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第3章 新たな勇者編

出会う運命

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「え?」

リールが驚いている。

「どういうこと!?」

カリンが驚いている。

「だから、俺も勇者なんだって!」

俺はもう一度、二人に同じ意味の言葉を投げ掛ける。

「そんなわけないだろ!」

リールが俺に叫ぶ。

あれ?リールってそんなキャラだっけ?新人挨拶の時は何か、こう、おしとやかなキャラじゃなかったか?

「だったら、証拠を見せてやるよ!」

俺は右手に着けた手袋を外す。そして、光を放つ、勇者の証を見せた。これこそが俺が勇者である証拠。

「え!?まさか本当に勇者!?」
「そんなバカな!魔王様は確かに、残り一人だと····」

おいおい····魔王はあとから追加された分を数えていない様だな。いや、そもそも何で魔王が勇者の人数なんて知ってるんだ?

「リール、魔王は何をしようとしているんだ?勇者をすべて滅ぼしたそのあとに何がある?」

俺はリールに問いかける。俺はまだ魔王が何をしようとしているのか分かっていない。

「魔王様は勇者を滅ぼした後に、世界を征服するおつもりなのだろう!そのためにもお前たちには消えてもらう!」

リールが俺たちに向かって、魔法を発動させる。

「『転移テレポート』」

その瞬間、目の前の景色が変わった。

「ここは····草原?」
「どうやら、連合国の外に転移させられてしまったみたいですね」

俺とカリンは草原の上に立ち尽くしていた。目の前には黒い翼の形をしたオーラを背中に携えているリールがいた。

「さぁ!ここなら邪魔は入らない!行くぞ、勇者ども!」

リールはそう言うと、ものすごいスピードで迫ってくる。俺は急いでファーストとセカンドを抜く。カリンも自らの剣を抜く。

「「『加速アクセル』」」

そして、自らのスピードを上げると、リールの姿を完全に捉えることができた。しかし、次の瞬間にはさらにリールは速くなる。それを見た俺たちもまた、

「「『加速アクセル』」」

2回の加速によって、またしても俺たちとリールの速さは同じになる。リールは恐らく、カリンよりも俺を狙ってくるだろう。なぜなら、リールはカリンが加速を使えることを知っている。そしてこの世界のルールでは同じ魔法を別の家の人間のみとされている。なら、俺は加速を使えないと読むだろう。

「はぁぁぁぁ!」

リールは杖を構えて俺たちの方に向かってくる。俺は剣をゆっくり構える。
悟られたら負けだからな。

(リールが到達するまで、あと少し!)

しかし、リールは俺には向かって来なかった。そう、リールはカリンのところまで一直線に向かっていったのだ。
「なぜだ?」と俺は思う。

「風の勇者の末裔!お前を殺してから、そこの勇者も殺してやるよ!」
「そんなことさせない!」

カリンはそう叫ぶと、リールに向かって剣を振る。しかしリールはギリギリで回避した。

「さぁ、さっきの続きをしましょう。風の勇者の末裔!」
「『聖剣解放!』」

カリンは自らの聖剣に魔力を集中させていく。しかし、何かがおかしい。カリンの体がふらつき始めたのだ。

「やはり、加速状態では聖剣解放は使えないか。全く勇者とはこんなにも少ない魔力で戦っているのか!はっはっは!」
「どうして!?」

カリンが聖剣に集めた魔力が霧散していく。するとカリンは魔力が残り少ないのか、その場に倒れてしまった。

「終わりだ!風の勇者の末裔!」
「させるか!」

リールがカリンに杖を突き刺そうとした瞬間、俺は「今だ!」と思いながらファーストをリールに振りかざす。

「何!?」

とても驚いていたリールはやはり俺が加速の魔法を使えることを知らないようだ。そしてリールは回避しようとするが、体にファーストによって付いた傷があった。そしてそのまま空へと飛び立つ。

「油断したわ····まさか、アンタも加速が··はぁ··はぁ····使えるとは!」

魔族であるリールが聖剣に触れれば、リールの体はたちまち傷だらけになる。しかし触れた、かすった程度では死にはしない。なぜなら魔族にも自己修復能力があるからだ。そのためリールの体はたちまち元に戻る。

「今度は油断しないわ!永遠に空から魔法を打ち続けてやるわ!」
「『両翼ウィングス』」

俺はそれっぽい感じの魔法を詠唱する。すると俺の背中に魔力でできた、虹色に光る翼が形成される。そして、

「ふっ!」

俺もリールと同じ高さまで飛ぶ。そしてその場にとどまる。するとまたしても、

「何で····」
「さぁ、これで正々堂々勝負できる」

すると、リールはさらに上昇しようとする。しかし、俺はリールを逃がさない。

「『加速アクセル』」

俺はさっき、騎士団本部で激痛に見舞われた時点でさらに加速を上乗せできる魔力を携えていた。

俺はスローモーションで逃げようとするリールの脚を掴み、地面に投げ飛ばす。そして、地面に墜ちたリールに向かって飛んでいく。このまま無力化できるように致命傷は避けようとするが体が動かせれなくなっていた。そう、まるで誰か別の人間が俺の中にいるような感じだ。

「敵は····殺す!!」

俺ではないもうひとつの人格がそう叫んでいる。そしてそのまま、リールの胸に聖剣を突き刺した····筈だった。そして俺の前には見覚えのあるような男が立っていた。すると俺の体は自由に動くようになっていた。

「貴様か····我の大事な部下に手を出したやつは」
「お前····どこかで····」
「我が名はアストラル····全ての魔族を従えるもの」

全ての魔族を従える。それはつまり、魔族たちの王ということ。だが、この男は魔族ではない、人間だ!他の人間が見れば、即座に魔族と認識されてしまうだろう。だが、魔王の魂をこの身に宿している俺には分かる。この人は····紛れもなく人間だと。

「お前が····魔王!」
「そうだ····ん?貴様のその感じ。まさか····我と····」
「同じ?」
「これもまた····か」

同じ?運命?····そうか、この男が人間で魔王ならば俺もまた人間で魔王の魂を宿している。力の大きさは違えど、この魔王と俺は同じということか。だが、運命とはいったい····

「貴様とは本気でやり合いたい····さらに力を付けろ。そして我の城まで来い!」

加速状態の俺が瞬きをした瞬間、魔王の姿は平原にはなかった。
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