魔法犯罪の真実

水山 蓮司

文字の大きさ
上 下
42 / 56
第2章 血の追求者

2-08:捜査・渋谷エリア

しおりを挟む
「ふうっ、この人通りの多さ相変わらずだね」
「だねぇ、何とかならないかなぁ」
 渋谷エリアを回っている志穂と美穂、恐らく他のメンバーが回っているエリアよりも数多く注意レベルの人が観測されている。
 そのほとんどが自分たちと同じ年か4~5歳上の女性である。
『お疲れのところごめんね2人とも、若干の疲労感があるように見えるけど大丈夫?』
 念話で2人の安否を確認する真奈からだった。
「大丈夫も何もこのエリア搬送される人が多くない?」
「そうだよ。いくら何でもさすがにこの数はないよ!」
 2人して真奈に訴えかけるその姿はまるで好きなゲームを取り上げられた子どものようだった。
 その訴えに優しく宥める。
『都心だけあってさすがにこの数は滅入るけど無理しない程度でいいからね』
「「はーい…」」
 まだ不満があるだろうがこれ以上言っても仕方ないと諦める。
「そういえば他のエリアにいる皆はどうなの?」
「まさか私たちばかりがここまで嘆いているなんてことないよね?」
 ズズッと迫るような問いに真奈もさすがに答えづらかった。
『ええそのまさか、2人のエリアが今のところ圧倒的な搬送率よ。でも狙っているわけじゃないことだけは誤解しないでね』
「「そんなぁー!」」
 そんな盛大な嘆きの後だった。今までなかった奇妙な感覚が背筋をなぞる。
「「っ⁉」」
 2人はピタッと止まり呼吸を整える。
『2人とも何があったの⁉』
 僅かな動作で2人を見抜き事情を聞き出そうとするが数秒沈黙する。
 やがて2人は顔を合わせて頷き念話に切り替える。
『ねえマナちゃん、私たちから見て1~2km弱後ろに誰かいない?』
『まるで今到着して私たちの動きを観察しようと、それもあまり良い意味じゃなくて』
 その言葉に真奈が聞き覚えのある思いをそのまま伝える。
『そういえば時光も似た感じのことを言って修助に索敵を頼んでみたけど危険に至るか今のところハッキリわからなかったそうよ』
『それ絶対危ないよ!』
『間違いなくいたよ!』
 フワッとして確証が持てなかった時光に対して、自信ありありと答えてみせる2人の答えに落差があった。
 これには真奈も判断し難いものだった。
『2人の気持ちは痛いほど伝わるけど、仮にもし言っていることがあっていたとしても人通りの多いこの状況で騒動を起こしたら間違いなく被害が壮大なことになるかもしれないけど、それでもいいの?』
 半分脅しをかけたような言い方をするが事実、騒ぎを起こしたところで余計に解決から遠ざかることには間違いない。
 2人ともそれはわかっている。
 しかしわかっていて指をくわえて事態が起こるのを待ってから動いているようでは時として取り返しのつかないことも生じる事例を多く見てきているため、匙加減が難しいところである。
『わかったよ。でもいつまでも泳がせるわけにもいかない状況であることは忘れないでね』
『自分が思う以上に現状がひっくり返って、出来たことが出来なくなる怖さ、オペレート室で観測しているよりも惨い現実を見させられることもそうだからね』
 2人してこれまでにはない本気の切れのある言葉で真奈を問い詰める。
 さすがにこの言葉を受けて何も言えなくなったのか、真奈の代わりに修助が切り出す。
『2人の気持ちは最も。未然に防げるようであればそうするのが最善だと俺も考えている。しかしそれを全部こなすのは無理があり過ぎる。如何に魔力が高くても技術が優れていても俺たちは人間だ。命を落としてしまい何も出来なくなってしまってはそれこそ悲しみしか生まれてこない。そうならないためにも互いの考えを喧嘩させないように練り上げていくことが最大限の力だと思っているよ』
 少し長く語られた修助の言葉に自分たちの言動に気付かされる。
『ごめん少し言い過ぎた。自分勝手だったね』
『私も、何も悲しいのは自分たちだけじゃないよね』
 2人はうつむきながら言うと、
『志穂ちゃん、美穂ちゃん下を向くには早すぎるよ。まだ捜査が始まったばかりで情報が少ない中で動いているから気に病むことなんてないよ。今後について皆と話して固めていけば落ち着いていけるから。ね?』
 綾菜が優しく諭すようにすると、2人は顔を少しずつ上げて調子を取り戻す。
『『ありがとうアヤナちゃん』』
 気持ちが穏やかになったところに後ろから肩をポンッと触れられる。
「もしお嬢さんたち、何か困りごとでもありますか?」
 外見は舞香よりも背丈が少し高く肩よりも長めのつややかな黒髪で少し垂れ目ではあるがパッチリと目をした女性が2人の前に立っている。
 何処か行事に出向いていたのか、クリーム色の着物姿は性別問わず注目を集めていた。
「い、いえその少し喧嘩みたいなことをしてしまって…」
「はい、そのことで落ち込んでいた感じで…」
 あまりの姿に無意識に力が入ってしまう志穂と美穂に着物の女性は口元に手をあて上品に笑う。
「フフッ。そんなに畏まらなくて大丈夫ですよ。答えづらいことでしたら無理に言わなくていいですよ」
 何度見ても気品溢れる挙動に2人は言葉を失い見惚れてしまう。
「あの、私の顔に何か?」
「「す、すいません。失礼しました!」」
 口を揃えて慌てて謝る2人である。
 そんな2人を見て着物の女性が尋ねる。
「仲がよろしいのですね。いつもお二人で一緒にいるのですか?」
 その質問に照れながら答える。
「そうですね。何かと楽しいことをする時は美穂と一緒にいることが多いです」
「私も志穂と一緒になってやる時間が長いです」
「そうでしたの」
 羨ましむ眼差しで2人を見る姿も絵になっている。
「あの、お姉さんは何方かお出かけにでも行っていたのですか?」
 志穂が尋ねると、
「ええ、友人の祝宴会に出席していたもので慣れない着物でしたが良かったですよ」
 ニコッとやんわりと答える。
 ここで時間になってしまい2人に別れを告げる。
「そろそろいいお時間で盛り上がっているところ申し訳ありませんが私はここで。お話ありがとうございました」
「「いえ、こちらこそ」」
 着物の女性は丁寧にお辞儀してその場を後にする。
 2人はその後ろ姿を見送った後で互いに思ったことを言う。
「綺麗だったね」
「うん。親戚にいたら自慢出来るね」
「それ思った」
 2人はドップリ夢心地の気分になった。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

どうぶつたちのキャンプ

葵むらさき
SF
何らかの理由により宇宙各地に散らばってしまった動物たちを捜索するのがレイヴン=ガスファルトの仕事である。 今回彼はその任務を負い、不承々々ながらも地球へと旅立った。 捜索対象は三頭の予定で、レイヴンは手早く手際よく探し出していく。 だが彼はこの地球で、あまり遭遇したくない組織の所属員に出遭ってしまう。 さっさと帰ろう──そうして地球から脱出する寸前、不可解で不気味で嬉しくもなければ面白くもない、にも関わらず無視のできないメッセージが届いた。 なんとここにはもう一頭、予定外の『捜索対象動物』が存在しているというのだ。 レイヴンは困惑の極みに立たされた──

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

シーフードミックス

黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。 以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。 ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。 内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

kabuto

SF
モノづくりが得意な日本の独特な技術で世界の軍事常識を覆し、戦争のない世界を目指す。

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

サドガシマ作戦、2025年初冬、ロシア共和国は突如として佐渡ヶ島に侵攻した。

セキトネリ
ライト文芸
2025年初冬、ウクライナ戦役が膠着状態の中、ロシア連邦東部軍管区(旧極東軍管区)は突如北海道北部と佐渡ヶ島に侵攻。総責任者は東部軍管区ジトコ大将だった。北海道はダミーで狙いは佐渡ヶ島のガメラレーダーであった。これは中国の南西諸島侵攻と台湾侵攻を援助するための密約のためだった。同時に北朝鮮は38度線を越え、ソウルを占拠した。在韓米軍に対しては戦術核の電磁パルス攻撃で米軍を朝鮮半島から駆逐、日本に退避させた。 その中、欧州ロシアに対して、東部軍管区ジトコ大将はロシア連邦からの離脱を決断、中央軍管区と図ってオビ川以東の領土を東ロシア共和国として独立を宣言、日本との相互安保条約を結んだ。 佐渡ヶ島侵攻(通称サドガシマ作戦、Operation Sadogashima)の副指揮官はジトコ大将の娘エレーナ少佐だ。エレーナ少佐率いる東ロシア共和国軍女性部隊二千人は、北朝鮮のホバークラフトによる上陸作戦を陸自水陸機動団と阻止する。 ※このシリーズはカクヨム版「サドガシマ作戦(https://kakuyomu.jp/works/16818093092605918428)」と重複しています。ただし、カクヨムではできない説明用の軍事地図、武器詳細はこちらで掲載しております。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。

戦国記 因幡に転移した男

山根丸
SF
今作は、歴史上の人物が登場したりしなかったり、あるいは登場年数がはやかったりおそかったり、食文化が違ったり、言語が違ったりします。つまりは全然史実にのっとっていません。歴史に詳しい方は歯がゆく思われることも多いかと存じます。そんなときは「異世界の話だからしょうがないな。」と受け止めていただけると幸いです。 カクヨムにも載せていますが、内容は同じものになります。

処理中です...