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第1章 始まりの壁
1-28:時光VS達人!激闘の果て
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「皆大丈夫かしら」
「今はとにかく信じるしかないね」
「戦略を立てると言っておきながら結果がこの有り様だから何の力にもなれなかったわよ」
「それは俺にも言えたことだから気に病むことはないよ」
オペレート室で真奈と修助が気の抜けた会話をする。
通信と索敵が干渉出来ない今、2人のやれることはコレといってないため何をしようか考えていると、そこに綾菜がやって来た。
「2人とも何しょんぼりした顔しているの?」
「ごめんなさい。らしくなかったわね」
「こればかりは何とも。相手が相手だからそうなるよ」
短く口々にすると綾菜が2人を抱き寄せて言う。
「不安になるのもわかるけど時光ちゃんたちが帰ってきたその時はもう少し明るい顔でいないとね。そうでないと逆に心配されちゃうよ」
「そうね」
「うん」
2人がそう頷くと綾菜は話を続ける。
「話が変わるけど時光ちゃんたちのいるビル周辺からの被害情報は今のところないから、真奈ちゃんと修助ちゃんの方はどうなっているのかな?」
真奈は画面に展開しているビル周辺を拡大して綾菜に見せる。
「こちらも今のところ目立った騒ぎは起きていないわね。時光たちの状況が見られないから次の手が打てないわ」
「時光くんたちからしてみれば外の様子が見られるだろうけど、こちらからしてみれば権藤さんの魔法によって干渉出来ないから、そこに無理に手を打てば惨事になりかねないから」
2人がそれぞれ思ったことを口にすると綾菜が微笑み宥める。
「それでも時光ちゃんたちを信じて待つことも私たちの務めだよ」
「ごめんなさい。また弱気になっていたわね」
「この悪い癖を直さないとね」
クスッと笑い場の空気が穏やかになった。
♦
「なかなかやりますね。しかしそれでは私を倒すことは出来ませんよ」
(隙が全くないな…。さてどうするか)
戦闘が始まって互いのペースに差が少しずつ出てきた。
攻撃を受け流し、隙あらば容赦なく攻めてくるのはもちろん、次の攻撃に備えて組み立てる余裕すらある達人に対して、果敢に攻めて行かなければあっという間にやられるだけではなく、目的である達人の捕獲が出来なくなってしまう圧力が時光にかけられている状況である。
その戦況を屋上の隅で見ていた4人が心配そうな様子である。
「トキちゃん焦っているね」
「無理もないよ。今まで相手にしてきた人たちより桁違いに強いから」
「時光クン頼む…」
「先輩…」
屋上の隅に見えない壁で閉じ込められている4人の様子が少しずつ弱まっていることに時光はペースを上げて攻撃を仕掛けているが思い通りに当たらない。
可能な限り早く解放させなければ4人の魔力がなくなり、いざという時になす術なくやられてしまうことが目に見えていたから。
閉じ込められた4人もただの壁ではないことがわかっていた。
「今一度改めて、かつて捜査官だった貴方がこのような事件を起こすとは驚きもそうですが、落ちるところまで落ちましたね」
時光は皮肉混じりに嫌なことを一つ達人にぶつける。
「言いたいことはそれだけですか?」
「本当であれば聞きたいことが山のようにあるんですがね」
「それは私を倒してから言っていただきましょう」
互いに言葉で牽制して再び時光から動き出し、繰り出す攻撃パターンを変えながら達人に攻め入る隙を与えず仕掛けに入る。
僅かながら達人の動きに緩さが見えた時、
「蛇炎!」
テニスのフォアハンドのフォームから放たれる鋭い軌道の炎を飛ばし達人にくらわそうとするが、
「剛岩壁!」
一瞬にして断崖絶壁の岩の如く固い壁が達人の目の前に展開され時光の攻撃が防がれる。
しかし時光はすかさず、
「炎斬波!」
刀を斜めに振り十字の軌道で先ほど仕掛けた攻撃より力を加え壁を粉砕して次の攻撃を仕掛けようとする時、
「怒流岩!」
達人は手を合わせ砕かれた多くの岩を利用し時光に仕掛ける。
時光は怯むことなく避けたり切り落としたりするが、
「ぐううううっ!」
あまりの数の多さに裁き切れず攻撃を受けてしまい後方に飛ばされる。
それでも上手く受け身を取り素早く態勢を整え、
「炎漸裁真・刻!」
両腕で横に薙ぎ払うように全部の力を使い切る怒涛の勢いで達人に攻めかかる。
「鬼殿岩!」
襲い掛かって来る攻撃を通してはマズイと達人も負けじと最大級の壁を展開して辛うじて防ぎ切るが大きな穴が空き崩れ落ちる。
「まさかこれほどとは…」
(このまま長引けばマズイな…)
繰り出す攻撃をほぼ全て防がれて時光は内心そう呟く。
「森園君、貴方は一体何のために戦っているのですか?」
「いきなり何を…」
達人からの質問に戸惑う時光だが達人は構わず話を続ける。
「私もかつて、今の貴方くらいの頃に似た意思を持っていました。しかし結果として壮大な事件の数々を前にしたら救えない命や解決出来ない事件が多かった。現在でも溢れている事件と向かい合う覚悟はありますか?」
今までよりも圧力のある言葉に時光は一考して答える。
「権藤さん、貴方の過去に何があったか存じませんが俺はこの組織に入った時から、いいや組織のことを抜きにしても降りかかる事件と向かい合う覚悟は出来ていますよ。たとえ過去に事件を解決に導いた人が相手だとしても!」
「戯言は私に勝ってからにしましょうか!――轟旋禅岩!」
「しまっ――」
一瞬の隙を達人は見逃さず、足元から多くの岩の弾丸が時光に襲い掛かる。
回避することが出来ず刀を構え、咄嗟に横に飛び逃れる。
急所は辛うじて免れたもののダメージとしては相当なものである。
立ち上がろうと息を切らしながら構える時光を見てメンバーは、
「「トキちゃん・トキ君」」
「時光クン!」
「先輩!」
声を盛大にして時光の勝利を願うしかなかった。
「さあ威勢よく私に挑んでこの程度ですか?」
冷ややかに見捨てるように言う達人に時光はただ睨みを利かせることで精一杯である。
攻撃に対処し切れず気持ちが折れかける時だった、
「先輩諦めないでください!今その人を捕獲出来るのは先輩しかいません!」
恵が大声で時光に呼びかけ立ち上がってもらうように必死になる。
「恵さん…」
ポツリとそう呟くと、
「やれやれ、耳障りなので黙っていただきますよ」
達人は視線を恵の方に向けて散乱している岩を恵の足元に乱れ打ちした。
「きゃっ!」
「「メグミちゃん!」」
「大丈夫かい!」
口を揃えて志穂と美穂が恵の身体を支え、舞香が庇うように恵の前に立つと続けて舞香が達人に強く訴える。
「無抵抗の人に対して貴方は平気で酷いことをするのですね!」
「人が真剣に対峙している中、口出しされては迷惑なのですよ」
口調こそ静かだが怒気が込められて蹴落とされそうな雰囲気を醸し出している。
それを見た時光がピクッと反応して達人を更に強く睨みつける。
「歴代の捜査官は短気で気に入らないことがあるとすぐに人を痛めつける趣味を持っている人たちばかりですか?」
時光の非難の言葉に達人は反論する。
「周囲から浴びせられる否定的な言葉や、まるで人を潰しにかかるような言葉は誰だって嫌なものです。貴方もそうではなくて?」
「否定はしません。しかし人の前でやるようなことではない!」
満身創痍になりながらも時光は今まで以上の力で攻撃を仕掛ける。
「蛇炎!」
「懲りずに…。剛岩壁!」
やや呆れながらも岩の壁を展開して防ごうとするが、
「なっ⁉」
壁が粉砕されても攻撃の勢いが止まらず達人に向かって飛ぶ。
「はあああっ!」
「くっ!」
時光が勢いをつけるとその迫力に押されて達人は躱そうと身体を捻る。
攻撃はあと少しのところで当たらず掠る程度となる。
「あともう少し…」
「危ないところでした。まさかここまでとは」
気を緩めることなく次の攻撃に備えて呼吸を整える時光に、肝を冷やして構え直す達人の様子が見られる。
「炎斬波!」
「ならば、鬼殿岩!」
十字の軌道で勢いよく飛ぶ斬撃に最大級の壁が立ち塞がるが、
「くっ!これもまた…」
達人の顔が苦悶となりつつある。
分厚く頑丈な壁にも関わらず勢いが持続して貫通しそうな威力だからである。
その勢いを必死に殺そうとするが、なかなか抑えることが出来ず壁がゴリゴリと徐々に大きく音を鳴らせてやがて、
「ぐううううっ!」
壁が崩壊し、その勢いのまま斬撃が達人に直撃する。
ここで倒れるわけにはいかないと後方に飛ばされるも、力を入れて堪える。
「ふう、ここまで追い込まれるとは少々侮っていました」
「油断するとこうなることくらいわかっていたのでは?」
ここまできて体力とダメージに変動が起きてもなお、時光の不利は否めなかった。
それどころか、このまま本当に戦闘が長引けば達人を捕獲することが出来ずメンバー全員がやられてしまう可能性が高かった。
それでも時光は達人に向かって行く姿勢を崩そうとしなかった。
「いずれにしてもよく私の相手をしていただけましたが、その残り少ない体力と魔力で勝とうと考えていたら私もなめられたものですね」
「長引くのが嫌であればお望み通り早々に終わらせましょうか?」
「出来るものなら」
お互い今まで以上に集中を高め構え直すと少し沈黙が生じる。
そして先に動き出したのは時光の方からである。
「はあっ!」
刀を地に刺すと同時に姿を消した。
「っ!」
達人は目を見開き驚くが焦らず、その場で冷静を保ち迎撃態勢を整えていると、
「炎舞双拳!」
いつの間にか背後をとられて両腕に炎を纏った時光が殴りに掛かって来る。
「ぐうっ!」
咄嗟に反応して腕を交差する形で防ぐが浅く後方に飛ばされ、返り討ちにしようとするが、
「虎炎双牙!」
またしても達人の背後をとり、鉤爪状の攻撃を炸裂させる。
「ぐああっ!」
先ほどの攻撃よりも手応えがあり、達人は対応することが出来なかった。
「そんな…。何処にそんな力が備わっているのか…」
表情にも焦りが滲み出てきて理解が追いついていない様子である。
「先輩…」
「「凄い…」」
今までとは比べものにならない素早い攻撃を見た恵、志穂、美穂が呆気にとられる。
「始まったようだね」
「舞香さんどういうことですか?」
「見ていればわかるよ」
恵の問いに舞香は多くは語らず目の前で起きている出来事に集中するように促す。
気がつけば少しずつ時光が達人を追い込んでいる姿が見られる。
「さて権藤さん、まだ続けますか?」
「減らず口を…。怒流岩!」
手を合わせて砕かれた岩を時光に向かって飛ばすが、
「鳳炎ノ翼!」
両腕に纏った炎が不死鳥の翼へと変化させ降りかかる岩を一掃させた。
「そんなことが…」
「権藤さん、今回の事件で貴方は人を傷つけ過ぎた。俺はそれを許すわけにはいかない」
「勝ち誇るにしては早すぎです。――轟旋禅岩!」
もう一度流れを取り戻そうと岩の弾丸を時光に飛ばす。
「炎帝断罪!」
時光は手を合わせて鎧騎士を召還させると、その鎧騎士は手にしている炎を纏った大剣で岩の弾丸を一振りで焼き払う。
「もう貴方では俺には勝てませんよ、権藤さん」
「ここへきて更になめられたものですね。なら――砕破業岩!」
岩の巨兵を召還させ時光を仕留めにかかる。
「その巨兵打ち崩します!」
「簡単には行かせません!」
鎧騎士の大剣の一振りと巨兵による大拳が激突する。
「「きゃああああ!」」
「時光クン!」
「先輩!」
大きな一撃による影響で衝撃波と砂煙が発生して辺り一面が見えなくなる。
条件反射で目を瞑り衝撃波と砂煙から身を守ろうと構えながら、口を揃えて叫ぶ志穂と美穂に、舞香と恵は時光の名前を叫ぶ。
しばらくして落ち着いてきたところで4人は状況を確認すると、時光と達人の両者は立っている状態だった。
ただ2人がそれぞれ召還した鎧騎士と岩の巨兵は消えていなくなっていた。
「しつこいですね。そういう人は嫌われますよ」
「それはこちらの台詞ですよ権藤さん。言ったはずですよ、俺は貴方を許さないと」
お互いに息が上がっているが差は歴然としていた。
まだ余裕を持って攻撃が仕掛けられる達人に対して、あと一発仕掛けられるかギリギリの時光である。
「ここまで痛めつける趣味はなかったのですが、この際何処までも苦しみを味わっていただきます」
「そうですか。出来るといいですね」
時光がそう言うと、ニイッと不敵な笑みを浮かべて達人に揺さぶりを入れる。
達人はそれにつられて攻撃を仕掛けるが、時光は後方宙返りで躱し、刀が刺さっているところで着地してすぐに刀を抜くと宣言する。
「これで終わりです」
「させません!」
そう言われた達人が全力で迎撃しようとする刹那――
「そ、そんな一体…」
気がつけば膝から崩れ落ちて力が入らなくなり倒れる自分の姿を信じられずにいた。
「瞬身輪刀断」
達人が気付く時には既に背後に立ち、刀を収めて静かに口にする。
同時に今まで見えない壁によって閉じ込められていた4人とビル全体に展開していた見えない壁も消えてなくなっていたところを見て達人を封じ込めたことが確認出来た。
「「トキちゃん・トキ君!」」
「時光クン!」
「先輩!」
閉じ込められていた4人が時光の元へ駆けつけて来る。
「皆…。良かった」
ホッとして倒れそうになるが恵が抱き止める。
「先輩、お疲れ様でした」
「「本当にありがとう」」
「時光クン、よくやったね」
少し泣きじゃくりながらも礼を言う志穂と美穂に、恵と舞香は労いの言葉をかける。
落ち着いたところで恵が時光を座らせるように体を支える。
「さて権藤さん、今回の騒動を起こした動機と若弥を痛めつけた理由に関して話をしていただきますよ」
「わかりました。ですが私が話す前からもう薄々ご自身で気づかれているのでは?」
「……」
達人の言葉により自分の中で疑惑と思っていたことが確信へと変わった時だった。
戦闘の意思がなくなりフェンスに括りつけられた若弥を解放するがそれは幻だった。
時光の中で信じたくなかった出来事が最悪の形となってしまった。
「今はとにかく信じるしかないね」
「戦略を立てると言っておきながら結果がこの有り様だから何の力にもなれなかったわよ」
「それは俺にも言えたことだから気に病むことはないよ」
オペレート室で真奈と修助が気の抜けた会話をする。
通信と索敵が干渉出来ない今、2人のやれることはコレといってないため何をしようか考えていると、そこに綾菜がやって来た。
「2人とも何しょんぼりした顔しているの?」
「ごめんなさい。らしくなかったわね」
「こればかりは何とも。相手が相手だからそうなるよ」
短く口々にすると綾菜が2人を抱き寄せて言う。
「不安になるのもわかるけど時光ちゃんたちが帰ってきたその時はもう少し明るい顔でいないとね。そうでないと逆に心配されちゃうよ」
「そうね」
「うん」
2人がそう頷くと綾菜は話を続ける。
「話が変わるけど時光ちゃんたちのいるビル周辺からの被害情報は今のところないから、真奈ちゃんと修助ちゃんの方はどうなっているのかな?」
真奈は画面に展開しているビル周辺を拡大して綾菜に見せる。
「こちらも今のところ目立った騒ぎは起きていないわね。時光たちの状況が見られないから次の手が打てないわ」
「時光くんたちからしてみれば外の様子が見られるだろうけど、こちらからしてみれば権藤さんの魔法によって干渉出来ないから、そこに無理に手を打てば惨事になりかねないから」
2人がそれぞれ思ったことを口にすると綾菜が微笑み宥める。
「それでも時光ちゃんたちを信じて待つことも私たちの務めだよ」
「ごめんなさい。また弱気になっていたわね」
「この悪い癖を直さないとね」
クスッと笑い場の空気が穏やかになった。
♦
「なかなかやりますね。しかしそれでは私を倒すことは出来ませんよ」
(隙が全くないな…。さてどうするか)
戦闘が始まって互いのペースに差が少しずつ出てきた。
攻撃を受け流し、隙あらば容赦なく攻めてくるのはもちろん、次の攻撃に備えて組み立てる余裕すらある達人に対して、果敢に攻めて行かなければあっという間にやられるだけではなく、目的である達人の捕獲が出来なくなってしまう圧力が時光にかけられている状況である。
その戦況を屋上の隅で見ていた4人が心配そうな様子である。
「トキちゃん焦っているね」
「無理もないよ。今まで相手にしてきた人たちより桁違いに強いから」
「時光クン頼む…」
「先輩…」
屋上の隅に見えない壁で閉じ込められている4人の様子が少しずつ弱まっていることに時光はペースを上げて攻撃を仕掛けているが思い通りに当たらない。
可能な限り早く解放させなければ4人の魔力がなくなり、いざという時になす術なくやられてしまうことが目に見えていたから。
閉じ込められた4人もただの壁ではないことがわかっていた。
「今一度改めて、かつて捜査官だった貴方がこのような事件を起こすとは驚きもそうですが、落ちるところまで落ちましたね」
時光は皮肉混じりに嫌なことを一つ達人にぶつける。
「言いたいことはそれだけですか?」
「本当であれば聞きたいことが山のようにあるんですがね」
「それは私を倒してから言っていただきましょう」
互いに言葉で牽制して再び時光から動き出し、繰り出す攻撃パターンを変えながら達人に攻め入る隙を与えず仕掛けに入る。
僅かながら達人の動きに緩さが見えた時、
「蛇炎!」
テニスのフォアハンドのフォームから放たれる鋭い軌道の炎を飛ばし達人にくらわそうとするが、
「剛岩壁!」
一瞬にして断崖絶壁の岩の如く固い壁が達人の目の前に展開され時光の攻撃が防がれる。
しかし時光はすかさず、
「炎斬波!」
刀を斜めに振り十字の軌道で先ほど仕掛けた攻撃より力を加え壁を粉砕して次の攻撃を仕掛けようとする時、
「怒流岩!」
達人は手を合わせ砕かれた多くの岩を利用し時光に仕掛ける。
時光は怯むことなく避けたり切り落としたりするが、
「ぐううううっ!」
あまりの数の多さに裁き切れず攻撃を受けてしまい後方に飛ばされる。
それでも上手く受け身を取り素早く態勢を整え、
「炎漸裁真・刻!」
両腕で横に薙ぎ払うように全部の力を使い切る怒涛の勢いで達人に攻めかかる。
「鬼殿岩!」
襲い掛かって来る攻撃を通してはマズイと達人も負けじと最大級の壁を展開して辛うじて防ぎ切るが大きな穴が空き崩れ落ちる。
「まさかこれほどとは…」
(このまま長引けばマズイな…)
繰り出す攻撃をほぼ全て防がれて時光は内心そう呟く。
「森園君、貴方は一体何のために戦っているのですか?」
「いきなり何を…」
達人からの質問に戸惑う時光だが達人は構わず話を続ける。
「私もかつて、今の貴方くらいの頃に似た意思を持っていました。しかし結果として壮大な事件の数々を前にしたら救えない命や解決出来ない事件が多かった。現在でも溢れている事件と向かい合う覚悟はありますか?」
今までよりも圧力のある言葉に時光は一考して答える。
「権藤さん、貴方の過去に何があったか存じませんが俺はこの組織に入った時から、いいや組織のことを抜きにしても降りかかる事件と向かい合う覚悟は出来ていますよ。たとえ過去に事件を解決に導いた人が相手だとしても!」
「戯言は私に勝ってからにしましょうか!――轟旋禅岩!」
「しまっ――」
一瞬の隙を達人は見逃さず、足元から多くの岩の弾丸が時光に襲い掛かる。
回避することが出来ず刀を構え、咄嗟に横に飛び逃れる。
急所は辛うじて免れたもののダメージとしては相当なものである。
立ち上がろうと息を切らしながら構える時光を見てメンバーは、
「「トキちゃん・トキ君」」
「時光クン!」
「先輩!」
声を盛大にして時光の勝利を願うしかなかった。
「さあ威勢よく私に挑んでこの程度ですか?」
冷ややかに見捨てるように言う達人に時光はただ睨みを利かせることで精一杯である。
攻撃に対処し切れず気持ちが折れかける時だった、
「先輩諦めないでください!今その人を捕獲出来るのは先輩しかいません!」
恵が大声で時光に呼びかけ立ち上がってもらうように必死になる。
「恵さん…」
ポツリとそう呟くと、
「やれやれ、耳障りなので黙っていただきますよ」
達人は視線を恵の方に向けて散乱している岩を恵の足元に乱れ打ちした。
「きゃっ!」
「「メグミちゃん!」」
「大丈夫かい!」
口を揃えて志穂と美穂が恵の身体を支え、舞香が庇うように恵の前に立つと続けて舞香が達人に強く訴える。
「無抵抗の人に対して貴方は平気で酷いことをするのですね!」
「人が真剣に対峙している中、口出しされては迷惑なのですよ」
口調こそ静かだが怒気が込められて蹴落とされそうな雰囲気を醸し出している。
それを見た時光がピクッと反応して達人を更に強く睨みつける。
「歴代の捜査官は短気で気に入らないことがあるとすぐに人を痛めつける趣味を持っている人たちばかりですか?」
時光の非難の言葉に達人は反論する。
「周囲から浴びせられる否定的な言葉や、まるで人を潰しにかかるような言葉は誰だって嫌なものです。貴方もそうではなくて?」
「否定はしません。しかし人の前でやるようなことではない!」
満身創痍になりながらも時光は今まで以上の力で攻撃を仕掛ける。
「蛇炎!」
「懲りずに…。剛岩壁!」
やや呆れながらも岩の壁を展開して防ごうとするが、
「なっ⁉」
壁が粉砕されても攻撃の勢いが止まらず達人に向かって飛ぶ。
「はあああっ!」
「くっ!」
時光が勢いをつけるとその迫力に押されて達人は躱そうと身体を捻る。
攻撃はあと少しのところで当たらず掠る程度となる。
「あともう少し…」
「危ないところでした。まさかここまでとは」
気を緩めることなく次の攻撃に備えて呼吸を整える時光に、肝を冷やして構え直す達人の様子が見られる。
「炎斬波!」
「ならば、鬼殿岩!」
十字の軌道で勢いよく飛ぶ斬撃に最大級の壁が立ち塞がるが、
「くっ!これもまた…」
達人の顔が苦悶となりつつある。
分厚く頑丈な壁にも関わらず勢いが持続して貫通しそうな威力だからである。
その勢いを必死に殺そうとするが、なかなか抑えることが出来ず壁がゴリゴリと徐々に大きく音を鳴らせてやがて、
「ぐううううっ!」
壁が崩壊し、その勢いのまま斬撃が達人に直撃する。
ここで倒れるわけにはいかないと後方に飛ばされるも、力を入れて堪える。
「ふう、ここまで追い込まれるとは少々侮っていました」
「油断するとこうなることくらいわかっていたのでは?」
ここまできて体力とダメージに変動が起きてもなお、時光の不利は否めなかった。
それどころか、このまま本当に戦闘が長引けば達人を捕獲することが出来ずメンバー全員がやられてしまう可能性が高かった。
それでも時光は達人に向かって行く姿勢を崩そうとしなかった。
「いずれにしてもよく私の相手をしていただけましたが、その残り少ない体力と魔力で勝とうと考えていたら私もなめられたものですね」
「長引くのが嫌であればお望み通り早々に終わらせましょうか?」
「出来るものなら」
お互い今まで以上に集中を高め構え直すと少し沈黙が生じる。
そして先に動き出したのは時光の方からである。
「はあっ!」
刀を地に刺すと同時に姿を消した。
「っ!」
達人は目を見開き驚くが焦らず、その場で冷静を保ち迎撃態勢を整えていると、
「炎舞双拳!」
いつの間にか背後をとられて両腕に炎を纏った時光が殴りに掛かって来る。
「ぐうっ!」
咄嗟に反応して腕を交差する形で防ぐが浅く後方に飛ばされ、返り討ちにしようとするが、
「虎炎双牙!」
またしても達人の背後をとり、鉤爪状の攻撃を炸裂させる。
「ぐああっ!」
先ほどの攻撃よりも手応えがあり、達人は対応することが出来なかった。
「そんな…。何処にそんな力が備わっているのか…」
表情にも焦りが滲み出てきて理解が追いついていない様子である。
「先輩…」
「「凄い…」」
今までとは比べものにならない素早い攻撃を見た恵、志穂、美穂が呆気にとられる。
「始まったようだね」
「舞香さんどういうことですか?」
「見ていればわかるよ」
恵の問いに舞香は多くは語らず目の前で起きている出来事に集中するように促す。
気がつけば少しずつ時光が達人を追い込んでいる姿が見られる。
「さて権藤さん、まだ続けますか?」
「減らず口を…。怒流岩!」
手を合わせて砕かれた岩を時光に向かって飛ばすが、
「鳳炎ノ翼!」
両腕に纏った炎が不死鳥の翼へと変化させ降りかかる岩を一掃させた。
「そんなことが…」
「権藤さん、今回の事件で貴方は人を傷つけ過ぎた。俺はそれを許すわけにはいかない」
「勝ち誇るにしては早すぎです。――轟旋禅岩!」
もう一度流れを取り戻そうと岩の弾丸を時光に飛ばす。
「炎帝断罪!」
時光は手を合わせて鎧騎士を召還させると、その鎧騎士は手にしている炎を纏った大剣で岩の弾丸を一振りで焼き払う。
「もう貴方では俺には勝てませんよ、権藤さん」
「ここへきて更になめられたものですね。なら――砕破業岩!」
岩の巨兵を召還させ時光を仕留めにかかる。
「その巨兵打ち崩します!」
「簡単には行かせません!」
鎧騎士の大剣の一振りと巨兵による大拳が激突する。
「「きゃああああ!」」
「時光クン!」
「先輩!」
大きな一撃による影響で衝撃波と砂煙が発生して辺り一面が見えなくなる。
条件反射で目を瞑り衝撃波と砂煙から身を守ろうと構えながら、口を揃えて叫ぶ志穂と美穂に、舞香と恵は時光の名前を叫ぶ。
しばらくして落ち着いてきたところで4人は状況を確認すると、時光と達人の両者は立っている状態だった。
ただ2人がそれぞれ召還した鎧騎士と岩の巨兵は消えていなくなっていた。
「しつこいですね。そういう人は嫌われますよ」
「それはこちらの台詞ですよ権藤さん。言ったはずですよ、俺は貴方を許さないと」
お互いに息が上がっているが差は歴然としていた。
まだ余裕を持って攻撃が仕掛けられる達人に対して、あと一発仕掛けられるかギリギリの時光である。
「ここまで痛めつける趣味はなかったのですが、この際何処までも苦しみを味わっていただきます」
「そうですか。出来るといいですね」
時光がそう言うと、ニイッと不敵な笑みを浮かべて達人に揺さぶりを入れる。
達人はそれにつられて攻撃を仕掛けるが、時光は後方宙返りで躱し、刀が刺さっているところで着地してすぐに刀を抜くと宣言する。
「これで終わりです」
「させません!」
そう言われた達人が全力で迎撃しようとする刹那――
「そ、そんな一体…」
気がつけば膝から崩れ落ちて力が入らなくなり倒れる自分の姿を信じられずにいた。
「瞬身輪刀断」
達人が気付く時には既に背後に立ち、刀を収めて静かに口にする。
同時に今まで見えない壁によって閉じ込められていた4人とビル全体に展開していた見えない壁も消えてなくなっていたところを見て達人を封じ込めたことが確認出来た。
「「トキちゃん・トキ君!」」
「時光クン!」
「先輩!」
閉じ込められていた4人が時光の元へ駆けつけて来る。
「皆…。良かった」
ホッとして倒れそうになるが恵が抱き止める。
「先輩、お疲れ様でした」
「「本当にありがとう」」
「時光クン、よくやったね」
少し泣きじゃくりながらも礼を言う志穂と美穂に、恵と舞香は労いの言葉をかける。
落ち着いたところで恵が時光を座らせるように体を支える。
「さて権藤さん、今回の騒動を起こした動機と若弥を痛めつけた理由に関して話をしていただきますよ」
「わかりました。ですが私が話す前からもう薄々ご自身で気づかれているのでは?」
「……」
達人の言葉により自分の中で疑惑と思っていたことが確信へと変わった時だった。
戦闘の意思がなくなりフェンスに括りつけられた若弥を解放するがそれは幻だった。
時光の中で信じたくなかった出来事が最悪の形となってしまった。
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2025年初冬、ウクライナ戦役が膠着状態の中、ロシア連邦東部軍管区(旧極東軍管区)は突如北海道北部と佐渡ヶ島に侵攻。総責任者は東部軍管区ジトコ大将だった。北海道はダミーで狙いは佐渡ヶ島のガメラレーダーであった。これは中国の南西諸島侵攻と台湾侵攻を援助するための密約のためだった。同時に北朝鮮は38度線を越え、ソウルを占拠した。在韓米軍に対しては戦術核の電磁パルス攻撃で米軍を朝鮮半島から駆逐、日本に退避させた。
その中、欧州ロシアに対して、東部軍管区ジトコ大将はロシア連邦からの離脱を決断、中央軍管区と図ってオビ川以東の領土を東ロシア共和国として独立を宣言、日本との相互安保条約を結んだ。
佐渡ヶ島侵攻(通称サドガシマ作戦、Operation Sadogashima)の副指揮官はジトコ大将の娘エレーナ少佐だ。エレーナ少佐率いる東ロシア共和国軍女性部隊二千人は、北朝鮮のホバークラフトによる上陸作戦を陸自水陸機動団と阻止する。
※このシリーズはカクヨム版「サドガシマ作戦(https://kakuyomu.jp/works/16818093092605918428)」と重複しています。ただし、カクヨムではできない説明用の軍事地図、武器詳細はこちらで掲載しております。
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。
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