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第一章 Travel to Whiteford

14話

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 その後、試合は動かず、一対〇のまま前半が終わった。
 終始遥香は、見るからに必死でプレーしていた。しかし、そう簡単に大活躍はできない。運動能力で劣っていることに加え、いまだ慣れないオフサイドのルールを、敵は上手に使い始めていた。
 休憩を挟んで、後半が始まった。開始後まもなく、敵のセンター・フォワード(中央のフォワード)のブラム・オリアーダの中央突破を許し、一対一の同点となった。
 後半、残り五分。ゴールから二十mほどの場所で、ブラムがボールを持った。寄せてきた5番を一瞬の隙を突いてボールを縦に出し、突破する。
 5番が抜かれて、3番がフォローに来た。すかさずブラムは、3番が付いていた右ウイング(フォワードのうち、最も右の選手)のエドに、平行のパス。だが前へ行こうとしていたエドとは噛み合わず、ボールは外に出た。
 両手を腰より少し下に当てたブラムは、大人びた口振りでエドを諭す。
「エド。試合のたびに言ってるけどな。お前、スピードはあるから、オフサイド癖さえどうにかなればホワイトフォードの切り札になれるよ。しっかり頼むぞ」
「おう、悪い。どーも引っ掛かちまうんだよな。次はなんとかするからさ、どんどんボール、くれたら良いよ」
 悪びれる様子もないエドは、ブラムを見ながらぐっと親指を立てて、軽い声で答えた。
 スローインのボールが、遥香に渡った。すぐさま左ハーフバック(中盤の左)の6番に預けて、前へと上がっていく。
 ペナルティ・アークのあたりに移った遥香は、唐突に数歩、前方にダッシュした。敵の選手が、慌てて引こうとする。
 しかし遥香は、二歩で方向転換。敵を置き去りにしてフリーでパスを受け、前を向いた。
 即座に、平行に位置取る桐畑にボールを出した。トラップした桐畑は、数回前にドリブルし、シュートを放った。
 ゴールの左端に飛んだボールを、キーパーは跳躍して阻止。ボールがゴール・ラインを割る。
(あ、出たから追わなきゃなんねえのか。まあいっか)
 一瞬の思考の後に、桐畑は立ち止まった。しかし間もなく、二人の選手が視界に入ってくる。
 敵の2番と遥香が、全速力でボールに向かっていた。スタート地点が近かったのか、わずかに遥香が先行している。
 が、ぐんぐんと差は縮まっていく。無理もなかった。遥香の運動能力は、女子の中でもトップ・クラスとは言えない。
 とうとう並んだ2番が、がつんと遥香に肩をぶつける。遥香はふわっと宙に浮いてから、左半身を下にして地面に倒れ込んだ。
「朝波!」思わず叫んだ桐畑は、全力で駆け寄った。
 左足を押さえて俯せになった遥香からは返事がなく、はー、はーという痛々しい呼吸音だけが聞こえてきた。
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