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第一章 Travel to Whiteford

12話

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 両チームのメンバーは、各自のポジションに着いた。コート上にはアンパイアとして、試合に出ない会員が二人、ステッキを片手に立っていた。
 コートの外、レフェリー(アンパイアの纏め役)の役割を担うダンが、高らかに笛を鳴らした。
 桐畑が出したボールを、遥香がセンター・ハーフ(中盤の真ん中)の10番に戻す。チームAのボールで、試合開始。
 右のインナー(フォワードの右から二番目)の桐畑は前へと走り始めた。10番に視線を送って、パスを要求する。
 しかし10番は、桐畑が視野に入っていないのかドリブルを開始。すぐさま、敵のフォワードのチェックを受ける。
 10番は身体を揺らして突破を試みるも、敵選手の伸ばした足に阻まれた。零れたボールが、右のフルバック(最後尾の右の選手)、2番に収まる。
 敵が遠いからか、2番は、大きな助走を取った。すぐに走り込み、パワーが全開といった風なキックを行う。
 キック&ラッシュ。ディフェンスの背後へとボールを蹴り込んで、フォワードを雪崩れ込ませる戦術である。敵のディフェンスのゴールへの背走による優位性の確保に、主眼が置かれている。
(さっきの突進ドリブルといい、この闇雲キックといい、この時代の連中はずいぶんゴリ押しが好きだねぇ。どうもスマートじゃねえな。俺としては、もっとクレバーに行きたいもんだが)
 半ば呆れる桐畑は、オフサイドに注意しながらパスを追う。しかしバウンドしたボールは、誰にも触れられずにゴール・ラインを割った。
 ふうっと息を吐いて俯いた桐畑だったが、やがて顔を上げた。すると、予想を超えた事象が視界に入ってきた。
 敵のキーパーを含む両チームの選手、四人が、コート外のボールを全力で追い掛けていた。後ろにいるダンの、大真面目な大声が鼓膜を揺さぶる。
 四人はボールまで数mのところに達した。四人のうち三人が身体をぶつけ、競り合いを始める。
 真ん中に位置する敵のキーパーが、ヘッド・スライディング。両手でボールを掴み、地面に押し付ける。
 キーパーの傍らでは、追走者の一人だったチームAの7番が派手に転び、仰向けに倒れ込んだ。
(いやいや、あんたたち。ボール、外に出たじゃんかよ。いったいどうして、んな必死に追い掛けるわけ?)
 疑問でいっぱいの桐畑の耳に、集中を感じさせる遥香の、玉を転がすような声がし始める。
「ごめん。伝え忘れてたね。ボールがゴール・ラインを割った場合、先に地面に押さえたチームが、試合を再開するの。守備側だったらゴール・キック、攻撃側だったら、押さえた場所からキック・イン。運動量は多いけど良い経験になるし、気合を入れていきましょ」
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