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第四章(最終編)悠久の時を越えて

43 初夜 R18未満?

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 《ロワクレス視点》

 貴族街と市民街の間にあった石壁と古い建物を整理してできた新しいエリアに、私たちの住居がある。同じ作りの二階建て三軒で一つの区画とし、手頃な広さの共有中庭もある。賃貸か建売物件として、業者が地主の委託を受けて管理販売しているものだ。

 ザフォード家から出た私はこの家の一つを即金で購入した。任務のため留守がちだったが、執事のヨハネス、家政婦のアニータ、侍従兼警備兼馬番のウルノスが家を守ってくれていた。

 今日は晴れてシュンを正式な我が妻として、堂々と連れ帰って来た。
 シュンは着替えてからと、盛んに渋っていたが、私にはその時間も待ちきれない思いなのだ。



 白を基調として私の色を入れたシュンのウエディングの服は、彼を一層美しく可愛らしく引き立てている。あまりに素晴らしくて、眩暈を覚えるほどだ。
 そんなシュンを花嫁として皆に披露するのは誇らしい。だが、また同時に隠してしまいたくなった。連中の視線がシュンに注がれるたびに、シュンが減ってしまいそうで、正直嫌だった。

 これほど素晴らしいシュンをお前たちの誰にもやらん。僅かなりとも触らせん。

 披露宴には両親への親孝行として、辛抱して出てやっただけのこと。これで、母も父も満足しただろう。王への義理も果たせた。
 幸い、いろいろ賑やかな披露宴だったので、退屈しないで済んだが。



 玄関の小さいホールには隙の無い執事服に身を包んだヨハネスが待っていた。

「お帰りなさいませ。濡れなくてようございました。いろいろお疲れでしょう。ウルノスが風呂を用意いたしております。アニータが夜食を整える前に、お着換えなさるとおよろしいかと」

「うむ。そうしよう。ありがとう、ヨハネス」

 どうやら王宮での披露宴であった騒ぎを既にヨハネスは知っているようだ。どうやってこれほど迅速に情報を手に入れるのか、そのうち訊いてみたいものだ。


 真っすぐ浴室に行き、堅苦しい式服を脱ぐ。シュンが脱ぐのを手伝ってやろうとしたが、その前にぱっぱと素早く脱いでしまい残念だ。


「ふわー! いいお湯だあ。やっぱりお風呂はいいよなあ」

 お湯にどっぷり浸かって、シュンが顔を綻ばせた。私も向かい合って身体を沈めた。思わずほおっと溜息が零れる。

「今日は頑張ったな、シュン。疲れたろう?」

 労われば、極上の笑みを返してくれた。

「ロワも挨拶でたいへんだったろ? それにしても、テートとローファートときたら」
「あいつららしい。面白かったな」

 顔を見合わせ、吹きだす。一緒に笑い声をあげていると、疲れも何もかも湯に溶けだしていくようだ。

 湯に揺らめくシュンの裸体を見ていると、今日の愛らしいシュンの姿が思い出され、下半身が疼きだす。だが、シュンは風呂場での行為を嫌がるので、抱き締めたいのを我慢した。抱き締めたら、きっと堪えきれなくなってしまう。


 湯から上がれば、脱衣場には新しい室内着が用意されていた。ヨハネスの仕事に抜かりはない。


 リビングに戻り、冷えた果実水を飲んでいるうちに、食卓には今夜の食事が並べ終わる。
 今日は祝いということで、上質のワインと前菜が用意され、メインの肉料理も凝っていてご馳走だった。

「うわー! 美味しそう! すごいなあ」

 シュンが目を輝かせて感嘆の声を上げた。
 そこへ、アニータとウルノス、ヨハネスがずらりと並んだ。

「ロワクレス様、シュン様。本日はご結婚、おめでとうございます。これからも、誠心誠意仕えてまいります。どうぞ、末永く仲睦まじくお過ごしなされますことを、心より願っております」

 ヨハネスが代表して祝いを述べた。

「ありがとう。これからも宜しく頼むぞ」

「坊ちゃま、奥様、お幸せに。私にもそのお手伝いをさせてくださいまし」

 アニータが言えば、ウルノスも、

「ザフォード本宅のほうも、ワッギムがだいぶましになって来ました。私も落ち着いてこちらの仕事に掛かれそうです。シュン様、また、お手合わせもお願いいたしますよ」

 と、シュンにウインクしてきた。私との手合わせはいいのか?

「ウルノスさんはお隣の家の馬の世話も頼まれてるんですよ。お隣は商売で馬車を使いますからね。馬の扱いが上手いとこの辺では評判になってるんですよ」

 アニータが補足した。

「それはすごいな。さすがだ、ウルノス」
「いえ。頼まれたことはやりますが、家の仕事は疎かにしませんから」

「お前の裁量でやっていい。こちらは私たち二人とクロムだけだからな」
「はい」

 私の言葉に、ウルノスは嬉しそうにお辞儀を返した。


 食事が終わると、私たちがゆっくりできるよう、三人はそれぞれ帰って行った。
 これからは、私とシュンの二人だけの時間だ。



 大きな寝台に二人で座る。これまで幾たびも愛を交わしてきた。それなのに、このぎごちなさはなんだろう?

 初めて身体を交わした時よりもなぜかどきどきとする。この家で初めての夜を迎えた時よりもそわそわする。霧の湿原の村で結婚式を挙げた時ともまた違う。役所に結婚申請書を出してきた夜よりも改まった気持ちで。

 今更なのだが、妙に気恥しい。これが初夜というものか?

 シュンも同じ思いなのか、やはり挙動がおかしい。

 本当に今更なのだがな。臍のよこにある小さな黒子も、その他のシュンの何もかも全て知っているというのに。

 人と言うものは常に日々新たなのだろう。だから、想いも常に新たに生まれて、より深く育っていくのかもしれない。

「シュン」
「ロワ」

 期せずして同時に声を掛けた。こんなところまで気が合う。私の唯一無二はなんと愛らしいことか。

「あ……」
「あの……」

 また、重なった。

「俺……」
「私は」

 シュンと見つめあう。暫し、無言で互いに見つめあって、同時にぷっと吹きだした。
 全くなんてざまだ。私たちは幼い子供か。初めての恋に戸惑う思春期か。
 柄にもない緊張感などで硬くなって、何をやっているのだ。


 私はシュンの身体を捕まえると、抱き締めながら寝具の上に押し倒す。言葉など要らない。こうすればいいのだ。

 シュンの唇に口づけると、シュンも口を開いて私を迎え入れてくれた。両手が私の後頭部に回され、もっととせがむ様に抱え込まれる。私も息が絶え絶えになるまで、存分にシュンの口腔を味わった。

 顔を上げて見下ろすと、シュンはとろりと蕩け切って、凄まじい色気を放っている。きっと、私も同じような顔をしているのだろう。

 早く抱いてくれとばかりに、手を伸ばして私の服を脱がし始める。私もシュンの服をはぎ取っっていく。心が逸って、いっそ引き破ってしまいたい。


 香油で丹念に解き、待ちきれないように喘ぐシュンの艶めかしい姿を堪能する。獲物に襲い掛かろうとしている野獣のような私の目をひたと見つめて、怯えもせず甘い色香で、存分に喰えと自らの全てを差し出すシュン。

 熱い肉に押し入れば、甘い吐息を吐き、妖艶な花に変化する。喰われているのは私のほうか。

 尽きぬ快楽に心も体も溺れていく。

「愛している」

 ほかに言葉は要らない。これだけでいい。
 二人の身体が境を無くし、一体となって溶けていく。この狂おしいほどの幸せを享受する。それが全てだ。

 愛している。愛している。

 どれほど愛しても、なお足りない。

 シュンが何か言っている気がするが、よく聞こえない。肩や背を叩かれた。

「もう、限界。俺、もう、だめ。俺、死ぬ」

 何を言う。まだ、始まったばかりだろう。夜はまだまだ長い。私の愛は、これくらいでは語り尽くせない。
 私の愛を受け止めてくれ。私の全てを使って語ってやろう。

「ロワあ! ばかあああ!」

 シュンへの愛の語りは、朝陽が窓から差し込むまで続いた。
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