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第二章 Kirihata's Growth

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 五時半、フットボール結社の面々は、ダンの元に集合した。場所は、桐畑が初めに倒れていた階段の近く、芝生の上に広葉樹が生えた三十m四方ほどの一帯だった。夜のような静寂が包む古ぼけた校舎には、そこはかとない神秘性が感じられた。
 エドによると、フットボール・コートは遠いので、時間の短い早朝練習は校舎の近くでしているという話だった。
 集まってすぐに、ダンが口を開いた。アルマはすぐには復帰できないが、練習に参加できるメンバーだけで頑張っていく旨が告げられ、昨日もした練習前のルーティーンに移った。
 その後、キャプテンのブラムを先頭とした三列の行列になり、芝生の周りのランニングをした。早朝ゆえ無言だったが、足音はぴたりと揃っていた。
 三周してから円形に広がり、体操を行った。内容は、現代日本のものと変わり映えがなかった。中央のブラムが、抑えてはいるが芯のある声で、終始カウントを取っていた。
 体操が終わり、会員たちは芝生の領域の端近くに、二列に並んだ。ダンが小さめに吹くホイッスルの音に合わせて、向こうの端まで走っていく。
 桐畑の隣は、エドだった。気負いのない顔で、ぴょんぴょんと早いピッチで両足ジャンプをしている。
 ホイッスルが鳴る。五十mが六秒七と、足にはそこそこの自信がある桐畑は、エドに勝つ気で遮二無二足を動かす。
 すくに、エドが前に出た。動作はゆったりしているがストライドが大きく、どんどん距離は開いていく。
 二歩分の差を付けられて、芝生の端に達する。息を整える桐畑は、アフリカ系の選手の恐るべき運動能力に瞠目する思いを抱いていた。
 ジョギングでスタート地点に戻りながら、一つの事実に思いが至る。
(身体を動かしてる時の感じが、ケントになる前と変わってねえ。そういや、昨日の紅白戦も違和感がなかった。こりゃあ朝波の、フットボールをするためにこの時代に飛ばされた説も、当たってんのかもな)
 以降も桐畑は、エドに勝つべく全力を尽くす。しかし、負けは嵩んでいく。
 十五本目、ついに桐畑は、エドに三歩分の差を開けられた。小走りで帰っていると、後ろ走りのエドが、屈託のない笑みを浮かべていた。
「へっへー、まさかまさかの十五連勝。ダメダメじゃん、ケント。どーしたどーした。一回ぐらい、俺に勝ってみろよ」
「んな挑発には乗らんっつの。フットボールは、スピードだけじゃあないんだよ。これから骨の髄まで、ばっちり実感させてやる。あ、いやいや。走りでもこのまま、負けっぱでいる気はないけどな」
 桐畑は負けじと即答した。
 エドは笑顔を大きくし、しばらく桐畑を見詰めてから、身体の向きを戻した。広くはないがしなやかなエドの背中に目を遣りながら、桐畑は、しみじみと考える。
(退部から大して時間も経ってねえのに、懐かしいな。なんていうかサッカーに、一点集中する感じ? やっぱ俺のいるべき場所は、他のどこでもない「ここ」なんだよな)
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