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第三章 続続編 古代魔法陣の罠

21 魔動石産業革命の胎動

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《ローファート視点》

 王都では魔動石製作の準備も順調に進んでいるよ。結晶体は工場で試作品が既に続々と作られつつあったんだ。その出来具合を調べて、本格的に工場生産を稼動させる運びとなるんだよ。
 試作品には魔術師のほかに、有志の一般市民も参加している。実際に工場で生産を担っていくのは市民たちだからね。

 次の行程である魔力を結晶体に注いで最終的に魔動石として完成させるほうも、結晶体の試作品を使って始められている。これにも応募に応じた一般市民たちが力を貸してくれている。彼らが熟練してきたら、魔動石工場の管理者として働いてもらうことになっている。

 生産が安定してきたら、第二第三の工場を全国規模であちこちに建てて稼動させていく計画がもう出来上がっているという話だった。
 お役所の割りには仕事が早いね。リーベック老師の尽力も大きいんだろうけれど、やっぱり王宮の大臣たちもこの新しい産業に期待を寄せているからだね。


 結晶体の材料はセネルスの山岳鉱山と契約が済んでいる。魔物使いのテートが巨大ミミズの『ミンミンちゃん』部隊と一緒に掘削に入っているはず。テートの穴掘り専門部隊に任せておけば、早く安全に掘削できるから安心だよね。これによって、セネルスの産業も潤って来るね。

 ちなみにセネルスで拘束された政犯のマウリシオは王族を弑した罪で死罪、エンベレとダーギラスも禁断の魔法陣によって千人余りの犠牲を出した罪でやはり死罪、彼らに連なる者たちも悉く罪を問われたということだ。
 セネルスのほうもいろいろ片付いて落ち着いたらしい。良かった良かった。


 さらに魔道具の専門の建物が魔術師の塔の後ろの雑木林を伐採して建てられた。魔動石を使う様々な魔道具を研究、考案、製作する施設だ。

 身近なものなら部屋の照明や湯沸し器、大きなものなら魔動石を動力にする移動手段や上下水道などの大規模インフラ設備まで。それらを扱う道具や機械を製作するんだ。
 そこで働くのは錬金術師や魔法陣魔術師、魔道具専門の技術系魔術師たち。さらに公募して集まった技術者や機械製作に長けた工房製作者、ほかに知識のある者、アイデアに富む者などの多くの一般人も採用された。

 多くのセクションに分かれた巨大な製作施設だが、中は異常な熱気に包まれている。みんな熱病病みみたいに熱くなり、怒号と喧騒と活気で異様な興奮状態だ。

 だって、考えてみてごらんよ。できたらいいな、あったらいいなって夢でしか思い描けなかったあーんなことやこーんなことが実現可能かもしれないんだよ。工夫と創作次第で実現しちゃうんだよ! そういう可能性を魔動石は見せてくれる。
 無我夢中で熱くなっちゃうのも無理もない。


 建設ラッシュに相次いで、職を求めて多くの人々が王都に集まってくるから、街も賑やかで潤っている。そして革命的な産業の新たな発展の期待にみんな浮かれていた。まるで、一年間のお祭りがいっぺんに来たみたいな大騒ぎなんだ。

 そんな様子に陛下は相も変わらず、『良い、良い。活気があってなにより』ってにこにこおっしゃるもんだから、王宮も王都も魔術師協会も、老師も大臣も総司令官も、猫も杓子もみんな走り回っている。
 今が平和で良かったなあと思うよ。こんな状態では、戦争なんかやってられないよ、まったく。



 で、かくいう僕も走り回っている一人なんだ。たぶん、一番忙しく走り回っているかもしれない。
 この産業革命の真っただ中にあって、僕は自分の趣味のほうの事業も佳境にかかっていたからなんだ。

 王都郊外の元貴族邸で行っている断片修復作業なんだけど、ずいぶん仕上がって来ていた。こっちのほうの作業者は、技術者というより工芸家や美術家のような芸術家たちだ。絵画や彫刻などの文化財の修復をする技術をもつ人たちを雇っている。

 実際欠落している部分も多いので、作業は難航したし、たいへんな苦労があったと思う。いまだに埋められない部分もあちこちにある。古代文字や古代文様なので、無理やり繋げてしまうより、そこは空白のままで良しとした。
 
 集めた断片も残り少なくなっている。たぶん、明日、明後日あたりには最後のパーツが入るだろう。いよいよ、古代文様の全景が完成するんだ。わくわくして、今夜は眠れないかもしれないね。



 今日はシュン様と護衛のように側から離れないロワクレス隊長と一緒に、魔動石工場に来ていた。試作品として出来上がった結晶体はいずれも純度が高くて良い出来に仕上がっていたよ。
 
 試作品一号の五十個が今日魔動石として完成したところ。今回は三十人ずつの三時間交代で、七十二時間、延べ七百二十人分の魔力を注いだ。
 赤い炎属性の魔動石が三十個、黄色の風属性が十個、茶色の土属性が十個完成した。なかなかの仕上がりで、一緒に出来具合を見ているリーベック老師もほくほく顔だね。今も第二号の分が充填中だ。

 魔力を注ぐ人の属性に拘わらず、装置の方で属性の誘導ができることが判っている。魔力提供者の魔力のパワーさえ集めればいいので助かるね。
 老師は無属性の純粋な魔力を蓄積できないか検討中だ。属性に左右されないで魔力の力を使えたら、万能な動力源になる。僕も興味があるよ。

 あとは、魔力不足になるまで力を注がないように注意しないとならない。提供者がつい張り切り過ぎて、立てなくなったり倒れたりすることが相次いだんだ。
 みんなから無理のない範囲で少しずつ提供してもらえばいいんだってことを徹底させる必要があるね。設備的に工夫できないか、これは今後の課題だね。


 細かい調整や問題点も出てきてさらに改良する必要もあるにはあるけれど、工場生産としては概ね始動できると判断が出たよ。
 いよいよ、本格的に生産が始まる。同時に、各所でも工場建設が始まるはず。浮き浮きしちゃうよ。

「やったね! ローファートさん!」
「はい! シュン様!」

 シュン様とハイタッチだ。ロワクレス隊長が睨んできたけれど、これは同志仲間の歓びの表現なんだから妬かないでよ。

 今夜はリーベック老師はじめ、これまで頑張ってきた魔術師や協力者の皆さんと一緒に、大成功打ち上げ会が予定されている。シュン様にももちろん参加してもらうよ。ロワクレス隊長もそもそも最初の魔動石作成の功労者なんだからご招待しているんだよ。


 その時、僕の魔道具『文送り』が文書を送って来た。小さな紙には、いよいよあと数個で巨大文様が完成するので、僕を待っているというものだった。

 ――いよいよかあ! 

 僕はシュン様や老師に事情を話して、郊外の元貴族邸に駆け付けることにした。
 最初の魔動石も完成したし、断片修復作業も完成するし。今日は、なんていい日なんだろう!
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