花鬼 散 R18 短編集 最新▶※(7話)『片思いの騎士様が面会謝絶。と言われても心配なので、ちょっと様子を見に行きます。』

花鬼 散

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片思いの騎士様が面会謝絶。と言われても心配なので、ちょっと様子を見に行きます。

すれ違う心

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 ――誰か、助けて欲しい。

 正気に戻ったベルンハルトが最初に目にしたもの。
 それを見てベルンハルトが一番に思ったことだった。

 泣きはらした目で、自分の下で眠るエミリア。

 慌てて跳びのこうとしたら、自分のモノが、なにかに包まれている。

 いやな予感がしつつ、恐る恐る確認したら――


 ……エミリアの中に、入っている。


「うそだろ……」

 しかも、正気に戻る寸前まで、自分は腰を動かし続けていたようだ。
 あふれる液体がまだ生温かく、エミリアの足が、自分の腰のあたりに力なく巻き付いている。

 ベットがびしょびしょで……生々しい話、場所によってはパリパリだ。

「これは……いったい、何回……」


 そして、妙に気分がスッキリしている。
 辛い訓練をやりきった時のような、爽快感。
 顔もつやつやしている気がする。


 ベルンハルトは、恐る恐る自分のモノを、エミリアから引き抜いた。

「ん……っ」

 エミリアが小さく声をあげたが、目は覚まさない。

 良く見れば彼女はカーディガンに袖を通しているが、ボタンはなくなっており、その下の夜着は無惨にもビリビリに引き裂かれている。

 そして彼女の白い肢体には、無数の噛み跡や赤い斑点――また、くっきりと唇のあとがついている箇所もある。


「なんて、むごい……」


 そしてその酷(むご)い事を行ったのは、どう考えても自分である。

 まったく覚えていないわけでも、なかった。

 彼女が涙するのも構わずにしゃぶりつき、どう考えても処女であっただろう彼女の秘部に、勢いまかせに自分のモノを押し入れた事……。


「うわ……」

 ベルンハルトは自分のしたことにショックを受けつつも、眠る彼女に自分のシャツを着せ、さらにバスタオルで包み、仕事で使う寝袋をひいてその上に寝かせた。

 とりあえず、こんな液体まみれのベッドで寝かせてはおけない。
 そして、彼女の身体を拭かないわけにもいかなかった。
 水瓶から水を組み、タオルを濡らしてとりあえず彼女の身体を拭いた。


 ――小さく、か細いからだ。


「そしてとても柔らか……お、オレは何を言っているんだ?! バカヤロウが!」

 ベルンハルトは赤面しながら自分の頬を殴った。
 身体が、はっきりと彼女の感覚を覚えている。

 そして、冷静になるにつれ、自分がやった事をだいたい思い出すことができた。
 できるなら、記憶喪失になりたかった。


 ……エミリア。


 彼にとって彼女は、学生時代から妹のように思う可愛い後輩だった。

 合同授業のときにしか会わないが、思わず面倒をみてやりたいと思ってしまうような、小さくて可愛い子。 

 卒業してからも、まるで故郷の妹に手紙を送るような感覚で彼女に手紙を送っていた。
 血のつながらない、でも妹のような存在。

 その彼女が2年ぶりに、自分の目の前に現れた。

 洗濯場に現れた彼女を見た時、妖精か、華奢な女神が立っているのかと思った。

 とても驚いた。

 ドレスを着せて腕の良い侍女にセットさせれば、きっとそんじょそこらの令嬢なんかよりも、きっとはるかに美しい。

 妹だと思っていたのに――。

「……あ、いかんな、これは……」

 彼女といると楽しいし、しかも目をみはる美しい少女だ。
 再会した日から、ベルンハルトは彼女を妹として見れなくなっていた。

 なによりその可憐な笑顔が眩しかった。

 分隊長のベルンハルトが懇意にしているためか、他の騎士は彼女に近づくことはなかったが、ちょくちょく彼女の可愛らしさが雑談になっているのが聞こえた。

 自分のものでもないのに、誰かに取られるのではないか、という嫉妬や不安が頭の片隅に浮かぶ。

 このキャンプが終わったら、結婚を申し込もう。
 彼女が平民でも構わない。
 オレは身分は高い生まれだが、跡取りではないし、すでに王宮に務める騎士だ。
 彼女とオレの間の問題は気持ちだけだろう。

 そのように考えていたのに、大問題が発生してしまった。

「終わった……なにもかも……終わった」

 オレは彼女に、無理矢理激しい行為を何回も……。

 オレはゲスに成り下がってしまった。

 ……彼女は目覚めたらきっと、悲鳴をあげて泣き叫び、二度とオレの顔を見なくなるだろう……。
 精神も病むかもしれない。
 オレは……大事に思っていた彼女になんて事をしてしまったんだ……。

 オレはオレが許せないが、だが、まずはオレよりも彼女だ。
 オレは彼女にどう償えば……。


「エミリア……」


 眠っているエミリアを抱きしめたかった。
 しかし、自分にはもうその資格がないのが、つらくて胸を締め付ける。

 ベッドのシーツを取り替えて、掃除し、改めて彼女を寝袋から、清潔になったベッドへと移そうとした時。


「……ベルンハルト、さま……?」

「目が覚めたのか、エミリア……」


 ベルンハルトはゆっくりと、エミリアをベットに降ろしたが、彼女は、すぐに身を起こした。


「……ベルンハルト様、正気に戻られたのですね。よかった……」

 エミリアは微笑んで、ベルンハルトを気遣った。
 泣き叫ばれるかと思ったのに、いつもと変わらない笑顔。

「エミリア……。良くはない……オレは、お前を傷つけてしまった」

 ベルンハルトはその優しい微笑みに、安堵を覚えかけたが、自分の気持ちをすぐに戒めた。


「い、いいえ! ベルンハルト様は何も悪くありません! 看護師長にベルンハルト様のテントへ行ってはならないと言われていたのに、来てしまった私が悪いのですっ」

 エミリアは、一生懸命そう訴えてきた。

「あ、あなたも、最初は、私に逃げろとおっしゃってました! その後のことは……だから、私の自業自得なのです……!」

「そういえば、何故、オレのテントへ来たんだ」
「……その、心配でつい……ごめんなさい。でもどうして看護師長が行ってはならないと言ったのか、すぐにわかりました」

「わかっても、手遅れだった、な」
「はい……ごめんなさい、あなたの名誉を汚すことに……」
「オレのことは、いいんだよ。オレの方こそすまない、オレは、お前の純潔を……」

「……私は、大丈夫です。あんなに苦しんでいらっしゃるベルンハルト様を早めに解放して差し上げられたのですから……だからベルンハルト様は、私のことに関しては気になさらないでください」


 ――エミリアは落ち着いている。
 オレのことも逆に気遣ってくれている……。

 なら……。

 ベルンハルトは、もしまだ嫌われていないのであれば、責任を取ろうと、思った。

 正直、自分しか得をしない……汚い男だ、と自分を思いつつ、彼女がもし望むならそうすべきだと思い。

 ベルンハルトは知らない。
 エミリアにとっては、先程の行為は、かけがえのない出来事だったのだと。
 どれだけ乱暴だったとしても、ベルンハルトに愛された事は彼女にとっては一生の思い出になるほどの喜びだった。

 そしてベルンハルトは思っていることを切り出そうと、まずは質問した。

「お前、恋人や許婚は?」
「大丈夫です、いません。許嫁や将来を誓った相手もおりませんから」

 エミリアも、告白されたことがないわけではなかった。
 同じ看護師仲間の男性から、何回か告白されたこともある。
 しかし、ベルンハルトのことばかり考えてしまう彼女は誰の申し出も受けることができなかった。

「そうか、では……エミリア、オレと結婚してくれないか」
「えっ!!」

「オレに責任を取らせてくれ」
「責任……」


 私がベルンハルト様と結婚!? と、エミリアは、一瞬喜んだが、ベルンハルトが『責任』と言ったことで、顔が曇った。

「エミリア? どうした?」

「いえ、責任なら感じる必要はありません。それに、私は平民ですから……」

 ベルンハルト様のような身分ある方に責任を求めるなんて、平民の私がそんな、だいそれた事……。
 それに責任ということは、さっきのことがなければ、私はやはり妹止まり……。
 当たり前だけど……。

 長年の恋が急に終わりを告げたと感じて、エミリアはどこかで1人、泣きたくなった。


「それに、さっきから言ってますが、私が看護師長の指示を破ったことで起こったことです。責任なら私にあります……あの、自分のテントにもどりますね……あっ」

 立ち上がろうとしたが、足腰がガクガクして、ベットから落ちそうになった。
 声は、すでに震えている。

「危ない」

 ベルンハルトが受け止め抱きしめた。

「す、すみませ……」

 エミリアの瞳から涙がこぼれ落ちた。

「エミリア……。すまない。やはり無理していたのだな。それなのにオレは結婚しようなどと……。オレはどうやってお前に償えばいい、できる限りのことをさせて欲しい」

「本当に、償いなど、いりません……あの、すみませんが自分のテントにもどります。服は必ずお返ししますので……っ」

 ベルンハルトから離れて、出口へヨロヨロしながら出ていくエミリア。

「待て、テントまで送る。まだ真夜中だ」

「いえ……すこし1人で夜風にあたりたいので……。それに、こんな真夜中に貴方と二人でいるのを見られたらいけません。特に、あなたの病状を知っていた騎士や看護師長に……大丈夫です。行きも1人で参りましたから……あ」

 エミリアの目から涙がこぼれ落ちた。

「エミリア……」

 ――確かに。

 ベルンハルトは何を思われてもいいが、彼女にそんな醜聞が持ち上がってはならないと思ったのと同時に、……先程は笑顔だったがそれは彼女の思いやりであって、やはり、オレは拒否されているのだな……と、長年の彼女との付き合いの終わりを感じていた。

 同時に、このキャンプで再会する前も、彼女を大事に思っていた自分に気がついた。


 ――失って、気がついた。


「……わかった、その代わり夜の見張り当番の近くを通って帰るんだぞ」

「はい!!」

 涙を浮かべつつも、エミリアは笑顔を浮かべ、出ていった。

 しかし、ベルンハルトは、この時に送っていかなかった事を、さらに後悔することになる。
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