する思いを抱いていた。
ジョギングでスタート地点に戻りながら、一つの事実に思いが至る。
(身体を動かしてる時の感じが、ケントになる前と変わってねえ。そういや、昨日の紅白戦も違和感がなかった。こりゃあ朝波の、フットボールをするためにこの時代に飛ばされた説も、当たってんのかもな)
以降も桐畑は、エドに勝つべく全力を尽くす。しかし、負けは嵩んでいく。
十五本目、ついに桐畑は、エドに三歩分の差を開けられた。小走りで帰っていると、後ろ走りのエドが、屈託のない笑みを浮かべていた。
「へっへー、まさかまさかの十五連勝。ダメダメじゃん、ケント。どーしたどーした。一回ぐらい、俺に勝ってみろよ」
「んな挑発には乗らんっつの。フットボールは、スピードだけじゃあないんだよ。これから骨の髄まで、ばっちり実感させてやる。あ、いやいや。走りでもこのまま、負けっぱでいる気はないけどな」
桐畑は負けじと即答した。
エドは笑顔を大きくし、しばらく桐畑を見詰めてから、身体の向きを戻した。広くはないがしなやかなエドの背中に目を遣りながら、桐畑は、しみじみと考える。
(退部から大して時間も経ってねえのに、懐かしいな。なんていうかサッカーに、一点集中する感じ? やっぱ俺のいるべき場所は、他のどこでもない「ここ」なんだよな)
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
真っ白なあのコ
冴月希衣@商業BL販売中
青春
【私だけの、キラキラ輝く純白の蝶々。ずっとずっと、一緒にいましょうね】
一見、儚げな美少女、花村ましろ。
見た目も性格も良いのに、全然彼氏ができない。というより、告白した男子全てに断られ続けて、玉砕の連続記録更新中。
めげずに、今度こそと気合いを入れてバスケ部の人気者に告白する、ましろだけど?
ガールズラブです。苦手な方はUターンお願いします。
☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission.
色呆リベロと毒舌レフティ
雪銀海仁@自作絵&小説商業連載中
青春
《青春ランキング最高順位7位/3969作
同週間最高17位、同月間最高22位
HJ文庫大賞を二回、二次落ち
第12回集英社ライトノベル新人賞一次通過》
(1次落ち率9割)
スポーツ女子を愛して止まないサッカー部の星芝桔平は、中三の時に同学年でU17日本代表の水池未奈を見てフォーリンラブ。
未奈のいる中学の高等部、竜神高校を受験し合格しサッカー部に入部。水池にべたべたと付きまとう。
そして訪れる水池との決戦の日。星芝は水池を振り向かすべく、未奈とひっついていちゃいちゃすべく、全てを捧げて水池率いる女子サッカー部Aチームと戦う!
作者はサッカー経験者、主人公のイメキャラにチュートリアル徳井さんを据えた、色呆け男子高校生の本格サッカーものです。
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール
Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・
黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に
儚くも露と消えていく』
ある朝、
目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。
小学校六年生に戻った俺を取り巻く
懐かしい顔ぶれ。
優しい先生。
いじめっ子のグループ。
クラスで一番美しい少女。
そして。
密かに想い続けていた初恋の少女。
この世界は嘘と欺瞞に満ちている。
愛を語るには幼過ぎる少女達と
愛を語るには汚れ過ぎた大人。
少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、
大人は平然と他人を騙す。
ある時、
俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。
そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。
夕日に少女の涙が落ちる時、
俺は彼女達の笑顔と
失われた真実を
取り戻すことができるのだろうか。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
青天のヘキレキ
ましら佳
青春
⌘ 青天のヘキレキ
高校の保健養護教諭である金沢環《かなざわたまき》。
上司にも同僚にも生徒からも精神的にどつき回される生活。
思わぬ事故に巻き込まれ、修学旅行の引率先の沼に落ちて神将・毘沙門天の手違いで、問題児である生徒と入れ替わってしまう。
可愛い女子とイケメン男子ではなく、オバちゃんと問題児の中身の取り違えで、ギャップの大きい生活に戸惑い、落としどころを探って行く。
お互いの抱えている問題に、否応なく向き合って行くが・・・・。
出会いは化学変化。
いわゆる“入れ替わり”系のお話を一度書いてみたくて考えたものです。
お楽しみいただけますように。
他コンテンツにも掲載中です。
プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜
三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。
父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です
*進行速度遅めですがご了承ください
*この作品はカクヨムでも投稿しております
[完結]飲食店のオーナーはかく戦えり! そして下した決断は?
KASSATSU
現代文学
2020年、世界中を襲った感染症。主人公が営む居酒屋も大打撃を受けた。だが、家族のため、従業員のため仕事を守らなければならない。全力を挙げ経営維持に努める中、主人公が体調を壊す。感染が疑われる症状が出たが、幸いにも陰性だった。その直後、今度は腰を痛める。2度続いて経験した体調不良に健康の大切さを肌で感じた。その経験から主人公は一大決心をする。その内容とは・・・。責任者としての心の苦悩をリアルな時代背景の下、克明に綴っていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる