上 下
197 / 219
第四章(最終編)悠久の時を越えて

22 結界魔術師の応援

しおりを挟む
 《シュン視点》

 テストニアにジャンプした俺は、ローファートに会いに行った。結界を使える魔術師と言って思い浮かべるのが彼しかいなかった。
 ローファートは魔動砲の量産で工作施設に詰めている。魔術師の塔の近くの森を切り開いて大きな工作作業場を建てたのだ。

 入り口の扉を開いて工場に入ると、大勢の人間の熱気にむせ返っており広いはずの中が狭く感じた。
 普段は様々な魔道具を制作したり研究したり、みんなが思い思いに作業場を使っているのだが、今は全員が同じ魔道具を口も利かずに物凄い勢いで作っていた。

 王都の職人も加勢に来ているのか、ざっと百人は下らない人間が作業している。
 そして次々と仕上がって来る魔動砲に三十人ほどの魔術師が最終作業を行っていた。

 盤のようなものを黒い液に浸しては、魔動砲の内部にスタンプしているのだ。ただのスタンプと違うところは、盤を押しあてるとぶわっと魔法陣が空中に浮かび、次いでそれが中に吸収されるように付着することだろうか。

「魔法陣を型取りした版に魔法液を付けて、魔力で固定させているんだよ。すごいよね。これまでのように一つ一つ描いていたら時間がかかって、幾らも作れないからね」

 ローファートが後ろに立って、作業を眺めていた俺に解説してくれた。内心驚いて飛び上がりそうだったのは秘密だ。いつの間に後ろに来ていたんだ? 気づかなかったぞ。ほんと、魔力で生きている連中の気配は掴みにくい、

「これを考案したのは弟子のクシランなんだ。魔動通信機もそう。彼は僕より発明の才能があるんだよ」

 ローファートは嬉しそうに自慢した。

「それで、僕にやってほしいことは?」

 聡いローファートは俺が用事もなくこちらに来ることがないことをわかっている。

「結界を張れる魔術師が必要だ。なるべく強力な結界が張れて、なるべく多くの人員を連れて行きたい」
「それはスターヴァーを?」

 一を聞いて十がわかる。説明の手間がなくていい。ローファートはやっぱりできる男だ。

「ああ。今、マトラスのネルバが一人で結界を張ってスターヴァーを足止めしている。けれど、もう限界だ」
「急ぐね。わかったよ。直ぐに集めるね」

 ポケットから出した紙にさらさらと名前を書き連ね、手近にいた魔術師に渡して「招集して」と告げた。走って行く彼に続いて、彼自身も駆け出して行く。



 魔術師たちは全員総出で魔動石や魔動砲作りをしていたのだろうが、ローファートはたちまちのうちに求める魔術師を二十人集めてきた。そして、自身もその中に加わる。

「え? 魔動砲の方は?」

 俺が驚いて問うと、ローファートは事も無げに言った。

「そっちはクシランに任せておけば大丈夫。あいつは僕より、よほど優秀だからね。それに僕が行かなきゃ始まらないでしょ?」

 気負いでなく、当然の事実として言い放つローファート。テスニア王国一の結界魔術師で、ひょっとしたら世界中でも有数のうちに入る彼が来てくれるのは、俺としても心強い。

「じゃ、行くよ」

 互いに手をつなぎ団子状態になった魔術師とともに、俺はマトラス国にテレポートした。




 瓦礫が散乱し廃墟と化したネルバの奥宮跡に出た。ジャンプに経験のあるローファートは大丈夫だが、ほかの面々は初めてのテレポートによる悟性の調整に暫し行動不可となる。

「うわっ。ひどい有様だな。スターヴァーがやったんだね」

 ローファートが惨状を見て至極当然の声を上げた。調整を終えた魔術師たちからも同様の声や怒りの感想が続く。俺は彼らの誤解を解かずに黙っていることにした。

 ロワクレスって、セネルスでも城の一部をぶっ壊してたし、砂漠では巨大クレーター作ったし、北の隠れ里では火山を噴火させたし……。うん。歩く災害、トラブルメーカーだな。それが外交も任されてるなんて……いいのかな?



 落ち着いた頃合いに、スターヴァーのところに今一度ジャンプする。二度目以降は悟性の混乱は生じない。人体が記憶して馴染むのだ。

 あれから一時間ほどか。明るい朝の日差しの中で、二百人ほどの騎士がスターヴァーを相手に戦っている様子が見える。転移魔法陣が固定され、テスニアから続々と騎士が送り込まれているようだ。
 その中にロワクレスの金色の髪がひときわ輝いて映る。もう戦闘に復帰したのか。でも、元気そうで安心した。

 ローファートたちに結界の魔法陣を展開して、スターヴァーの足止めを頼んだ。
 空を覆うような巨大な不定形の塊が自在に伸びたり膨らんだりする異様な敵に、魔術師たちは腰が引けたように怯んだが、ローファートが果敢に結界を展開していくのを見て、彼らも続いた。

 陰の魔力の塊のようなスターヴァーは結界に移動を阻まれても、鋭い触手で結界の壁を突き破り、術者や騎士を攻撃してくる。だが、少なくとも手に負えなくなるほどに広く拡散していくのは押し留められる。これが自由に移動を始めたら、もうスターヴァーを倒すことは不可能だろう。


 結界が張られたのを見定めて、俺はネルバの所へと走った。顔色がひどく悪い。ネルバも彼女を支えるクワイもぐったりと座り込んでいるが、それでもなけなしの魔力を振り絞っていた。

「応援の魔術師たちが結界を続けているから、もう術を解いても大丈夫です。お疲れ様でした。休んでください」

 声も出ないようで、こくこくと頷いたネルバはそのままくたりと意識を手放した。

「宮殿の方へ移動します」

 気を失ったネルバを腕に座り込んだまま立てないクワイに告げると、二人一緒に宮殿の執務室へとジャンプする。


 執務室には役人や兵士が残って、王都の人々の避難指示やらなにやら慌ただしく動いていた。
 そこへ、いきなり現れた俺たちに一様に驚いていたが、ネルバに気づいた宰相が声を上げた。

「女王とクワイ様をすぐに客間の寝室にお運びいたせ! 医者を呼べ。他の者は引き続き続けろ!」 

 客間へと移動する宰相たちに、ともに走りながらこれまでの状況を説明する。

「テスニア王国が援軍に。ありがたいことです。我々ではどうすることもできなかった」
「事は全世界存亡の危機ですから。ネルバ女王はよくやってくれました。おかげでまだ、スターヴァーをこの地に留めていられる。あとは俺たちに任せて、避難してください。ここは危険です」
「わかりました。ご武運を祈っております」

 角を曲がって去って行くのを見届けると、俺は再びテストニアへジャンプする。
 結界でスターヴァーの足止めをするのも、結界から出て来る触手を切り落とすのも、ただの時間稼ぎだ。いつまでも続けられるものではない。
 騎士たちや魔術師たちの限界が早いか、迎え撃つ準備が早いか。時間との競争であることは変わりがなかった。

 俺はテレポートを駆使して、魔動石を各地から搔き集める事に専念した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

BLが蔓延る異世界に転生したので大人しく僕もボーイズラブを楽しみます~愛されチートボーイは冒険者に溺愛される~

はるはう
BL
『童貞のまま死ぬかも』 気が付くと異世界へと転生してしまった大学生、奏人(かなと)。 目を開けるとそこは、男だらけのBL世界だった。 巨根の友人から夜這い未遂の年上医師まで、僕は今日もみんなと元気にS〇Xでこの世の窮地を救います! 果たして奏人は、この世界でなりたかったヒーローになれるのか? ※エロありの話には★マークがついています

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林
BL
「やっと見つけたましたよ。私の姫」  暗闇でよく見えない中、ふに、と柔らかい何かが太陽の口を塞いだ。    この至近距離。  え?俺、今こいつにキスされてるの? 「うわぁぁぁ!何すんだ、この野郎!」  太陽(男)はドンと思いきり相手(男)を突き飛ばした。 「うわぁぁぁー!落ちるー!」 「姫!私の手を掴んで!」 「誰が掴むかよ!この変態!」  このままだと死んじゃう!誰か助けて! ***  男とはぐれて辿り着いた場所は瘴気が蔓延し滅びに向かっている異世界だった。しかも女神の怒りを買って女性が激減した世界。  俺、男なのに…。姫なんて…。  人違いが過ぎるよ!  元の世界に帰る為、謎の男を探す太陽。その中で少年は自分の運命に巡り合うー。 《全七章構成》最終話まで執筆済。投稿ペースはまったりです。 ※注意※固定CPですが、それ以外のキャラとの絡みも出て来ます。 ※ムーンライトノベルズ様でも公開中です。第四章からこちらが先行公開になります。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

処理中です...