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片思いの騎士様が面会謝絶。と言われても心配なので、ちょっと様子を見に行きます。
片思いの騎士様に会いたいので魔物討伐キャンプに参加します。
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「え、レンゲル分隊長が負傷でテント待機を?」
魔物を掃討するためのキャンプで働く、看護師のエミリアはまさか、と思った。
あの強いレンゲル分隊長……ベルンハルト様がテント待機(面会謝絶)するほどの怪我をするなんて!?
彼女の胸は心配で張り裂けそうになった。
★
――エミリアは密かに、ベルンハルト=レンゲル隊長を想う、少女だった。
エミリアは昨年まで王都の看護師学校に通っていた。
看護師学校の授業では、騎士学校と連携している授業があり、それで顔見知りになった。
騎士学校の生徒たちがダンジョンに向かい、魔物を掃討する授業の終わりに、看護師学校の生徒が手当をするというものだ。
魔法が使えるヒーラーは希少なため、全員を治癒することはできない。
そこで応急手当を看護師達が行うのだ。
エミリアや他の看護師は平民が多く、騎士たちは身分があるため、お互い挨拶以外を交わすことはめったに無かったのだが。
「……君は綺麗に包帯を巻いてくれるな。この列、穴場じゃないか」
看護師の卵たちは椅子に座って患者を待つ。
人気のある看護師の前には列ができる。
エミリアには列ができず、スカスカだった。
そんなエミリアの列にベルンハルトはやってきて、彼女の手腕を褒めてくれたのだ。
エミリアがその言葉に思わずベルンハルトの顔を見ると、落ち着いたグレーの髪をした優しい瞳で微笑んでいた。
エミリアはその彼の優しい声に、ドキリ、とした。
彼の首からさげたドッグタグには、『ベルンハルト=レンゲル』と刻まれていた。
年齡はエミリアより二つ上のようだった。
「ありがとうございます」
エミリアはニッコリ笑って返すと、ベルンハルトは頭をわしわし撫でて、こちらこそ、と言った。
エミリアは小柄で小さい少女だった。
そのために、子供扱いされたのだが、それでもエミリアは嬉しかった。
普段から容姿のせいで、周囲に子供扱いされることが多く、この授業でも、子供っぽいからちゃんと手当できるのか不安に想う騎士が多いらしく、あまりエミリアの列には並んでもらえないのだった。
金髪に緑の瞳に童顔と、容姿は可愛らしかったので、周囲から可愛がられはするのだが……。
しかし、手当となると不人気だったのだ。
ちゃんとできるのに、と、エミリアは不満だった。
看護師学校の授業は、手当した人数も点数に反映される。
しかしベルンハルトはそれ以来、エミリアが手当する列の常連になってくれた。
それからその授業の時は、世間話もするようになり、彼が騎士学校を卒業するまでエミリアはずっと手当をさせてもらっていた。
彼は辺境伯の三男で、将来はどこかの騎士団に就職する予定だと話してくれた。
2つ年上の彼はすぐに卒業してしまい、それっきりなるかと思ったが、なんとたまに近況を知らせる手紙をくれたのだ。
それによると、王宮騎士団に所属したらしく、窮屈だ、という愚痴が多くて、エミリアは大変だな、と苦笑していた。
エミリアはそんな彼に片思いしていたが、身分が違いすぎるために、たまに声をかけてくださる優しい騎士様、という位置づけで、密かな胸の中の宝物にしていた。
叶うはずのない恋心だが、とても大切だった。
エミリアはその後、王都の病院の看護師として就職したが、その年に、王都の近くに大きな魔物巣窟が出現した。
魔物巣窟とは、簡単に言えばダンジョンなのだが、湧いてでる魔物が大量で、掃討し、封印する必要があるのだ。
そうしなければ、王都にまで魔物が押し寄せてくるだろう、恐ろしいダンジョンなのだ。
そのキャンプに参加する看護師募集の張り紙が、病院の廊下に貼ってあり、派遣先は王宮騎士のキャンプ、とあった。
――ひょっとしたら、ベルンハルト様に会えるかも……。
そう思ったエミリアは、危険だとは思ったが応募した。
病院長からも、普通は男性看護師しか参加しない、と止められたが、応募者が少ないのもあってすんなり決まった。
配属されたキャンプで、ベルンハルトがいることはすぐにわかった。
しかし、人が多くて、仕事をしながら彼の姿を探すのはわりと困難で、三日目くらいにその姿を発見した。
見つけたのは川のほとり。洗濯場で自分の衣類を洗濯しているようだった。
エミリアがそっと後ろから近づくと、ベルンハルトがいきなり腰のナイフを手にして振り返った。
「きゃ……っ」
「おあ!? すまない、お嬢さん!」
エミリアは、その場にペタンと尻もちをついてしまった。
見上げたベルンハルトは、タンクトップ姿のせいか、昔よりますます逞しい体つきになったのがわかる。
「あの……後ろからこっそり近づいたみたいになってしまって、申し訳ありません。レンゲル分隊長」
「おう、オレの名前を知ってるのか。こんな綺麗なお嬢さんに知り合いはいなかったはずだが……」
顔を忘れられている。
エミリアは、ちょっとショックだった。
たまに手紙を送ってもらっていたから、エミリアの存在は覚えていてくれてるんだ、と思っていただけに……。
しかし、綺麗だ、とも言ってもらえた。
むかしはおチビちゃん、とか言われて、幼女扱いされていたのに。
私もすこしは大人に見えたんだろう、と前向きに考えた。
「き、綺麗だなんて……というか、お忘れのようなので改めて自己紹介しますね。昔、学校の合同授業でご一緒させていただいたエミリアです」
「……エミリア?」
「はい」
「え、エミリア!? あのチビちゃんか!?」
「あ、はい。相変わらず、チビのままではありますけど、すこしは伸びたんですよ」
フフっと笑った。
「おう……見違えたぞ。大人になったな。というか、こんなキャンプに来たら駄目だろう!?」
「あ……でも、お国の役にたてるなら、と思って……」
ベルンハルトに会いたかっただけなのだが、それは恥ずかしいのと、ベルンハルトに重たいと思われたくなくて、黙っていた。
「ああ、もう。お前みたいなのがこんなとこに来たら、危ないぞ? キャンプにだって魔物がくることだってあるんだ」
こつ、と頭をかるくげんこつされる。
「それは存じ上げませんでした。怖いですね。……でも、配属された以上は頑張ります。またよろしくお願いします!」
「こちらこそ。それにしても本当に――綺麗になった。もうおチビちゃんとは呼べないな」
ベルンハルトが頬を掻きながらそう言った。
ああ、覚えていてくれた。
成長したからわからなかったのね、とエミリアは納得した。
自分ではそんなに変わらないと思ったけど、2年以上会わなかったら縁の薄い相手ならわからないわよね、と。
――会えただけでうれしい。
エミリアは、涙を我慢しながら、洗濯物を手伝うと言って、時間が許すかぎり久しぶりにベルンハルトとおしゃべりした。
それから、ちょくちょくベルンハルトがエミリアを訪ね、雑談しにきてくれるようになった。
エミリアは昔みたいに可愛がってもらえて、とても嬉しかった。
しかし――。
「(このキャンプが終わったら……またお会い出来なくなる。これを最後に彼のことは思い出にしなくちゃ……)」
そう……エミリアにも自分の歩むべき人生がある。
添い遂げられる相手でもないベルンハルトをいつまでも思うわけにはいかないのだ。
そんな切ない思いを抱えつつも、最後の思い出作りだとキャンプで彼と過ごすことを楽しんでいたエミリアだった。
しかし、話は冒頭の、ベルンハルトが怪我をした、という話に戻る。
魔物を掃討するためのキャンプで働く、看護師のエミリアはまさか、と思った。
あの強いレンゲル分隊長……ベルンハルト様がテント待機(面会謝絶)するほどの怪我をするなんて!?
彼女の胸は心配で張り裂けそうになった。
★
――エミリアは密かに、ベルンハルト=レンゲル隊長を想う、少女だった。
エミリアは昨年まで王都の看護師学校に通っていた。
看護師学校の授業では、騎士学校と連携している授業があり、それで顔見知りになった。
騎士学校の生徒たちがダンジョンに向かい、魔物を掃討する授業の終わりに、看護師学校の生徒が手当をするというものだ。
魔法が使えるヒーラーは希少なため、全員を治癒することはできない。
そこで応急手当を看護師達が行うのだ。
エミリアや他の看護師は平民が多く、騎士たちは身分があるため、お互い挨拶以外を交わすことはめったに無かったのだが。
「……君は綺麗に包帯を巻いてくれるな。この列、穴場じゃないか」
看護師の卵たちは椅子に座って患者を待つ。
人気のある看護師の前には列ができる。
エミリアには列ができず、スカスカだった。
そんなエミリアの列にベルンハルトはやってきて、彼女の手腕を褒めてくれたのだ。
エミリアがその言葉に思わずベルンハルトの顔を見ると、落ち着いたグレーの髪をした優しい瞳で微笑んでいた。
エミリアはその彼の優しい声に、ドキリ、とした。
彼の首からさげたドッグタグには、『ベルンハルト=レンゲル』と刻まれていた。
年齡はエミリアより二つ上のようだった。
「ありがとうございます」
エミリアはニッコリ笑って返すと、ベルンハルトは頭をわしわし撫でて、こちらこそ、と言った。
エミリアは小柄で小さい少女だった。
そのために、子供扱いされたのだが、それでもエミリアは嬉しかった。
普段から容姿のせいで、周囲に子供扱いされることが多く、この授業でも、子供っぽいからちゃんと手当できるのか不安に想う騎士が多いらしく、あまりエミリアの列には並んでもらえないのだった。
金髪に緑の瞳に童顔と、容姿は可愛らしかったので、周囲から可愛がられはするのだが……。
しかし、手当となると不人気だったのだ。
ちゃんとできるのに、と、エミリアは不満だった。
看護師学校の授業は、手当した人数も点数に反映される。
しかしベルンハルトはそれ以来、エミリアが手当する列の常連になってくれた。
それからその授業の時は、世間話もするようになり、彼が騎士学校を卒業するまでエミリアはずっと手当をさせてもらっていた。
彼は辺境伯の三男で、将来はどこかの騎士団に就職する予定だと話してくれた。
2つ年上の彼はすぐに卒業してしまい、それっきりなるかと思ったが、なんとたまに近況を知らせる手紙をくれたのだ。
それによると、王宮騎士団に所属したらしく、窮屈だ、という愚痴が多くて、エミリアは大変だな、と苦笑していた。
エミリアはそんな彼に片思いしていたが、身分が違いすぎるために、たまに声をかけてくださる優しい騎士様、という位置づけで、密かな胸の中の宝物にしていた。
叶うはずのない恋心だが、とても大切だった。
エミリアはその後、王都の病院の看護師として就職したが、その年に、王都の近くに大きな魔物巣窟が出現した。
魔物巣窟とは、簡単に言えばダンジョンなのだが、湧いてでる魔物が大量で、掃討し、封印する必要があるのだ。
そうしなければ、王都にまで魔物が押し寄せてくるだろう、恐ろしいダンジョンなのだ。
そのキャンプに参加する看護師募集の張り紙が、病院の廊下に貼ってあり、派遣先は王宮騎士のキャンプ、とあった。
――ひょっとしたら、ベルンハルト様に会えるかも……。
そう思ったエミリアは、危険だとは思ったが応募した。
病院長からも、普通は男性看護師しか参加しない、と止められたが、応募者が少ないのもあってすんなり決まった。
配属されたキャンプで、ベルンハルトがいることはすぐにわかった。
しかし、人が多くて、仕事をしながら彼の姿を探すのはわりと困難で、三日目くらいにその姿を発見した。
見つけたのは川のほとり。洗濯場で自分の衣類を洗濯しているようだった。
エミリアがそっと後ろから近づくと、ベルンハルトがいきなり腰のナイフを手にして振り返った。
「きゃ……っ」
「おあ!? すまない、お嬢さん!」
エミリアは、その場にペタンと尻もちをついてしまった。
見上げたベルンハルトは、タンクトップ姿のせいか、昔よりますます逞しい体つきになったのがわかる。
「あの……後ろからこっそり近づいたみたいになってしまって、申し訳ありません。レンゲル分隊長」
「おう、オレの名前を知ってるのか。こんな綺麗なお嬢さんに知り合いはいなかったはずだが……」
顔を忘れられている。
エミリアは、ちょっとショックだった。
たまに手紙を送ってもらっていたから、エミリアの存在は覚えていてくれてるんだ、と思っていただけに……。
しかし、綺麗だ、とも言ってもらえた。
むかしはおチビちゃん、とか言われて、幼女扱いされていたのに。
私もすこしは大人に見えたんだろう、と前向きに考えた。
「き、綺麗だなんて……というか、お忘れのようなので改めて自己紹介しますね。昔、学校の合同授業でご一緒させていただいたエミリアです」
「……エミリア?」
「はい」
「え、エミリア!? あのチビちゃんか!?」
「あ、はい。相変わらず、チビのままではありますけど、すこしは伸びたんですよ」
フフっと笑った。
「おう……見違えたぞ。大人になったな。というか、こんなキャンプに来たら駄目だろう!?」
「あ……でも、お国の役にたてるなら、と思って……」
ベルンハルトに会いたかっただけなのだが、それは恥ずかしいのと、ベルンハルトに重たいと思われたくなくて、黙っていた。
「ああ、もう。お前みたいなのがこんなとこに来たら、危ないぞ? キャンプにだって魔物がくることだってあるんだ」
こつ、と頭をかるくげんこつされる。
「それは存じ上げませんでした。怖いですね。……でも、配属された以上は頑張ります。またよろしくお願いします!」
「こちらこそ。それにしても本当に――綺麗になった。もうおチビちゃんとは呼べないな」
ベルンハルトが頬を掻きながらそう言った。
ああ、覚えていてくれた。
成長したからわからなかったのね、とエミリアは納得した。
自分ではそんなに変わらないと思ったけど、2年以上会わなかったら縁の薄い相手ならわからないわよね、と。
――会えただけでうれしい。
エミリアは、涙を我慢しながら、洗濯物を手伝うと言って、時間が許すかぎり久しぶりにベルンハルトとおしゃべりした。
それから、ちょくちょくベルンハルトがエミリアを訪ね、雑談しにきてくれるようになった。
エミリアは昔みたいに可愛がってもらえて、とても嬉しかった。
しかし――。
「(このキャンプが終わったら……またお会い出来なくなる。これを最後に彼のことは思い出にしなくちゃ……)」
そう……エミリアにも自分の歩むべき人生がある。
添い遂げられる相手でもないベルンハルトをいつまでも思うわけにはいかないのだ。
そんな切ない思いを抱えつつも、最後の思い出作りだとキャンプで彼と過ごすことを楽しんでいたエミリアだった。
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