在地球異星人犯罪特別警察ーa.s.c.pー

殿下

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事件ファイル1 勝者がすべてを手にする

第二話

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事件発生から1週間後、伊波は焦りを感じていた。現場に残された凶器、爪に書かれた暗号、そして現場近くで死亡していた人物。多くのヒントが残されているにもかかわらず、捜査は全く進展を見せていない。この犯行が異星人移民によって引き起こされたものなのか、地球人による犯行であるかすらも判明していない。


伊波は、薄暗いバーのカウンターで氷の入ったグラスを傾けながらアルコールがもたらす高揚感に身を任せていた。店内ではお抱えのピアニストが、気分が悪くなるほど甘くLauraを奏でており、カップルや老夫婦たちがその音色に酔いしれている。


「お隣の席、空いてるかしら?」
伊波は声が聞こえた方向に振り向いた。そこには紫色のドレスに身を包んだ艶やかで美しい女性が佇んでいる。女性は伊波の言葉を待たずして、カウンター席に座った。


「お兄さん、このお店にはよくいらっしゃるの?」
「まあ、悩み事を抱えてくるときはいつもこの店に来るよ。」
「そうなのね。私も現実から目を背けたくなった時、お酒を飲みに行くわ。このお店は初めてだけど。」
「そうか君も同じように、何か思いつめることがあったみたいだね。」
「それはそれは色々なことがあったわよ。あなたの返事を待たないで、隣の席に座って話しかけるくらいのことはね。私の名前は、ヤー・チャット・ラーよ。あなたの名前は?」
「伊波哲司、よろしく。」
そう言葉を交わすとと二人は、ウイスキーが入ったグラスをカチンと鳴らした。


伊波はヤー・チャット・ラーの目を見つめ、彼女の名前の意味を考えた。それは地球には存在しない名前だった。


「ヤー・チャット・ラー、珍しい名前だね。どこの星の生まれなんだい?」
「私はギル星の生まれなの。私の名前はギリアンで『夜を語る者』を意味するわ。」
彼女は微笑みながら答えた。


伊波は彼女の声と姿に心を奪われた。彼女はただの通りすがりの美女ではない。彼女には何か特別なものがある。彼はもっと彼女について知りたいと思った。


「そうか、夜を語る者か。ヤー、君の名前は素敵な意味を持っているんだね。君となら今夜二人だけでずっと夜を語り合っていたいよ。」
「そんなクサい口説き文句を言われたのは初めてだわ。でも、哲司と夜を語り合うのならきっと嫌なことも忘れられるかも。」


バーの照明がほんのりと暖かい光を放ち、二人の間には心地よい沈黙が流れた。伊波はヤー・チャット・ラーの目を見つめながら、彼女の言葉に耳を傾けた。


「この星に来たのは、新しい生活を始めるためよ。私が住んでいた星は地球のように豊かじゃない、地球に来れば余裕がある暮らしができると思ってたけど......夢を見すぎていたようね。姿かたちはほとんど地球人と同じなのに、異星人に対する偏見や差別は日常茶飯事だし。地球人にしてみれば、私たちのような異星人は使い捨ての駒でしかないのかも。私、酔ってるわね。少し話が重くなりすぎちゃった。」


ヤーは俯きながら語った。その艶やかで少し暗い影があるヤー・チャット・ラーの姿に、伊波はより心を奪われた。


彼女は氷水をグラスの半分まで飲むと話をつづけた。
「ギル星人はね、夜空を見上げて未来を語るの。でも、この星にはそれがないみたい。ここに住む人々は、過去に囚われて未来を見失ってる。」


伊波は彼女の言葉に考え込んだ。確かに、地球人は過去の出来事に縛られがちである。しかし、彼女の言葉には希望が感じられた。


「ヤー、君の言う通りだ。私たちは過去に縛られすぎている。でも、君のような人がいると、未来に目を向けることができるかもしれないね。」


ヤー・チャット・ラーは微笑みを深めた。
「哲司、私たちギル星人は、地球人とは違う視点を持っているの。私たちの文化では、額にある第三の目を開いて星を眺めることが習慣なのよ。そして、未来を想像することがとても重要なの。」


伊波は彼女の言葉に心を動かされた。彼は捜査のことを一時忘れ、ヤー・チャット・ラーとの会話に集中した。彼女の存在が、彼の世界を少し明るくしてくれたように感じた。


「ヤー、君と話していると、何か新しい発見があるような気がするよ。君は、春を告げる風のように新たな季節をもたらしてくれる。」
「また、クサいセリフね。そんなことを言ってるとモテないわよ。でも嫌いじゃないわ。もう少し飲みましょ、哲司。」


伊波とヤー・チャット・ラーは、バーの外に出た。夜の街は静かで、星々がきらめいていた。二人はしばらく歩きながら、互いの星について話をした。ヤーはギル星の美しい夜空について熱く語り、伊波は地球の多様な文化と歴史を紹介した。


ホテルに着くと、二人は部屋に入り、窓から見える夜景に見とれた。部屋に備え付けられた旧世紀のオーディオから、トミー・ドーシー・オーエストラのI’m Getting Sentimental Over Youが流れると、二人はゆっくりと踊り始めた。ヤー・チャット・ラーは伊波の腕の中で安心感を覚え、伊波は彼女の温もりに包まれた。


「哲司、今夜はありがとう。こんなに心が安らぐのは久しぶりよ。」
「ヤー、君と過ごす時間は特別だよ。君の話はいつも新鮮で、心に響くんだ。」
伊波は優しく答えた。


二人は夜通し話をし、お互いの過去や夢、そして未来について語り合った。それはまるで、異なる星から来た二人が、地球という新しい星で出会い、新しい物語を紡ぎ始めたかのようだった。


朝が来ると、ヤー・チャット・ラーは伊波に感謝のキスをした。彼女は新しい日を迎えるために下着を身に着け始める。伊波はベッドの上から彼女の姿を見つめながら、昨夜の出来事が夢ではなかったことを確かめるように、自分の心の中で感じたことを思い返した。


テーブルの上に広げられた彼女の荷物に目を向けると、ギル星に住んでいるヤーの家族写真が目に入った。その写真の中には、犯行現場に残されていた記号と一致するマークが写し出されていた。伊波はその写真に目を奪われた。彼の心は高鳴り、捜査官としての直感が働いた。彼はヤー・チャット・ラーにそのマークについて尋ねることにした。


「ヤー、このマークは何?」と伊波は静かに尋ねた。


ヤー・チャット・ラーは少し驚いた表情を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻した。「それは私たちギル星人が所属している部族を示す紋章よ。なぜ聞くの?」


伊波は慎重に言葉を選んだ。
「国会議員が殺された事件は知っているだろう。実は、このマークが犯行現場に残されていたんだ。もしかしたら、これが事件に関連しているかもしれない。」


ヤー・チャット・ラーはしばらく沈黙した後、深いため息をついた。
「私たち異星人は、地球での新しい生活を始めるために多くの困難を乗り越えてきたの。でも、地球人が持つ偏見は根強い。このマークが事件に関連しているとしたら、それは私たちギル星人ひいては異星人にとって大きな問題になるわ。」

伊波は彼女の言葉を真剣に聞いた。彼はギル星人が事件に関係している可能性を考え、さらなる調査が必要だと感じた。


「ヤー、君の協力が必要だ。事件の解決には、君の知識が鍵を握っているかもしれない。」


ヤー・チャット・ラーは伊波の目を見つめ、静かに頷いた。
「わかったわ。私もこの事件が解決することを望んでいる。私たち異星人移民にとっても、平和な生活を取り戻すためには、真実が明らかになることが大切なのよ。」


国会議員戸田氏殺害事件の捜査は新たな局面を迎えた。
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